合同訓練
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先ほど焦凍くんがいた場所に戻ろうと空中を移動していると急にぶわりと熱い空気が頬を掠めた。
「これ、炎……?」
氷が効かなかったから攻撃を左に切り替えたんだ。ここまで熱気が伝わってくるなんてすごい威力。でもこれ多分鉄哲くん仕様だよね。他の人だったらこの炎に耐えられるわけないし多分一瞬で片がつく。向こう一帯で炎上がり続けてるからもしかしたらそんなに状況良くないのかも。これだけ熱いと尾白くんも加勢行けてない可能性の方が高い。
どうしたものかと頭を捻っていたら何かが後ろからすごいスピードで駆け抜けた。と思ったけど私に気づいたのか戻って来てくれる。
「飯田くん!状況は?」
「マッドマンに逃げられた。轟くんは炎の中でいまだ交戦中だ。尾白くんが障子くんの後を追うのが先ほど見えた!」
「わかった。私とりあえず尾白くんたちの方行くから飯田くん向こうお願いしてもいい?」
「ああ!マッドマンがどこに潜んでいるかわからんから気をつけたまえ!」
「ありがとう!」
牢に行ってる間に色々動いたらしい。飯田くんもいつの間にか地面から抜け出してる。炎の中飛び込むなら私の方がいいかなって考えも浮かんだけどここは機動力抜群の飯田くんにお願いしよう。焦凍くんと鉄哲くんはどちらかが倒れたとしてもお互いすぐに投獄できる手立てがない。飯田くんが駆けつければ救出も投獄も瞬時にできるだろうしきっと事態は好転しやすくなる。
もう一つの理由は角取さん。彼女は確か飛べるはず。互角に戦うなら恐らく私が適任だ。尾白くんと障子くんが角で拘束されてそのまま牢に入れられる可能性もある。こちらのチームが誰も投獄されずに彼女の動きを封じるためには尾白くんたちの方に加勢に行くのが最善手なはず。私は飯田くんに三人が戦闘しているおおよその位置を聞いたあと、骨抜くんを警戒しながら急いで空中へ飛び上がった。
言われた通りの場所に向かえば尾白くんが角取さんの角を抑え込んでる最中だった。彼女の体も動けないように尻尾で固定してる。
「あれ、私必要なかった?」
「みょうじ。いや、この後の投獄のことを考えればいてくれるのは助かる。」
私に気づいた障子くんが手招きしてくれる。近くに寄ると尾白くんは角取さんを拘束しながらも申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめん、俺轟の加勢入れなくて……。」
「あの炎じゃ仕方ないよ。」
慌てて頭を横に振り無理難題を押しつけてしまったことを謝罪した。あんな中に入るなんて、耐久力のある個性の鉄哲くんじゃなければまず無理だ。B組チームもそれがわかってて鉄哲くんを焦凍くんに向かわせたんだろうし。
「今から牢屋に行くんだよね?私やるから二人は焦凍くんのとこ行ってあげて。多分飯田くんもいるはずだから。」
「わかった。」
角取さんの周りの空気を圧縮させるため尾白くんに退いてもらおうとしたその時、足元がドロリと崩れた。咄嗟に両手で風を出して地面から抜け出る。
「骨……しまっ……!」
「角取返してもらうよ。俺ね、意外と友達想い。」
尾白くんが彼の存在に気づいて声を上げた時にはもう二人の体は半分沈んでいた。何とか助けようと角取さんを拘束してる尾白くんの手を引っ張る。
「まァみょうじさんには効かないよね。でも女の子一人の体重なら軽い。」
「!」
尾白くんを助けるのに必死で地面に近づきすぎた。下から骨抜くんの腕が伸びてきてがしりと足を掴まれる。どうやらもう一方の手で地面の下に沈んでいる角取さんを助けようとしてるらしい。ずぶずぶと底なし沼に引きずられる中抜かりないなと舌を巻く。
「強……過ぎこのオオ!」
私の体が胸まで浸かったところで尾白くんの必殺技尾拳・沼田打旋風がさく裂した。ぐるぐると回された尻尾の勢いで旋風が起こり骨抜くんが吹き飛ばされる。拘束のなくなった私は尾白くんの手を掴み素早く上に飛んで這い上がった。障子くんもチャンスを逃さず上のパイプへと手を伸ばし地面から抜け出る。
「助かった尾白!」
障子くんが無事パイプを掴んだのを見て尾白くんの体を彼に預ける。もちろん角取さんは尾白くんがしっかり尻尾で拘束してくれてる。だけど、彼の手を掴んだまま体を引き上げたことで角取さんの角は自由になってしまっていた。
「先、行ってて下サイ骨抜さん‼」
いつの間に飛ばしていたのか二つの角が尾白くんの尻尾を突き刺した。
「ちょっと待っ……!」
私は急いで骨抜くんに手を伸ばしたけど彼が地面の中に消える方が早かった。ここで彼に逃げられたのは痛い。
「っ……刺しても緩まな、」
「緩まなくて大丈ブね。このまま4本パワーで牢まで直行でーす!」
尾白くんは痛みに耐えてくれたけど角取さんは拘束されてるのを逆手に取った。飛んできたもう二本の角と一緒に自分ごと尾白くんを移動させる。なんてスピードとパワー。一瞬で障子くんの腕の中から尾白くんが消えた。追いかけようとした時にはもうどこにも二人の姿は見えなかった。
悔しいけど制限時間もある。何しろあの速さだ。尾白くんはすでに投獄されたと考えて動いた方がいいだろう。今彼を取り返そうと敵の陣地に乗り込んでいけば格好の餌になりかねない。
「じきに角取も返ってくる。みょうじ、轟の方に行け。」
「え、でも角取さん相手なら私の方が。」
「いや、お前の方がすぐに動ける。まだ炎の熱が収まっていない以上向こうの戦況が苛烈していると考えた方がいい。今の轟ならみょうじが行った方が連携もとれる。」
障子くんも投獄されてしまうんじゃないかって心配がよぎる。でも言われた通り焦凍くんが炎を軸に戦ってて一刻を争う状況にいるなら確かに私の方がいい。空中ならいくらでも戦い方あるしゴリゴリの近接挑む必要ないはず。彼を一人残していくのは気が引けたけどきっと大丈夫。障子くん強いもんね。
「わかった。障子くんも気をつけてね。」
「ああ。」
彼と別れて炎が上がってる方に急いだ。それにしてもすごい炎。温度もぐんぐん上がってる。これはまさに、この前のエンデヴァーさんを思い出させるような。
いた。焦凍くんの姿を捉えるとやっぱりまだ鉄哲くんと殴り合ってる。お互い耐久限界もあるだろうにビリビリするような気迫だ。
「しょ……とくん!」
燃え盛る中でようやく焦凍くんに近づこうと思ったら次の瞬間彼の体がぐらりと傾く。嘘、まさかこのタイミングで骨抜くん。周りの地面はどんどん柔化されていき、土台のなくなった建物が倒壊し始めた。大きなパイプが上から落ちてきて焦凍くんの頭に直撃する。体も押しつぶされてしまい焦凍くんはあっという間に身動きが取れなくなった。
「固める。」
その言葉を聞くより先に体が動いた。何より走ってくる彼の姿が見えたのだ。
「今度は‼外さないぞマッドマン‼」
飯田くんがとんでもないスピードで骨抜くんの顔面に蹴りを入れてる間に、私はさっと焦凍くんの体をパイプの下から引き抜く。
「ありがとう!」
「うむ!みょうじくんなら俺に気づいてくれると思っていた!」
腕の中の焦凍くんは気を失ってる。さっきの衝撃もあるんだろうけど個性の使いすぎが大きいのかな。とにかく安全な場所まで運ばないと。
「私移動させてくる。」
「いや!俺が行こう!速さでは負けない!」
戻ってくるのも飯田くんの方が速いか。お任せしよう。焦凍くんを預けると飯田くんは一瞬で加速した。
「てめっ……待っ……逃げんじゃねェー‼」
「慎め悪党!救助が先決‼」
鉄哲くんの制止に耳を貸さず焦凍くんを安全な場所まで運んでくれる飯田くん。相変わらず役になりきるなあ。清々しいほどヒーローだ。
「鉄哲これ押せ!」
くるりと向き直って鉄哲くんとどう対峙しようか考えてたら気絶したとばかり思っていた骨抜くんが急に叫んだ。嫌な予感がして飯田くんたちの後を追いかける。
案の定予感は的中で大きな建物がまるごと私たちの方に降ってきた。もしかして建物ごと柔化させたの。意識飛ぶ間際でそんな力技仕掛けてくるなんて。飛びのいて空中に逃げれば飯田くんが建物に巻き込まれながらも焦凍くんを放り投げたのがわかった。慌てて飛んでいきその体をキャッチする。
「な、なにこれ。」
焦凍くんをそっと地面に下ろして周りを見れば、四人とも倒れていた。骨抜くんと鉄哲くんも限界だったらしく焦凍くん同様気絶してしまってる。
「痛っ!」
「飯田くん!」
唯一意識のある飯田くんの元に駆け寄るけど思いっきり建物の下敷きになっていて私じゃとても引っ張り出せそうにない。無理に助け出して怪我をさせてしまうのも危険だ。
「俺のことはいい……!障子くんの方に……轟くんを、頼む!」
「……わかった。」
見捨てる形になってしまうことに抵抗があったけど試合はまだ終わってない。何より私が判断を誤ってA組チームが負けてしまうのは嫌だ。飯田くんの託すような目をしっかり受け取り、焦凍くんを抱き上げその場を後にした。外からは死角になっている物陰に彼の体を下ろして急いで加勢に向かう。
「障子くん!」
戦闘中の二人を見つけすぐに飛んで行った。説明してる余裕もなくて簡潔に言葉を続ける。
「さっき炎上がってた方!投獄よろしく!」
「承知した!」
支離滅裂なはずなのに理解が早くて本当に助かる。意味を汲み取ってくれた障子くんはくるりと反対に向きを変えたけど、当然私たちの会話を聞いていた角取さんがそれを許してくれるはずはない。
「行かせマせん!」
「ごめんね!」
片腕で彼女の角めがけて威力の高い風を送り、もう一方の手で障子くんの背中に勢いのある追い風を足した。これでちょっとは彼の時間短縮になっただろう。
障子くんが二人を牢に入れてくれれば投獄数3対1で勝てる。そのためには私がここで粘らなきゃね。
「みょうじサン優しい人。私の顔避ケましたネ?でも優シすぎるノ命とリヨ!」
「っ!」
角取さんの角がこちらに向かってきて咄嗟に粉砕してしまった。え、これ大丈夫なやつだっけ。もしかして一生生えてこなかったりする?気にしてる余裕なんてないけど変な汗出てきた。
「あとで色々謝る!」
「Wow!」
彼女相手によそ見なんてしてられない。すぐに直線状の風を角取さんに放つけど避けられる。片手ずつで連射しても素早い彼女にはなかなか当たらない。こうなったら。
「同じ手は通用シマセン!」
「そうかな。」
わざとさっきと同じように彼女本人を狙って風を放った。うん、そっちに避けるよね。予測していた場所にちょうど彼女が動いてくれて私はここしかないと顔面を狙った。
「っ!」
ようやく直撃してモロに食らった彼女の体がぐらりと傾く。私は彼女が地面に落ちる前にその体を抱きとめた。怪我しないように気をつけたけど女の子気絶させちゃったなあ。あとで全力で土下座しよう。
彼女を横抱きにしたまま牢へと向かう。制限時間の20分も間近だろうから急がなきゃ。びゅんびゅん飛びながら自陣が見えてきてホッとする。だけどその瞬間、腕の中から聞こえるはずのない声が私の耳に届いた。
「ダカラ優しすぎるト言ったンです。」
ギュン、と自分の体が後ろに引っ張られた。角取さんいつの間に目覚ましたんだろう。いやもしかして最初から気絶してなかった?嘘でしょ、体ごと拘束しとけばよかった。
後悔先に立たずで為す術もなくあっという間に牢屋に入れられる。それと同時に試合終了のアナウンスが響いた。
『20分経過‼第3セット終了‼投獄数3対2‼人数差のハンデを考えて、引き分けだ!!!』
うー、悔しい。目が合った尾白くんと二人で項垂れる。いやでもちょっと待って3対2?ってことは障子くんあの二人投獄するの間に合ったのか。良かったあ。
気絶者多数につきこの試合の反省会も後回しになった。怪我をしてない私が保健室について行くわけにもいかず待機場所へと戻る。色々謝らなきゃいけない人がいるなあなんて。引き分けという試合結果も相まって気持ちは重く沈んでいた。