合同訓練
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「えー、ではステージちょっと移動させまして。次行くぞ!第3セット、準備を‼」
ブラド先生に促されて私たちはステージへと移動することになる。ぞろぞろとみんなの後をついて行っていると常闇くんに呼び止められた。
「轟、みょうじ。」
「常闇くん、喉大丈夫?」
「ああ、問題ない。情けない姿を見せた。後は託したぞ。」
彼の目は真剣そのものだったけど意図がわからなくて焦凍くんと顔を見合わせる。
「何で俺たちに。」
「ホークス、エンデヴァー、ベストジーニスト。我々先の戦いの英雄に師事を仰ぐ者故に、No.1・No.2・No.3の名を背負う責務。」
「……ああ。」
「なるほど。」
そういうことか。私はインターンファットさんのところだったけど、ジーニストさんにも大事なこと色々教わってるもんね。まあここで父の名前が出てこないあたり複雑な心境にもなるけど。やっぱりクラスのみんなは何か察してくれてるのかもしれないなあ。瀬呂くんと響香以外の前でほぼ家族の話したことないし。
とにかく常闇くんの気持ちは受け取った。頑張ってくるよと拳を見せれば彼も納得したのかモニターの前に帰っていく。すぐに先を行くみんなを追いかけてステージに向かうけど、なんだか焦凍くんの元気がない。さっきエンデヴァーさんの名前が出たから昔のことを思い出してしまったのかもしれない。私も先の戦いの英雄として父の名前が出ていたら今の彼みたいな表情になってただろうしなあ。以前より思い詰めた顔はしなくなったけど、やっぱり心配になって焦凍くんの肩をそっと叩いた。
「大丈夫?」
こちらに視線が向いたかと思えばふっと表情を緩められる。よかった。思い悩んでるわけじゃなさそう。一安心していたら逆隣の彼も焦凍くんの違和感に気づいていたようで溌溂とした声を上げる。
「ああ心配だ!随分と怪訝な顔をしているぞ‼」
「そうか?」
「うん!何か悩みでも!?」
「何でもねェ。ありがとな。」
まっすぐな言葉を受け止めながら気にしないでくれと首を振る焦凍くん。よく気が付くクラスメイトに尾白くんは感心したように驚いていた。
「よくわかるなァ。轟表情そんな変わらないからわかんなかった。幼馴染のみょうじさんならともかく飯田観察眼鋭いね。」
「委員長たる者クラスの皆を見て悩む者には手を差し伸べるんだ!」
いつも以上にハイテンションな飯田くんはどこか楽し気。障子くんも彼の高揚ぶりに首を傾げていた。聞くと最近お兄さんの体調の経過が良好らしい。
「俺もまたインゲニウムの名を背負う者。皆を見るということは皆からも見られてるということ。欠番ではあったが俺も体育祭3位!皆に見せてやろう!継ぐ男の気概を‼」
ヘルメットを装着しながら気合十分の飯田くん。さっきの常闇くんとの会話が聞こえていたんだろう。彼にとっての英雄はなんと言ってもお兄さん。インゲニウムの意思を継ぐ者として負けられないと意気込んでいるのが見て取れた。我らが委員長が鼓舞してくれたことによって私たちの士気も上がる。
自陣に到着すればすぐに試合は開始された。焦凍くん・尾白くん・障子くん・飯田くん・私のA組チーム対回原くん・骨抜くん・角取さん・鉄哲くんのB組チーム。私はとりあえず1分間牢屋の前で待機になっている。
「行ってらっしゃい、気をつけてね!」
はじめは何もできないのでとにかく応援だけでも届けようとみんなに笑顔で手を振れば焦凍くんがじっと私を見つめた。何だろうと首を傾げる。
「なんかいいなそれ。毎日聞きてえ。」
「試合終わってからにしてもらっていい?」
私に手を伸ばそうとした焦凍くんを尾白くんと障子くんが引きずっていった。試合前でも変わらずゴーイングマイウェイでちょっと安心するなあ。おかげで上手く肩の力抜けたかもしれない。
『1分経過!これよりみょうじが加わる!』
ブラド先生のアナウンスが流れて私はその場を走り出した。周りを警戒しつつとにかく状況把握。建物の陰に隠れながらふわりと空中へ飛ぶ。
え、なんか向こうの方建物めちゃくちゃになってない?まさかみんなあそこにいるんだろうか。罠かもと思ったけどB組チームに鉄哲くんがいたことを思い出す。うーん、彼なら確かに正面戦闘挑んでくるかも。あっちのチーム索敵できそうな人いないし「小細工無用、俺は逃げも隠れもしないぜ」みたいなノリで直球勝負仕掛けそうだもんなあ。ある意味一番の脅威。
それにしてもあんなに広範囲に建物壊してたら絶対あとでブラド先生に怒られるよね。さっきも拳藤さんたち注意されてたし。彼らしいと言えばらしいけど。
とにかく鉄哲くんがあの辺一帯を更地にしてくれてるおかげでこちらも動きやすくなってる。あれなら焦凍くんも周りを気にせず思いっきり攻撃できるし多分みんな正面戦闘を受けて立つはずだ。私もこっそり後を追おう。せっかくまだ誰にも位置把握されてないアドバンテージあるし。有効に使わせてもらわなきゃね。
「あ。」
近くで大きな氷結が見えた。焦凍くん全開だなあ。向こうには柔化が個性の骨抜くんがいるから、その対策として氷で地面を覆う作戦。味方チームの足場確保と相手チームの足止めを一気にやってしまおうという狙いだ。
よし、氷のおかげで焦凍くんたちの正確な位置が分かった。障子くんは彼の後ろにいるはずだし他の二人も近くに隠れてるだろう。B組チームの足止めが成功したなら飯田くんがレシプロで誰かしら拘束してくれてるはず。そう思ってみんなのすぐ近くまで来てみたけど、あれ。なんかちょっと様子がおかしい。もしかしてピンチかも。
氷がドロドロに溶けてる。というかこれは溶けてるんじゃなくて柔化。骨抜くんだ。もしかして氷結で身動き取れなくなる前に対応された?即興なはずなのに反応速すぎ。やっぱり推薦枠は伊達じゃない。
「うわっ‼」
「近辺適当に柔くしといたから足場信頼しない方がいいぜ。」
尾白くんの声が聞こえてそちらを見ればバランスを崩している彼の姿。骨抜くん、私たちの作戦読んで対策してたのかな。いやこれ、やばいかも。レシプロで飛び出そうとしてた飯田くんも居場所ばれてるし私以外全員お互いの位置を把握したことになる。ここから私がどう動くかで戦況変わってくるよね。どうしよ、変な汗出てきた。
「尾白は俺が相手する‼」
足場の不安定なところに留まっている尾白くんに回原くんが突っ込んでいく。それを助けに行こうと飯田くんも動いたけれど柔化によって踏みしめる土台がなくなりそのまま沼みたいになってしまってる地面に落ちていった。
「俺たちの連携を断つ気か……‼おのれ敵狡猾なり‼」
相変わらず設定に入り込む飯田くんに思わず笑いそうになり慌てて口元を抑えた。その間に焦凍くんの後ろに隠れていた障子くんが角取さんの角砲に肩を掴まれ、近くの壁まで移動させられて身動きが取れなくなる。焦凍くんもそれに気を取られて氷を正面突破してきた鉄哲くんへの反応が遅れた。顔と体を掴まれて近接戦を強いられる。
えーと、ちょっと待って。今は尾白くん対回原くん、焦凍くん対鉄哲くん、角取さんに拘束されてる障子くん、骨抜くんに地面に沈められたまま柔化解除されて動けない飯田くんって構図だよね。
混戦すぎて一瞬迷ったけどやっぱり鉄哲くんのところに骨抜くんが加勢に来るのが一番遠慮したいパターン。焦凍くんという戦力を失いたくない。かといって泥仕合になって誰も捕まえられずに引き分けも嫌だ。だったら飯田くんの動きが止められた今二番目に移動速度の速い私がサポートに入るべきなのは。
誰にもばれないようにこっそりとその場を離れ、肉弾戦を繰り広げている二人の元へ向かう。入り組んだパイプの間を潜り抜けていくと回原くんが尾白くんを追い詰めているのがわかった。彼の旋回は相当厄介なようであの尾白くんが防戦一方になってる。
「いなしてるだけじゃ勝てないって知らないのかァ!?」
回原くんの大きい声初めて聞いたかもなんて関係のないことが頭に浮かんだけどすぐに振り払う。今まさに強烈な一撃が尾白くんに入ろうとしていた。急いで足の風力を増し、回原くんの攻撃のタイミングに合わせて二人の間に飛び出す。
「……っ!?」
「みょうじさん‼」
私に驚いて一瞬動きの止まった彼の手を空気圧縮で固定する。この機を逃すわけにはいかない。あれ、そういや足も回せるんだっけ。念のため顔以外は全部拘束させてもらうことにしよう。
「私このまま牢行くね!向こうで焦凍くんが鉄哲くんと戦ってるから加勢行ってあげて!」
「ありがとう!任された!」
尾白くんと別れて若干よろよろしながら牢屋まで移動する。男の子の体重はお茶子ちゃんの無重力がないと正直かなり重い。でも逃げられるわけにはいかないんだよね。回原くんを落としてしまわないようしっかり体を抱きかかえていると、腕の中からバツの悪そうな小さな声が聞こえた。
「……かっこ悪い。」
体を密着させている私ですら聞き逃してしまいそうな呟き。罪悪感でチクリと胸が痛んだ。
鉄哲くんと相対したら絶対正面からの殴り合いになる。だから武闘派の尾白くんにすぐに加勢に行ってもらいたかった。そして誰を最初に捕まえるか考えれば思い浮かんだのは回原くん。本当に申し訳ない話だけど、私を見たら彼の攻撃は一瞬怯むと思った。だからわざと彼の前に飛び出した。実際作戦通りに拘束できたわけだけど、彼の気持ちを利用した自分にヒーローの心はあるのかと問い質したくなるのも事実だ。
「回原くんは、かっこいいよ。」
気まずい空気が流れる中、それでも私は素直に思ったことを口にした。あの時作戦が通用してなかったら多分私も尾白くんと一緒にやられてたし。このままじゃ二人一気に投獄されるのもあり得ると想定したからこそイチかバチかの賭けに出た。私が卑怯な手を使ったのは回原くんが強くてかっこいい証拠だ。
ガチャリと牢の扉を開き、彼を中に入れてから個性を解除する。
「ごめんね、苦しかったでしょ。」
「……いや、平気だ。今は敵なんだから俺のこと心配しなくていいよ。」
優しい彼に罪悪感はどんどん重くなっていく。だけど悠長にしてられる時間もなくてすぐに私は踵を返した。
「……ごめんね。」
急いで空中を移動しながらもう一度呟いた謝罪が彼に届くことはない。私は一つ息を吐いて頭を切り替えたあと戦うみんなの元へと戻った。