合同訓練
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一試合終わって各々反省すべき点を挙げていく。その中で心操くんは教わったことの一割も実践できなかったと悔しさを滲ませていた。いや初戦とは思えないほど十分活躍してたと思うけどなあ。でもその向上心の高さが彼の強みでもある。B組はやっぱり疑心暗鬼に陥って統率が取れなくなったことを指摘されていた。
心操くんに一言かけたかったけど、彼はA組に吠え面かかせると燃えてる物間くんに連れて行かれてしまった。それが皮切りになって次の試合が始まるまで他のチームもそれぞれに作戦を練る。
「どうしよっか。」
「うむ!みょうじくんは開始1分は待機だからな!」
「そうなんだよねえ。」
心操くん抜きの5対4のハンデは最初の1分間誰か一人がスタート位置で待機すること。ちなみに誰を待機させるかは相手チームが指名できる。どうやら広範囲攻撃も可能な上に一応上空から索敵もできる私が邪魔だと判断されたらしく、めでたく選出されてしまった。
「轟を軸に動こうか。」
「俺か。」
障子くんの提案にみんな頷く。やっぱり彼の強い個性は有効に使っていきたい。向こうにも推薦枠の骨抜くんいるし油断できないからね。
ああだこうだと話していたらあっという間に時間が来る。私たちは一度話し合いをやめてモニターを見た。
第二セットは百ちゃん・常闇くん・透ちゃん・青山くんのA組チーム対拳藤さん・小森さん・黒色くん・吹出くんのB組チーム。B組は拳藤さん以外個性見たことないなあ。何だか楽しみ。
『それではガンバレ拳藤第2チーム!START‼』
相変わらずの偏向実況にあちこちからブーイングが聞こえながらも二試合目が始まった。
「拳藤ってB組でどういう立ち位置なん。」
瀬呂くんが何の気なしに聞いて見れば鉄哲くんは待ってましたと言わんばかりに元気に返事した。
「おう‼ありゃあやる奴だぜ!なんたって委員長だからな!」
日常会話とは思えないくらい声が大きい。自慢の委員長について尋ねられたのが嬉しかったのか彼はいつもより饒舌だ。何だか無邪気で可愛い。
「頭の回転早くてとっさの判断も冷静だ!それでいてクラスをまとめる明朗な性格!あれがいなきゃ今頃皆物間に取り込まれてら!B組の姉貴分!それが拳藤一佳という女だ!」
えっへんと胸を張る鉄哲くん。ちょっと癒されるかもしれない。合宿の時も思ったけど拳藤さんのことすごく信頼してるんだろうなあ。
「B組が物間くんに取り込まれてたと思うと恐ろしいね。」
「あれあれあれ!?何か失礼なこと聞こえた気がするんだけどなァ!?」
隣の尾白くんに思ったことをそのまま話せばちょっと離れたところから追及の声が飛んできた。地獄耳だ。まだ何か言ってるけど怖いからスルーしておこう。
「とっさの判断、か。八百万のオペレーションがうまく刺さるかどうか……。」
鉄哲くんの説明に反応した焦凍くんがじっとモニターを見つめる。確かに拳藤さんは百ちゃんと似たタイプ。どちらが勝つのか気になるところだ。
どうやら様子見をする予定だったらしいB組チームはすぐにダークシャドウくんに見つかった。黒色くんが相手を引き受けるようで彼一人だけ離脱する。影を操る常闇くんと黒に溶け込む黒色くん。どっちも似ている個性で面白そう。この後の展開にわくわくしてきた。
ダークシャドウくんでB組チームの位置を把握するはずだった作戦は失敗に終わった。黒に溶け込むことができる黒色くんがダークシャドウくんを乗っ取り攻撃を仕掛けてきたのだ。A組チームの位置もばれてしまった。彼は黒いパイプの中を移動しながらA組チームを翻弄する。
先ほどから何か常闇くんVS黒色くんの構図ができていて、てっきり私も彼は常闇くんを狙っているんだと思ってたけど違った。その心理を逆手にとって彼は背後から忍び寄り青山くんのマントを掴む。そのまま一気に牢獄まで連れて行く気だ。
だけどそれを阻んだのは常闇くんの新技。体育祭で彼と戦った時のことを思い出す。私と彼の違い。私は、飛べる。
「……あ。」
黒影黒の堕天使。必殺技を口にしながら彼は空中を飛んでいた。どうやら常に浮かんでいるダークシャドウくんに体を抱えてもらうことで空中での動きを可能にしたみたい。ネーミングにソワッとしたのは置いておいてこれはすごい。両手も空いてるから動作の自由も利く。モニターを見てたB組も「飛んだ‼‼」と度肝を抜かれていた。
常闇くんが黒色くんのスピードに追いつき無事青山くんを奪還した。百ちゃんがすかさず指示を出し、宙に浮いたまま青山くんのネビルビュッフェがさく裂する。光によって影の形が変わり、隠れていた黒色くんがあぶり出された。それを透ちゃんが捕獲しようと急ぐ。だけど。
「何あれ。」
「キノコ……?」
隣の障子くんと顔を見合わせる。モニターには突然鼻の頭にキノコが生えてしまった百ちゃんが映し出されていた。どうやら小森さんの個性らしい。
あっという間に辺りをキノコが埋め尽くしていく。まさか人間にも生やせるなんて。恐ろしい個性だ。ホラー映画みたい。キノコのせいで黒色くんの姿も見失ってしまい事態は振出しに戻った。
うーん、こんなにタイミングよく黒色くんが逃げる手筈が整うだろうか。準備してたとしか思えない。もしかして拳藤さん、A組チームがダークシャドウくん使ってくるのも黒色くん対策で光使うのも読んでた?だとしたらなんて頭の回転の速さだろう。B組のまとめ役と謳われる彼女の実力を目の当たりにして渇いた笑いが零れた。
『皆さん落ちついて!まずは一かたまりに!』
連携が分断されるわけにはいかないと百ちゃんが叫ぶ。次の瞬間効果音のような声が聞こえて、いきなり巨大な文字がみんなのいる場所に突っ込んできた。
「な、何これ。」
「吹出の個性か。」
「某猫型ロボットを思い出すな……。」
尾白くんの言葉に私も障子くんも同じ道具を思い浮かべた。どうやら吹出くんの個性はコミック。オノマトペを具現化できるらしい。誰もが一度は憧れるような漫画っぽい個性。ちょっと羨ましいかも。
今の衝撃で百ちゃんだけが分断された。ブレーンを切り離して連携を断つつもりだろう。吹出くんの発したジメジメというオノマトペが加湿器代わりになってキノコもさらに勢いを増してる。
「百ちゃん!」
彼女の背後から拳藤さんが飛び出したのが見えて思わず名前を叫んでしまった。一対一になってから確実に力で押し切る。やっぱり拳藤さん容赦ないな。
巨大化した拳藤さんの手を百ちゃんが個性で創造した盾で防ぐ。だけどその威力はかなりのものらしく百ちゃんの体が吹き飛んだ。拳藤さんは考える隙を与えないといった素早さで巨大な拳を次々打ち込んでいく。
「あっという間に有利な状況をつくり出しやがった‼これがうちの拳藤さんよ‼」
一見防戦一方の状況に鉄哲くんが嬉しそうな声を上げた。彼女のこと好きなんだなあって伝わってくるけど、百ちゃんはこれくらいじゃやられないよ。
「最善手かはわかんねェな。」
「え!!?」
焦凍くんも同じ考えだったようでモニターから視線を逸らさず鉄哲くんに反論する。それに驚きを隠せない様子の鉄哲くんはやっぱりちょっと可愛い。
「八百万を警戒しての分断なら見誤ったかもな。」
「え!?」
二度目のえ!?に笑いそうになったけど耐えた。クラスに一人鉄哲くんみたいな人がいると明るくなるよね。
「あいつを警戒すんなら4人の総力でまっさきに潰すべきだった。」
そう、百ちゃんはお嬢様でいつもおしとやか。だけど誰も思いつかないような大胆な発想ができて何手も先を読めてしまう、そんな枠に囚われない才能があるのだ。
『ちょっと、大砲って!』
『時間がかかりますの、大きいものを創るのは!』
そう不敵に笑いながら百ちゃんは自分の体からとんでもなく大きな大砲を取り出した。拳藤さんはそれが自分に向けられるものなのかと一瞬怯んだけど照準は彼女を通り過ぎてみんなを分断している壁に合わせられる。壁を破壊するのかと思ったらしい拳藤さんはすかさず拳を入れて百ちゃんの動きを止めようとする。でも、大砲から打ち上がった砲弾のようなものは何も壊すことなく壁の向こう側へと落ちていった。
破壊の為じゃないとすれば、向こう側にいるみんなに何かを届けるための大砲だったってことだろうか。その予想は恐らく当たっていて、打ち上げられたものを常闇くんと透ちゃんがしっかり受け取り中を確認してみると、そこには様々な便利道具が入っていた。青山くんはいつの間にか投獄されてしまっていて二人もキノコまみれになっている。百ちゃんはみんなのピンチとこの後の展開を想定して、自分がやられても仲間が勝てるような作戦を立てたのだ。
常闇くんと透ちゃんは滅菌スプレーでキノコを振り払った。サーモグラフゴーグルをつけた常闇くんが黒色くんと小森さんの元へと向かい、透ちゃんはひっそりと吹出くんの背後へ迫る。
常闇くんの必殺技がさく裂して二人の体を捕らえ、このまま一気に形勢逆転。とはいかなかった。投獄に向かおうとした彼の様子がおかしい。ゴホゴホと咳込む彼に小森さんはペロリと舌を出した。
『ごめんね。可愛くないから封じてたけど。負けそうなのにやらないのもダメキノコだもん。肺攻めスエヒロダケちゃん。』
もしかして体内に菌を取り入れるのも可能なんだろうか。さっと顔が青くなる。あんなに可愛いのにやることがえげつない。女の子を気絶させるのを躊躇してしまった常闇くんの優しさが裏目に出た。たまらず彼は膝をつく。
透ちゃんも見えないのをいいことに吹出くんのことボコボコにパンチしてたけど、遅れてやってきた拳藤さんの大きな手に動きを封じられる。ガッシリ体を掴まれた彼女は動くことができない。
拳藤さんはぜえぜえと肩で息をしていて、その理由は彼女を行かせまいとする百ちゃんの執念だった。彼女は拳藤さんとの勝負に敗れぐったりとしていたけど、体半分は自分と大砲をくっつけもう半分は創造したロープで拳藤さんの体ごとぐるぐる巻きになっていた。拳藤さんは人一人分の重さプラス大砲を背負って移動しなければならなかったのだ。気絶して目を閉じてる百ちゃんに、拳藤さんは勝った気がしないと肩を竦めた。
結局そのままA組3人は投獄されてしまい、二試合目は4対0でB組チームの勝利となった。
「……また弱気になんないといいが……。」
「今の百ちゃんなら大丈夫だよ。強いもん。」
期末テスト前の彼女を思い出していたであろう焦凍くんににっこりと笑いかける。彼も視線をモニターから外してそうだなと微笑んでくれた。
試合後フラフラの百ちゃんと咳が止まらない常闇くんはリカバリーガールさんに診てもらうことになった。吹出くんと拳藤さんが結構派手に攻撃したこともありステージの被害は深刻。ここはすぐに使えないということになって移動も兼ねた休憩が挟まれた。私たちは次の組なのでみんなの雑談には加わらず作戦会議を詰めている。
ちらりと離れたところを見るとちょうどオールマイトが緑谷くんを手招きしているところだった。それに気づいた爆豪くんが後を追いかけて行く。ワンフォーオールの暴発の話かなあ。まああんなにあからさまに二人で抜けたら事情知らなくても気になるよね。そういうところがばれる要素なんだけど二人ともちゃんとわかってるんだろうか。
爆豪くんも私と似たような気持ちなのかな。事情を教えてもらってるんだからのけ者みたいにされると寂しいし、ちょっと抜けてる二人のことが心配、みたいな。意外と仲間思いなところあるもんね。少しずつ幼馴染み二人の間に前とは違う空気が流れているのを感じながら、私は作戦の続きに意識を戻した。