合同訓練
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その日の午後、コスチュームに着替えて演習場へと向かっている。最近訓練着ばかりだったからみんなの戦闘服姿見るの久しぶりかも。寒くなってきた気温に合わせて色々仕様変更してる人も多くて、なんだか見てるだけで楽しい。
「ワクワクするねー!」
「葉隠寒くないの?」
「めっちゃ寒ーい!」
「根性だね……。」
この寒さでもほぼ全裸の透ちゃんに響香と尊敬のまなざしを送る。個性上仕方ないとはいえ並大抵の精神力じゃない。
「私冬仕様~!カッコイーでしょーが!」
「ほんとだ袖ついてる!」
三奈ちゃんがじゃーんと効果音付きでポーズを決めたので拍手を返した。他にも百ちゃんがマント羽織ってたり尾白くんのファーが増えてたり。みんな夏より厚手になって暖かそう。
「なまえは変えてないの?」
「一応素材は変わってるんだけど、見た目に変化はないかも。」
外見だけじゃわからない仕様変更なものだから、寒そうだと響香に心配されてしまった。風邪ひかないようにねってジャケット掛けられそうになって慌てて断る。生地薄いけど特殊な素材だからちゃんと暖かいんだよねこれ。
ちらりと横を見ると爆豪くんのコスチュームも冬用に変わってる。緑谷くんがいち早く気づいて指摘すれば彼は普段通りの口の悪さで凄んでた。褒めてもけなしても怒るんだから困ったものだ。
「緑谷が一番変化激しいよな。最近また何か付いたし。」
「やれることが増えてきたからさ。すごいんだよこのグローブ。」
尾白くんと緑谷くんの和やかな会話が聞こえてくる。にこにこしながら眺めていたら突然側にいたお茶子ちゃんの様子がおかしくなった。
「去れ!」
「お茶子ちゃん!?」
ガンっていう音と共に自分の顔面をヘルメットごと殴るお茶子ちゃん。急な出来事に慌てふためく。だけど後ろの方から緑谷くんの声で発目さんという名前が聞こえてきて、ああ彼女の話題が出たからかって納得してしまった。やっぱり違うと否定しつつもお茶子ちゃんは緑谷くんのことが気になっているのだろう。複雑な乙女心だなあって思いながらその肩をさする。
「おいおい。まーずいぶんと弛んだ空気じゃないか。僕らをなめているのかい。」
演習場に到着して雑談しているといつもの煽り上手な声が聞こえてきた。
「お!来たなァ‼なめてねーよ!ワクワクしてんだ!」
「フフ……そうかい、でも残念。波は今確実に僕らに来ているんだよ。」
切島くんが丁寧に対応すれば声の主である物間くんは静かに笑ったあと大口を開ける。
「さァA組!!!今日こそシロクロつけようか!?」
張り切ってるなあ。気合入りすぎてのけぞってる。それにしても彼のクラスでの立ち位置がいまだに掴めない。取蔭さんとか呆れ顔で困惑してるみたいだし物間くんの対抗意識はやっぱりちょっと行き過ぎてるんだろう。
「見てよこのアンケート!文化祭でとったんだけどさァーア!A組ライブとB組超ハイクオリティ演劇どちらが良かったか!見える!?二票差で僕らの勝利だったんだよねえ‼」
アンケート用紙を受け取り結果を覗いてみると確かに僅差ながら負けてる。
「マジかよ!見てねーから何とも言えねー‼」
「でもこれぼくしらべって書いてあるよ。」
「信用できる統計なんだろうな?」
切島くんと瀬呂くんと一緒にアンケートの信憑性について疑うけど物間くんはお構いなし。終始楽しそうで何よりだけどちょっと狂気じみてて怖い。
「入学時から続く君たちの悪目立ちの状況が変わりつつあるのさ‼そして今日‼A VS B‼初めて合同戦闘訓練‼僕らがキュ‼」
「黙れ。」
「ものまァ!!!」
拳藤さんの手刀より先に捕縛布が物間くんの首を絞め上げた。消太くん、その指導問題あるのでは。息の根が止まりそうな勢いのクラスメイトに泡瀬くんも声を上げる。
各クラスの担任がやって来てなんとかその場を落ち着かせたあと演習の説明に入る。私はブラド先生の後ろに隠れてる彼の姿を見つけてそわそわを抑えられないでいた。
「今回特別参加者がいます。」
「しょうもない姿はあまり見せないでくれ。」
しょうもないという消太くんの切って捨てた物言いに雄英の負の面という言葉が頭を通り過ぎて行った。物間くん、ドンマイ。
ゲストがいると知ったみんなはざわざわとどよめき始める。姿を現した彼を見て緑谷くんと尾白くんが驚きの声を上げた。
「ヒーロー科編入を希望してる普通科C組心操人使くんだ。」
「心操――――‼」
体育祭の因縁が理由なのか珍しく尾白くんが大きな声で叫ぶ。私はどこか誇らしい気持ちになって思わず胸を張った。
心操くんが身に着けてる捕縛布やペルソナコードについてみんなが口々に話す中、注目の的の彼と目が合う。明るい笑顔で親指を立てれば心操くんも勝気に笑った。文化祭の時に「まだ秘密で」と口止めさせてもらってた緑谷くんも合点がいったという表情で私たちを見る。
「なに、みょうじ知ってたの。」
「実は訓練仲間なんだよね。二人で相澤先生に見てもらってたの。」
「まァた知らねー交友関係……。」
瀬呂くんが項垂れてしまったけどこれは誰にも話すわけにはいかなかったんだよね。特に内緒とか約束してたわけじゃないけど暗黙の了解ってやつだ。実際黙ってたからこそ心操くんの登場の演出が際立ったし。ごめんねと思いながら瀬呂くんの背中をポンと叩いた。
消太くんに一言挨拶をと促されて心操くんが一歩前に出る。ジーンと感慨深さが込み上げてきて胸が熱くなった。
「何名かはすでに体育祭で接したけれど、拳を交えたら友だちとか、そんなスポーツマンシップ掲げられるような気持ちのいい人間じゃありません。俺はもう何十歩も出遅れてる。悪いけど必死です。立派なヒーローになって俺の個性を人の為に使いたい。この場の皆が超えるべき壁です。馴れ合うつもりはありません。」
心操くんは緑谷くんの姿を捕らえたあと最後に私に視線を移した。射抜くような目がヒーロー科という目標を見据えている。正直誰よりも誠実な彼にスポーツマンシップが欠けてるなんて思えないけど、自分のことを追い込むためにわざと強い口調で言ってるんだろうなとその心情を読み取った。ギラギラとした熱い闘争心にみんなの士気も上がる。
「引き締まる。」
「初期ろき君を見ているようだぜ。」
「いいね彼。」
みんな口々に感想を零しながら拍手を送る。
「んで何でみょうじは泣いてんのよ。」
「いや……ちょっと感極まっちゃって。」
瀬呂くんがギョっとしながらボロボロ涙を溢す私の顔を覗いた。せっかく心操くんがクラスメイトになるまで涙は取っておこうと思っていたのに、全然我慢できなかった。演習前から感動で前が見えない。訓練仲間の堂々とした姿にスタンディングオベーションしたくなってしまった。もう立ってるけど。いつかの飯田くんみたいにブラボー!って叫ばなかった自分を褒めたい。心操くんはそんな私に気づいて可笑しそうに目を細めていた。
特別ゲストの紹介も終わって戦闘訓練についての本格的な説明が始まる。今回は事前に通達されていた通りA組とB組の対抗戦だ。舞台は運動場γの一角。双方4人組をつくり一チームずつ戦う。
心操くんだけ今回は2戦参加。A組チームとB組チームそれぞれに一回ずつ加わるらしい。A組は21人だから5試合中3試合は5対4の訓練になるって説明受けたけど、それなら1試合だけ5対5にした方がいいのでは?と首を傾げた。
どうやら実践経験のない心操くんを一つのハンデとみなすようだ。数的優位を持ちながらも慣れないメンバーがいるという構図を作り出したいらしい。5対5になってしまえばそのハンデがなくなるため都合が悪いのだろう。ちなみに心操くんのいない5対4の試合は別のハンデが用意されていて、5人チームの内の1人が1分待機してからの参加になるんだそうだ。
今回の状況設定は「敵グループを包囲し確保に動くヒーロー」。お互いがお互いを敵と認識して戦いに臨み、先に4人捕まえた方の勝利だ。昨今の敵の組織化に伴う対処なんだろうな。
双方の陣営には激カワ据置プリズンという名の牢屋が設置され、相手を投獄した時点で捕まえた判定になる。味方側の牢屋の近くで相手を戦闘不能にできれば長い距離を運ぶ手間もないし一番効率がいいけど、B組相手にそうそう上手くいくものじゃない。かなりの泥仕合になるのも覚悟しとかなきゃ。
「4人捕まえた方……ハンデってそういうことか?」
一通り説明が終わったところで爆豪くんが気になった点を言及する。消太くんはそれにゆっくり頷いた。
「ああ……慣れないメンバーを入れる事。そして5人チームでも4人捕らえられたら負けってことにする。」
なるほど。やっぱり人数多いからって余裕があるわけじゃないんだ。20分の時間制限がきて投獄数2対3で5人チームが勝ってるように見えても、実際は数の有利があるから引き分け扱いになるってことか。
「お荷物抱えて戦えってかクソだな。」
「ひでー言い方やめなよ!」
ほぼ初対面なのになんて言い草。上鳴くんが慌ててツッコミ私も「ね、ひどいでしょ?」と心操くんに目配せする。
「いいよ事実だし。」
「徳の高さで何歩も先行かれてるよ!」
まったく気にしてない様子で爆豪くんの暴言を受け入れた彼に周りからも称賛の声が上がる。性格では爆豪くんより圧倒的にヒーロー向きなんだよなあ。
チーム決めのためにくじを引くことになり私が手に取ったのは3と書かれたボールだった。焦凍くん・尾白くん・障子くん・飯田くんと一緒の5人チーム。お相手は鉄哲くん・回原くん・骨抜くん・角取さんとみんな一度は話したことのある人ばかり。逆にやりづらい。
それにしても、と視線を消太くんにちらりと向ける。このくじなんか細工されてるんじゃないのかなあ。私が5人チーム引き当てたら心操くんと当たらないし。わざわざペルソナコード教えたのも私たちが戦わないって知ってたんじゃないの。疑われてるのを感じたのか消太くんは一瞬だけこっちに視線を向けてふっと笑った。確信犯。
まあ確かに今回は彼の編入試験を兼ねてるんだもんね。未知の相手と戦った方がいい。そう自分に言い聞かせてせっかく授業で手合わせできるチャンスだったのにって拗ねる気持ちを落ち着けた。
チームが振り分けられたところで心操くんにもくじを引いてもらい、彼は1試合目と5試合目に参加することになった。
「スタートは自陣からだ。制限時間は20分。時間内に決着のつかない場合は残り人数の多い方が勝ち。」
1組目以外はみんなモニターのある場所に待機して試合を見守る。クラス対抗という胸熱くなる設定からかオールマイトとミッドナイト先生まで見に来てくれた。
ピンチに力を発揮するA組か、堅実に全体を底上げしているB組か。ブラド先生のスタートの合図を聞きながら、ついに始まった戦闘訓練に気持ちは逸るばかりだった。