仮免試験
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「焦凍くんお疲れ様。」
「ああ。なまえはかなり早かったんだな。」
「うん。ほんとはみんなとチームアップで動く予定だったんだけど、傑物学園の人の個性で地面分断されちゃって。」
「すげえな。」
飲み物を注ぎつつターゲットを外すキーの場所を教える。焦凍くんの方も結構大人数で襲ってこられて大変だったみたいだ。やっぱり雄英って狙われるんだなあ。
「あいつと何話してたんだ。」
「夜嵐くん?個性一緒だねって話してたの。」
「……そうか。」
「何か気になる?」
「いや、さっき睨まれた。なんかしたかと思って。」
考え込むけど何も思い出せない様子の焦凍くん。二人が仲良くしてるとこ見たいけど、そういうわけにはいかないかなあ。夜嵐くんからの敵対心が想像以上だ。とりあえず元気出してもらうためにお皿にお肉を盛る。山盛りになったお皿を焦凍くんに渡していると入り口に響香の姿が見えた。
「なまえ!」
「響香~!みんな無事だった?」
「かなりヤバかったけど何とか通過できたよ。」
抱き着いて健闘を称え合う。地面が分断されたあと、響香・梅雨ちゃん・百ちゃん・障子くんで合流できて、協力して他校に対抗できたようだ。これで6人。他のみんなの様子も気になる。
「轟とはどっちが早かったんだ?」
「なまえだ。」
「運よく二位通過できたの。」
「めっちゃ優秀じゃん!」
「さすがねなまえちゃん。」
みんなに褒められてちょっと照れる。さっきは必殺技とシチュエーションの相性が良かった。通過順位が早かったのはただの運だ。みんなで話していると今度は上鳴くんが走ってくるのが見えた。切島くん、爆豪くん、緑谷くん、お茶子ちゃんと瀬呂くんも一緒だ。
「皆さんよくご無事で!心配していましたわ。」
「ヤオモモー!ゴブジよゴブジ!つーか早くね皆!?」
「俺たちもついさっきだ。みょうじと轟が早かった。」
「爆豪も絶対もういると思ってたけどなる程!上鳴が一緒だったからか。」
「はァ!?おまえちょっとそこなおれ!」
上鳴くんと響香のやり取りで一気にいつもの空気が戻ってくる。これで12人。残りは9人だ。
「飯田さん大丈夫かしら……。」
「飯田くん?」
百ちゃんが心配そうに呟く。どうやら飯田くんはクラス全員が通過できるようバラバラになった人たちを探しに行ったらしい。何とも彼らしい選択だけど今通過者は82名。残りの枠は18人。かなりギリギリだ。
『ハイ。えー、ここで一気に8名通過来ましたー!残席は10名です。』
ここに来て8人通過。残りの枠は10人だ。A組は残り9人。みんなの顔が曇っていく。
「全員はもうムリかなあ……。」
弱気な響香の肩を叩く。私もちょっと不安になってしまってるけど、みんなを信じるしかない。
「大丈夫だよ。みんな強いもん。」
「……そうだよね。」
緊張しながらみんなの到着を待つ。施設内に響く目良さんのアナウンスを祈るような思いで聞いていた。
『2名通過‼残りは8名‼7名!5名!続々と!この最終盤で一丸となった雄英が!コンボを決めて通っていく!』
その言葉に一安心。大丈夫。きっとこれならみんな通過できる。響香の手をぎゅっと握って頷いた。
『0名!100人‼今埋まり‼終了!です!』
一次試験終了のアナウンスが響く。そわそわしながら待っていると、残りの9人が揃って控え室に入ってきた。
「っしゃああああ!!!」
「スゲエ‼こんなんスゲエよ!」
「雄英全員一次通っちゃったあ!!!」
みんなで喜びを分かち合う。定員100名という過酷な条件で21人全員通過できたのはかなりすごい。みんな圧縮訓練の成果が出せたってことだ。
脱落者の撤収を待つ間控え室でみんなとハイタッチしていると、急に備え付けのモニターが付いた。
『えー、100人の皆さん。これ、ご覧ください。』
目良さんの声とともに映し出されたのは先ほどのフィールド。何だろう。わけもわからず見ていると、ボンボンという音とともに爆破されていく建物たち。最終的にほぼ壊滅状態になってしまった。一体なぜ。
『次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます。』
バイスタンダー。災害などの現場に居合わせた人のことだ。一般市民を指す意味でも使われたりするけど、今回はそうじゃないんだろう。
『ここでは一般市民としてではなく仮免許を取得した者として、どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます。』
やっぱりなあ。モニターにじっと目を凝らす。
「む、人がいる……。」
「え……あァ!?老人に子ども!?危ねえ何やってんだ!?」
障子くんの指摘に砂糖くんが慌てる。こんなところに急に一般の人がいるはずないからスタッフなんだろうけど、怪我をしてるようにも見える。なかなか本格的だ。
『彼らはあらゆる訓練において今引っ張りダコの要救助者のプロ‼HELP US COMPANY略してHUCの皆さんです。』
要救助者のプロ。色んな仕事があるんだなあ。
『傷病者に扮したHUCがフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救出を行ってもらいます。尚、今回は皆さんの救出活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を越えていれば合格とします。10分後に始めますのでトイレなど済ましといてくださいね。』
目良さんの音声が途切れる。さっきのフィールド、神野区の惨状を模しているように見えた。最悪の状況、たくさんの死傷者。いかに迅速に私たちが多くの人を助け出せるか、それが問われてる。
爆豪くんを助けに行った時は戦うこともヒーローを手伝うことも許されていなかった。けど今は違うんだ。仮免を取って堂々と活動できるようになるためにも、全力でやらなきゃ。
休憩中。試験前なのにみんな結構リラックスしている。男子たちは特に盛り上がっていた。何でも緑谷くんが士傑のボディスーツのお姉さんと演習中に仲良くしてたのだそうだ。それを聞いた峰田くんと上鳴くんは彼に詰め寄ってる。お姉さんはお姉さんで緑谷くんと目が合ったと思ったら仲良さげに手を振ったりなんかして、疑惑は深まるばかりだ。いや緑谷くんに限ってそんなわけはないのだけど。あのお姉さんが一体どんな人なのか気になるところだ。
男子の盛り上がりを横目に私はトイレに行くことにした。試験時間まで残り少ないし念のため。
「……あれ。」
トイレに向かう途中廊下で壁にもたれかかっている人影。どこか具合が悪いのだろうか。慌てて声をかける。
「あの、大丈夫ですか。」
「……ああ、君か。」
振り返ったのは傑物学園の真堂さん。思わず固まってしまう。けれど試験前の様子とは大分違っていて。結構な量の汗をかいてかなりつらそうだ。苦手とか言ってる場合じゃない。
「具合悪いんですか?救護の方に言ってすぐに対応を……。」
「言わなくていいよ。ちょっと個性の反動が来てるだけだ。使いすぎると眩暈が来る。」
放っておいてくれというように背中を向けられた。体に反動が来やすい個性なのか。しかも眩暈。私と一緒だ。幸いトイレに向かっていたのでポーチも持ってる。
「これ使ってください。」
「……なんだい。」
「酔い止めです。もしかしたらもう飲んでらっしゃるかもしれませんけど。私も個性使いすぎるとクラクラしちゃうんです。予備もあるのでよかったら。」
彼は私の手元をじっと見たあと少し考えてから薬を受け取ってくれた。なんだか元気な時と雰囲気は違うけど、私はこっちの真堂さんの方が話しやすかった。
「随分お人よしだな。さっき襲われたばっかなのに。」
「それは試験ですし仕方ないですよ。それにお人よしはヒーローにとって長所ですから。褒め言葉として受け取っておきますね。」
「……まいったな。」
諦めたように頭を掻く真堂さん。これ以上は時間が無くなるということで彼は先に控え室に戻ることにしたようだった。
「ありがたく使わせてもらうよ。この借りは返す。」
「え、いいですよ。借りだなんて。」
「いいから。君も時間無くなるよ。」
廊下の時計を見ると試験開始まで残りわずか。慌てて私もトイレに向かう。真堂さん、油断ならないと思ってたけどいい人なのかもしれない。彼の具合が早く良くなりますように。駆け出しながら無事を願った。
トイレを済ませて響香の隣に帰ってきた。先ほどまで士傑の人が挨拶してくれてたらしい。
「大変だったんだよ。」
「え、なんかあったの?」
「いや、よくわかんないんだけど士傑の夜嵐がさ。轟に嫌いだって言ってて。」
「ス、ストレートだなあ。」
つまり仲良くはなれなかったわけだ。しかも夜嵐くんは焦凍くんの目がエンデヴァーさんと同じだって言ったらしい。本人に面と向かって言っちゃったのかあ。これは仲良くなるどころかお互い印象最悪。焦凍くん、変に思い詰めないと良いけど。声をかけようかと近づく。
『ジリリリリ‼』
その瞬間けたたましいベルの音が鳴り響いた。
『敵による大規模破壊が発生!規模は〇〇市全域。建物倒壊により傷病者多数!』
聞こえてきたのは演習の想定内容。特に合図もなく、いきなり試験が再開された。先ほどと同じように控え室が展開されていく。
『道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う。一人でも多くの命を救い出すこと!!!』