エンデヴァー
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『神野以降初めてのビルボードチャート‼その意味の大きさは誰もが知るところであります‼』
自主練が終わって急いで寮に帰ると、共同スペースにはもうみんな集まっていた。オールマイト不在のビルボードチャートに誰もが興味津々なのだ。私も素早く部屋着に着替えて透ちゃんの隣に腰かける。
「今回ご本人たちがステージに上がるんだね。」
「まー社会も不安定になってっしなァ。」
「何よりオールマイトがいないものね。」
司会の人の声に私が思ったことを口にすれば切島くんと梅雨ちゃんがうんうんと頷いてくれた。ビルボードチャートの発表にプロヒーローたちが登壇するのは初めてのことだ。錚々たる顔ぶれがカメラに映し出されてみんなからも声が漏れる。
「リューキュウおる~!」
「さすがだねえ。」
登壇するのは上位10名。我らがリューキュウさんも10位にランクインしていた。相変わらず綺麗なお姿にお茶子ちゃんたちとうっとり画面を眺める。
7位のシンリンカムイさんの紹介が終わると同じチームのMt.レディさんがインタビューされていた。その内容に響香が驚きの声を上げる。
「えっ、シンリンカムイとMt.レディって付き合ってんの?」
私も全然知らなかった。いつの間にって思ってると結構話題になってたよって透ちゃんが教えてくれる。そっか、一緒に仕事してたら色々と芽生えるものもあるよね。噂の真偽はわからないけど確かにお似合いな二人だなあって画面を見つめた。
「ノーコメントって言ってるけど。」
「ンなもんほぼ認めてんだろ。」
尾白くんがMt.レディさんのコメントを拾うとすかさず上鳴くんが茶々を入れた。色恋好きだねえ君も。プロヒーローになったらプライベートまで詮索されるのかなって不安はちょっとある。でも話題になるのも支持率の内か。マスコミは苦手だけど行き過ぎた報道じゃなければ大目に見なくちゃいけないのかもしれない。改めてプロって大変だ。
「俺ミルコ好き。」
「わかる!エロい!」
「峰田最低。」
5位のミルコさんが映って切島くんが明るい表情を見せると峰田くんが最悪の賛同をしたのでさすがの彼も複雑そうな顔をした。三奈ちゃんが鋭い視線で睨んでる。本人は画面に釘付けで気付いてないけど。
だけどそんな彼女も4位の発表になると黄色い声で騒ぎ始めた。
「エッジショットかっこいいー!」
「わかる!イケメンだよね!」
「お前らも似たようなモンじゃんよォ‼」
三奈ちゃんと透ちゃんがきゃあきゃあ言ってると峰田くんが血涙流しながら歯ぎしりしてた。でも確かに彼の顔は整ってる。女性人気高そう。雑誌の表紙になってるのも見たことあるくらいだ。
『今回神野に関わったヒーローたちの支持率が軒並み上がっているようですね。それでいくとこの男‼活動休止中にも拘わらずNo.3!支持率は今期No.1!ファイバーヒーロー!ベストジーニスト‼一刻も早い復帰をみんなが待っています‼』
その紹介文を聞きながら胸が詰まった。
「ジーニストさん……。」
静かに零した名前は爆豪くんにも届いたようで少しだけ目が合った気がした。今日はジーニストさんは療養のため欠席だ。結局あれから会えてないけど、回復しているだろうか。早く彼の元気な姿が見たい。沈んだ気持ちになりながら神野のことを考えているといつの間にか発表が進んでいて、残るは1位のみだった。
『そして‼暫定の1位から今日改めて正真正銘No.1の座へ!長かった‼フレイムヒーローエンデヴァー‼』
スポットライトが当てられエンデヴァーさんの姿が映る。焦凍くんは相変わらず顔色を変えずにじっと画面を見つめていた。
ヒーロー公安委員会の会長さんからお話があったあと、上位10名一人一人にマイクが向けられる。はじめはリューキュウさん。何を言うのだろうと真剣に耳を傾けた。
『ありがとうございます。しかし辞退できるものならしたかったというのが本音です。救えたはずの命がありました……。頂いたNo.にふさわしいヒーローとなれるよう邁進して参ります。』
インターン組の表情が固くなる。救えたはずの命。ナイトアイさんの顔が頭に浮かんだ。強くならなければ取り零してしまうと学んだあの日。もう二度と繰り返したくない。リューキュウさんの言葉に深く頷きながら拳をぎゅっと握った。
その後も一人ずつコメントが続いていく。クラストさんなりミルコさんなりみんなそれぞれの性格がよく出た発言で私たちも食い入るように画面を見つめていた。だけどエッジショットさんのインタビューの途中でハプニングが起こる。
『結果として多くの支持を頂いた事は感謝しているが、名声のために活動しているのではない。安寧をもたらす事が本質だと考えている。』
『それ聞いて誰が喜びます?』
彼の言葉を遮って発言したのは私の苦手なあの人。あけすけな物言いに会場中が静まり返ったのがわかった。
「うーわホークス。」
「怖ェな。」
上鳴くんの苦笑いに同意せざるを得ない。特段目立ちたいタイプとも思えないんだけどどうしたんだろう。やっぱり考えてることよくわかんないなあ。常闇くんは眉間に皺を寄せて彼が次に何をするのか注意深く見ているようだった。
『えーと?支持率だけでいうとベストジーニストさん休止による応援ブーストがかかって1位。2位俺3位エッジショットさん。で、4位がエンデヴァーさん以下略。』
司会の人から無理矢理マイクを奪い取り空中へと飛ぶホークスさん。ここまで棘のある言い方をする彼を見るのは私も初めてかもしれない。上から俯瞰して全てを見透かすような目。私はあの目が苦手なのだ。
『支持率って俺は今一番大事な数字だと思ってるんですけど。過ぎたことを引きずってる場合ですか。やる事変えなくていいんですか。象徴はもういない。節目のこの日に俺より成果の出てない人たちが、なァにを安パイ切ってンですか!もっとヒーローらしいこと言って下さいよ。』
先輩方相手にまるで宣戦布告のようだ。不穏な空気にクラスのみんなもハラハラしている。
「でもまあ、正しいっちゃ正しいよな……。」
上鳴くんがホークスさんの言葉に控えめながら頷いた。そう、彼の言ってることは正しい。だからこそ質が悪い。
「ホークスさんの言うことはいつだって正しいよ。」
私が口を挿むと思わなかったのかその場の視線が一気にこちらに向いた。
ホークス、前回のチャートでトップ3入りを果たしたヒーロー。18歳で事務所を立ち上げその年の下半期にはすでにトップ10に入った。十代でのトップ10入りは史上初。今だって22歳でNo.2まで上り詰めるなんて異例のことだ。人は彼を速すぎる男と呼ぶ。
もちろんあの人のすごさは認める。彼はいつだって最善を最短距離で選び抜くことができる。だけどきっとそこに至るまでの感情の犠牲は計画の中に入っていない。過ぎたことを引きずるよりも前に進んだ方がいいのは誰だってわかってる。それでも捨てられない気持ちはどうしたってある。上位10人のヒーローを目指すのなら、残酷にならなければいけないのかもしれないけれど。甘えたことなんて言ってられないのかもしれないけど。それでも私はやっぱり悲しみや後悔を無視したくない。
「だからこそ、あの人について行けない時もある。」
そう言って私が目を伏せるとそれ以上は誰も話さなかった。ホークスさんは『俺は以上です』と勝手に終わりにしてステージに降りてくると、エンデヴァーさんに『支持率俺以下』と告げながらマイクを手渡した。こんなの絶対しゃべりにくいじゃん。性格悪いなあ。
焦凍くんの方を見ると少しだけ不安そうに眉を下げていた。異様な雰囲気の中、エンデヴァーさんが重々しく口を開く。
『若輩にこうも煽られた以上、多くは語らん。』
彼は己の拳をぐっと握ってただ一言宣言した。
『俺を、見ていてくれ。』
かっこいい。誰から漏れた言葉だったかその場のみんなが画面に釘付けになった。焦凍くんの表情もさっきよりどこか穏やかだ。
ずっとNo.1を追いかけてきたエンデヴァーさん自身も、今回の棚ぼた的な順位変動は思うところがあるだろう。だけどその席に座った以上彼は彼なりのNo.1を目指さなきゃならない。社会が不安定になって誰もが少なからず不安を抱えている中、彼の覚悟を見た気がした。
それにしてもホークスさんはどういうつもりなんだろう。父との関係で知らない仲ではないけど、あんな立ち振る舞いは見たことがない。もっとスマートに卒なく動きそうなものなのに。
そういえばあの人強い敵と戦う時、わざと大きなアクション起こして気を逸らしておいてチームアップの人に隙ついてもらうとかしてたな。今回も何か別の意図があったんだろうか。もしかしてエンデヴァーさんの支持率を上げるための演出とか。いやあの人に限ってそれはないか。それこそエンデヴァーさんの個人的ファンでもない限り。
何にせよ私がここで考えたところで真意なんてわかるはずもない。やっぱりあんまり会いたくないなあとテレビを横目に見ながら透ちゃんの肩に頭を預けた。