文化祭
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ミスコンはたくさんの人で賑わっていた。私は緑谷くんに抱っこされたエリちゃんの隣でステージを観覧している。
『華麗なドレスを裂いての演武‼強さと美しさの共存!素晴らしいパフォーマンスです‼』
「拳藤さんかっこいい……!」
いつもと雰囲気の違う艶やかな衣装でたくさんの板を折っていく拳藤さん。周りからも歓声が上がった。ミスコンのアピールってこんな感じなんだ。それぞれが得意な攻め方をしていて自由度が高い。見ていて楽しい。
「あ、次絢爛崎先輩だ。」
「ミスコンの覇者……!」
緑谷くんとミスコン用のプログラムを確認していると、山車のような戦車のような顔面エレクトリカルパレードのような何かがステージへと上がってきた。
『3年サポート科ミスコン女王‼高い技術で顔面力をアピール!圧巻のパフォーマンス!』
いや圧巻過ぎる。開いた口が塞がらない。絢爛崎先輩のお顔がそのまま乗り物になっていて、メカ絢爛崎先輩の上に本物の絢爛崎先輩が君臨している。自分でも何言ってるかわからない。怖い。
「これは何する出しもの?」
「ちょうど今わからなくなったとこだよね。」
エリちゃんのもっともな指摘に通形先輩も首を傾げた。会場全体が呆気にとられている。ミスコンってこんなのだっけ。
理解が追いつかないまま絢爛崎先輩の出番が終わり、お次は楽しみにしていた波動先輩のアピールタイムだ。ステージの中央に来た先輩はいつものようににっこりと笑った。
可愛らしいドレスに身を包んだ先輩はふわりと宙に飛び個性である波動をまとわせた。
「綺麗……。」
思わず感嘆の声が漏れる。まるで妖精みたい。エリちゃんもキラキラとした目で彼女を見上げていた。
『幻想的な宙の舞い!引き込まれました!』
空中浮遊を終えステージに降り立つ波動先輩。目を奪われるってこういうことだったのかと変に納得してしまった。客席に向かって微笑む彼女は今まで見た先輩の中でも一番綺麗だった。
その後全員のアピールタイムが終わり投票に移る。4人分の用紙をもらってきて名前を書く。私は迷わず波動先輩。
「エリちゃんは誰に投票する?」
「えっと、あのふわってとんだ人。」
「了解。先輩本当に綺麗だったね。」
エリちゃんの用紙にも波動先輩の名前を書いていく。すると緑谷くんに抱っこされているエリちゃんがぎゅっと私の服を掴んだ。
「なまえさんも……さっきとんでたのすごかった。」
「さっき?あ、ライブの時?」
「うん。なまえさんはこれ出ないの?」
これっていうのは恐らくミスコンのことで。波動先輩にも誘われたけど来年も何とか出るのは避けたかった。でもこんな純粋無垢な瞳で見つめられたら現実から逃げるのも申し訳なくなってくる。
「う、うーん。来年出られたら出る……かもしれない。」
「ほんと?」
「多分。うん、あの、恐らく。」
「煮え切らないね!」
通方先輩が噴き出す。それでもエリちゃんは私の答えが嬉しかったようで頬を緩めた。か、可愛い。これは嘘を吐くわけにはいかないなあ。どうしよう。ミスコン出るとか言ったら三奈ちゃんあたりがめちゃくちゃやる気出しそう。来年の文化祭も忙しくなりそうだなと少しだけ遠い目をした。
無事投票できてミスコンは一旦終了となった。集計結果は午後5時に発表されるのだそうだ。それまでは自由時間。エリちゃんとのデートを目一杯楽しめる。
「エリちゃんどこか行きたい場所ある?」
ペラペラと文化祭のパンフレットをめくっていると彼女のお腹が小さく鳴った。
「おなかすいた?」
「うん……。」
「それじゃあ先に腹ごしらえしよっか!」
お茶子ちゃんと梅雨ちゃんがちょうどクレープを食べたいと言っていたのでついて行くことにした。通方先輩・緑谷くん・消太くんも一緒で結構大所帯。
「クレープってなあに?」
「クレープはね、生クリームとかフルーツとかが薄い生地で巻かれたお菓子のことだよ。」
「甘い?」
「そうね、とっても甘いわ。」
「すっごくおいしいんよ!エリちゃんも気に入るとええなあ。」
どうやらエリちゃんはクレープを食べたことがないらしい。女の子同士できゃっきゃとスイーツ話に花を咲かせているとお店の前に辿り着いた。
メニューを一通り見たけれどリンゴのクレープはない。確かにクレープに使われるリンゴってキャラメリゼされてるのとかコンポートが多いもんなあ。あんまり手間がかかるものは文化祭向きじゃないか。
「エリちゃんどれがいい?」
緑谷くんが彼女にメニューを手渡すと、じっと考えたあといちごと生クリームのクレープを指さした。
「おいしそうだね。」
「あ、でも……こっちもいい。」
「チョコバナナ?ちょうどこれ食べたかったから半分こしよっか。」
私の提案にエリちゃんの表情がパアっと明るくなる。言ってみてよかった。
「いいの?」
「もちろんだよ~。私もイチゴ食べたかったの。一口貰ってもいい?」
こくんと頷いたエリちゃんの頭を撫で、全員分のクレープを注文する。
「お茶子ちゃんたち何にしたの?」
「おかず系と迷ったんやけどイチゴブラウニーの誘惑に勝てんかった……。」
「アイスまで追加してたものね。」
「うっ、ちゃんと運動するから許して……!」
「お茶子ちゃんダメダメ!イベントでカロリー計算は自殺行為!」
カロリーに怯えるお茶子ちゃんの正気をなくさせようとしていたらいつの間にか3つ分のクレープが完成してた。私とエリちゃんと消太くんの分。消太くんクレープ食べるんだ。おかず系のツナチーズとはいえなんか意外。
エリちゃんにクレープを手渡すと、彼女はそれをまじまじと観察したあと口をつけた。一瞬で目がキラキラになる。どうやら気に入ってくれたみたいだ。
「おいしい……!」
「ふふ、よかったあ。こっちも食べてみる?」
私のクレープを差し出すと、彼女はそれを一口かじってまた目をキラキラさせた。
「これもおいしい……!」
「どっちが好きだった?」
「……こっち?」
エリちゃんがチョコバナナを指さしたので交換することにした。彼女は申し訳なさそうに眉を下げたけどどっちも食べたかったらと私が笑うと納得してくれた。
全員分のクレープが来てみんなでかぶりつく。女の子同士は一口ちょうだいができるから色んな味を楽しめていいなあ。おかず系も食べたかったけど消太くんに頼んだら怒られたから断念。緑谷くんはお茶子ちゃんに「一口いる?」って聞かれて真っ赤な顔であまりに挙動不審になっていたのでおねだりはやめておいた。
「次どこか行きたいとこあるかい?」
通形先輩がクレープをもぐもぐしながらエリちゃんにパンフレットを見せると彼女は遠慮がちになんとお化け屋敷を指さした。
「えっ、エリちゃんここ結構怖いって噂やけど大丈夫?」
「紫の人……。」
「紫?」
お茶子ちゃんと梅雨ちゃんが心配してエリちゃんに確認を入れると、彼女の口からは恐らく気に入ったであろう人の特徴が発せられた。二人は訳が分からず首を傾げる。
「この前エリちゃんが見学に来た時にC組の準備も見させてもらって。そこで心操くんと仲良くなったんだよね。」
「うん。心操くんすごく面倒見がよくて、エリちゃんも楽しそうだった!」
「はえ~、なんか意外やなあ。」
みんなまだ体育祭の時のイメージが強いのか心操くんが優しいという想像がつかないみたい。ここで反論すると訓練のことばれちゃうかもしれないから黙っておくけど早くみんなにも伝わってほしいなあ。あんなに心根がヒーロー向きな人もいないと思う。
二人に納得してもらったところでお化け屋敷へと向かうことになった。心霊迷宮って名前がもう怖いけど行くと約束したからには行かねば。
「これあかんやつやない?」
お茶子ちゃんの言葉通り入り口からかなりおどろおどろしい。私たちが腰を抜かしてはエリちゃんを守れないということで、一番安全だと思われる消太くんと通形先輩に彼女を託すことにした。情けない話だけどやむを得ない。
「つ、梅雨ちゃんこういうの平気なんやっけ?」
「ええ、大丈夫よ。」
「ごごめん腕組ませてもらってええ?」
「わ、私も。」
「せせせ先輩僕も近くにいていいですかね?」
「任せたまえよ!」
梅雨ちゃんを真ん中に私とお茶子ちゃんが片腕ずつぎゅっとしがみつくと、青い顔の緑谷くんも通形先輩にぴったりくっついてた。エリちゃんが行きたいと言うならたとえ火の中水の中。ホラー無理組は涙目だけど勇気を出して進むことにした。
「く、暗い……。」
「あかん、泣きそう。」
真っ暗の中照明が赤くなったり緑になったりして怖い。壁には無数のお札。これは確かにリアルだ。噂になるだけある。
「エリちゃんは大丈夫かしら。」
梅雨ちゃんの心配そうな声にちらりと後ろを見るとキョトン顔のエリちゃん。もしかしてこういうの平気なタイプだろうか。これまた意外な発見だ。
長い廊下に差し掛かって足が竦む。絶対これ何かあるやつじゃん。行きたくないよお。
「後ろがつかえてる。早く行け。」
消太くんの無情な言葉に半泣き状態。仕方なく歩みを進めると壁からなんか変な音。ミシミシいってる。
「「わああああ!??!?」」
次の瞬間飛び出してきた無数の手。両方の壁からこちらに向かってやってくる。お茶子ちゃんと一緒にパニックになりながら全力ダッシュで駆け抜けた。
「し、死ぬかと思った……。」
ぜえぜえ言いながら廊下を通り過ぎて一息つく。緑谷くんも似たような状態だったけどエリちゃん含め他のメンツは平気そうだ。すごい精神力。
その後も工夫が凝らしてあって私は叫びっぱなしだった。真っ暗な部屋で電話が鳴るから恐る恐る受話器を取ったら「今あなたの後ろにいるよ」って無機質な声が響くし、振り返ったらさっきまでなかったはずなのに夥しい人形が飾られててそれが一斉に笑い始めたりするし。あんなの失神する人出てくるでしょ。
ようやく最後の部屋が終わりあとは短い廊下を歩けば出口。涙目でため息を吐く。
「も、もう無理……。」
息も絶え絶えに出口へと急ぐと何かが突然天井から落ちてきた。もう仕掛けはないと思って完全に油断してた。
「「うわああああ!!!!」」
「紫のお兄ちゃん!」
「え!?今の心操くん!!?」
血だらけの人に驚いて出口までダッシュすると後ろからエリちゃんの明るい声が響いた。全然気づかなかった……。というかエリちゃん肝据わってるなあ。あの暗闇であのメイクしてる心操くんを見極められるの大物としか言いようがない。
ようやく全員で明るいところに出てきて私とお茶子ちゃんはへなへなと座り込んだ。
「二人とも大丈夫?」
「怖かった……。」
「これは文化祭の歴史に名を残す怖さや……。」
梅雨ちゃんがよしよしと私たちの背中をさすってくれる。緑谷くんも先輩によく頑張った!と褒められていた。
「エリちゃんどうだった。」
「紫の人いて、楽しかった……!」
消太くんがエリちゃんを心配そうに覗き込むと彼女は満足そうに頬を赤らめていた。ちょっと興奮気味だ。私たちの寿命は縮んだけどその笑顔が見られたからOKです。
「あれ、みょうじ。」
深呼吸して心を落ち着かせてると聞き覚えのある声が降ってきた。顔を上げると瀬呂くんの姿。後ろには切島くんたちもいる。
「お化け屋敷行ったん?どうだった?」
「命があってよかったって感じかな……。」
「相当怖いわけね。」
ケラケラ笑って体を起こしてくれる。どうやら瀬呂くんたちも今からお化け屋敷に入るらしい。達者でねと声をかけたら死亡フラグやめてと苦笑いしながら暗闇に消えて行った。一部始終を見ていた梅雨ちゃんが不思議そうに首を傾げる。
「そういえば瀬呂ちゃんとは回ったりしないの?」
「え!?」
「誘われたりせんかったん?」
二人の質問に目が泳ぐ。バッチリ誘われはしました。でも結局何て言えばいいかわからず緑谷くんたちに相談できなかったんだよなあ。どう答えようか考えてると通形先輩がピンときちゃったみたいな顔で近づいてきた。
「エリちゃんもだいぶ文化祭に慣れてきてるし1時間くらいならいいんじゃないかな!?」
「いやでも……。」
「青春は誰にも止められない!高校1年の文化祭は今しかないよ!?」
それはそうなんですが。何で急にそんな押し強くなってるんですか。困っていると消太くんに抱っこされてるエリちゃんと目が合う。
「なまえさんどこか行くの?」
小首を傾げる彼女に先輩がスススと耳打ちしに行く。
「これこそ本当の蜜月な男女の行楽さ。」
「やめてください。」
エリちゃんに変なこと吹き込まないで頂きたい。エリちゃんは不思議そうな瞳でこちらを見てたけど、なんだか少し事情が分かったようで微笑んでくれた。
「なまえさん、なかよしな人とあそぶの平気だよ。また会える?」
「もちろん……!」
どうやら少しの間誰かと出掛けるということは伝わったみたいだ。蜜月な男女の行楽は意味が分かってないようで本当に良かった。エリちゃんに寂しそうな顔をさせてしまうならと瀬呂くんのことは考えないようにしてたけど、彼女が笑ってくれたのでお言葉に甘えることにしてみよう。通形先輩にも感謝だ。
「それじゃあ、あの。ちょっと行ってきます。」
「うん、楽しんできてね!」
みんなに笑顔で送り出され私は瀬呂くんにメッセージを入れた。彼も切島くんや爆豪くんと回ってたしみんなのいるところで合流したら気まずいかもしれない。ひとまず1Aの下駄箱で待ち合わせにしよう。