文化祭
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ストレスを抱えてしまってる人のため他の科のため。そして何よりあの子に笑ってほしいから。今、私たちのステージが始まる。
「行くぞコラアアア!雄英全員音で殺るぞ‼」
爆豪くんの声が響く。ド派手な爆破で始まりの狼煙が上がった。
「よろしくおねがいしまァス!!!」
響香の挨拶と共にダンス隊が思いっきりジャンプ。爆豪くんの爆破とも合わさって勢い抜群だ。会場も好感触。
序盤私はダンスに徹する。一回目のサビに入って最初の見せ場。緑谷くんが青山くんを投げ飛ばして新技ネビルビュッフェ。ミラーボールのように輝く彼にお客さんも大喜びだ。私もなんだか緊張より楽しさが勝ってきた。降りてきた青山くんを尾白くんがキャッチし、そのまま青山くんは緑谷くんと一緒に舞台袖へとはける。
2番に入って今度は峰田くんハーレムパート。女の子みんなで彼を取り囲んで囃し立てる。お次はついにステージ最大の見せ場。
「サビだここで全員ブッ殺せ!!!」
物騒な声に笑いながら腕を構える。口田くんの個性で鳥さんがライトを動かしてくれ瀬呂くんと焦凍くんがテープと氷結を放つ。百ちゃんが創造で紙テープを作ってくれ動くミラーボールの青山くんを緑谷くんが操作。そして私は、それらすべての勢いが増すよう紙吹雪と一緒に会場に思いっきり風を起こす!
「おおおおおおなんだこいつらああ!!!」
会場からどよめきが聞こえた。してやったりとにんまり笑う。
風によって分散された青山くんのレーザーが会場中にきらきらと降り注いですごく幻想的になってる。さらに焦凍くんが投げてくれた氷の塊を今度は威力強めの風で粉砕して客席に結晶を降らせた。リアルスノードーム成功だ。紙吹雪も最後尾までばっちり届いてるみたい。これはなんて言うか、すごく楽しい。
最後の見せ場、ラスサビに入ったところでお茶子ちゃんに触れてもらって彼女を抱えながら一緒にふわりと飛んだ。
「楽しみたい方ァア!ハイタッチー!」
客席に近づいて右半分の人の手にお茶子ちゃんが一気に触れる。次々とお客さんが浮かびまるで宇宙空間だ。焦凍くんが作ってくれた氷の道に梅雨ちゃんが来たのを確認して役割をバトンタッチし、私はお茶子ちゃんから離れてお客さんの補助へと回った。近くの女の子を安全な場所まで運びながら空中歩行。なんかハウルになった気分。
「す、すごい……!」
「楽しんでいただけて何よりです。」
にっこり笑うとその子はなぜか顔を赤らめた。理由はわかんないけど楽しんでもらってるようで何より。瀬呂くんのテープがあるところまで移動してお客さんを固定させてもらう。何人かそれを繰り返したあと私は上から赤い瞳を見つけその子めがけて飛んで行った。
「なまえさん!」
「エリちゃん!ハイタッチ!」
小さな手に自分の手を重ねる。頬を染めたエリちゃんからはかなり興奮してる様子が窺えた。
「すごいね……!」
そう叫んだ彼女の表情に思わず目を瞠る。それは私たちが待ち望んでいた、とてつもなく明るい笑顔だった。
「っありがとう!」
思わず泣きそうになるけどぐっとこらえて上へと戻る。通形先輩と目が合ったけど彼も涙目だった。ああ、緑谷くんも気づいただろうか。やっと笑ってくれた彼女にもう胸がいっぱいだった。
ステージを振り返ると真ん中で歌う響香の姿。悩んでた頃が嘘みたいに楽しそうな彼女を見て私はさらに涙が溢れそうだった。こうやってみんなで一つの目標に向かって努力して、最高の時間を共有できる。たくさんの笑顔が作れる。そうだこれだ。私がヒーローに求めるもの。誰かを幸せにできる力。響香の歌う歌詞の意味が、今一番理解できてる気がする。
最後もう一度焦凍くんから氷が投げられ私がそれを壊して結晶を降らせた。きらきらと会場に落ちるそれが熱くなった身体に当たって気持ちいい。ダンス隊で横一列に並び、お客さんが最高潮に盛り上がる中私たちのステージは大成功で幕を閉じた。
機材を撤収してみんなで片づけをしていると、恐らくB組の演劇を見た人たちが色々すごかったと話しながら楽しそうに歩いてるのを見かけた。
「B組の劇見たかったなー。」
「ロミオとジュリエットとアズカバンの囚人~王の帰還~だっけ。泡瀬くんとかも役で出てるらしいよ。」
「まーたあちこち仲良くなって……。」
「つーかタイトル覚えてんのすげくね?」
上鳴くんが羨ましそうにしてたので情報提供したら瀬呂くんにため息吐かれた。そういや泡瀬くんと回原くんと仲良くなったの言ってなかったな。なんとなく申し訳なくなって謝る。上鳴くんは単純に私の記憶力を褒めてくれたのでドヤ顔しといた。
緑谷くんはちょっと離れたところでオールマイトに怒られてる。彼と連絡がつかなかったのは携帯持たずに出かけたかららしい。そりゃ返事こないよね。先生方から絞られ怒り狂ったハウンドドッグ先生に投げ飛ばされた緑谷くんはようやく私たちと合流した。
「しばらく初めてのおつかいって呼ぶわ。」
「大丈夫?緑谷くん。」
からかう瀬呂くんの隣で緑谷くんを起こしていると通形先輩とエリちゃんの姿。
「よーうオツカレ!」
「お疲れ様です。」
ぺこりと頭を下げれば急いで前に出てきたのはエリちゃん。どうやら興奮冷めやらぬ様子だ。緑谷くんと並んでうんうんと彼女の話を聞く。
「最初は大きな音でこわくって、でもダンスでピョンピョンなってね。ピカって光ってデクさんいなくなったけど、ぶわって冷たくなってね。プカーってグルグルーって光ってて、なまえさんふわってきてね。女の人の声がワーってなって私……わああって言っちゃった!」
大きく身振り手振りしながらとにかく楽しかったことを一生懸命伝えてくれるエリちゃん。じんわり涙が滲んできて思わず小さな体を抱きしめてしまった。
「なまえさん?」
「エリちゃんの笑った顔、本当に素敵だね……!」
涙目で微笑めば嬉しそうにはにかむエリちゃん。後ろを振り向くと緑谷くんも同じような顔をしていた。
「楽しんでくれてよかった。」
彼もごしごしと涙を拭いて表情を作り直した。弾けんばかりのエリちゃんの笑顔。私たちのステージが成功したという何よりの証拠だった。
「良かねんだよ遅刻の次はサボリか運べや!」
「ああ!ごめん持つ!持つ!」
「私も行かないと。」
峰田くんからお怒りが飛んでくる。エリちゃんから一度離れ氷の運搬を手伝おうとすれば、さっきステージを見に来てくれた人たちから声をかけられた。
「A組‼」
「オツー!楽しませてもらったよー。」
「わっ‼やったァあざっス‼」
「ありがとうございます。」
「みょうじさんかわいー!」
嬉しい言葉を頂いて切島くんと一緒に頭を下げればなぜか別方向から褒められた。そういやステージの幕が開いた時やたら百ちゃんと私の名前連呼する人がいたけどあれなんだったんだろう。
「ああ……楽しかった。良かったよ。」
関係のないことを考えていると褒めてくれたお客さんの後ろから小さな声が聞こえた。そちらを見ると大きな体格の男の子。
「「ごめん!こき下ろす気で見てた‼」」
隣の子と一緒に急に謝られる。こき下ろすって私たちのステージを?一瞬理解できなくて呆気にとられた。そうか、そのつもりで来た人も少なからずいたんだろうな。この人たちはきっとA組に不満を持ってた人たちなんだろう。それなのにこうしてわざわざ感想を伝えに来てくれたってことはいい形で発散してもらえたのかな。なんだか嬉しい。
頭を下げたツインテールの女の子と目が合う。あれ、さっき空中歩行一緒にした子だ。にこりと微笑むとその子は顔を真っ赤にさせて隣の男の子と一緒に去って行った。そんな急いで逃げなくても。少しだけでもお話ししてみたかったなあ。
「先生が言ってたストレスを感じてる人だったんかな。だったら飯田通じたってことだなァ‼」
「うむ!」
切島くんがガッツポーズすると飯田くんもそれに頷いた。
「しかし!理由はどうあれ見てくれたからこそ。見てない人もいるハズだ。今日で終わらせず気持ちを……。」
だけど彼の向上心は留まるところを知らない。他の人のことを常に考え続けられる姿勢、見習いたい。飯田くんが今後について語り始めるとさっき褒めてくれた人たちから思いもよらない言葉が掛けられた。
「いいんじゃない。君らがどういう思いで企画したか聞いてるし。」
「俺たちには伝わった。」
「今度は俺らからそいつらに……。本当に楽しかったもん。君らの想いは見た人から伝播していくさ。」
彼らの笑顔にうっかり泣きそうになってしまう。頑張った甲斐があったなあと改めて胸が熱くなった。私たちから今日来てくれたお客さんに。そしてお客さんのお友達に。そうやってA組の想いがどんどん広がっていく。みんなに楽しんでほしいという意図で始まったこの企画に対して、最大の称賛だ。
「嬉しいねえ。」
「ご厚意痛み入ります!」
飯田くんと一緒に頭を下げる。爆豪くんは納得してないようで見なかった奴連れてこいってキレてたけどさすがに尾白くんに止められてた。みんなでにこにこして柔らかい空気になる。そんな中、峰田くんだけが険しい顔で黙々と作業を続けていた。
「早く氷全部‼片付け‼済ませようや‼」
「あ、ワリ!峰田さっきからカリカリだな。」
「早くしねえとミスコン良い席取られるぞ‼」
なるほど、それで焦ってたのか。でもそういうことなら力になれる。何より嬉しいことを言ってくれたお客さんに少しでも何か恩返しがしたかった。
「峰田くん残りの氷貸して。」
「お?」
まだ運ばれてない氷は残り少ない。少しみんなに離れてもらってそれを一気に空へと巻き上げ、強い風を上に向けて撃ち粉々に砕いた。キラキラと光る細かい氷が雪のように降り注ぐ。天気がいいこともあって少し虹も出来ていた。
「すごーい!」
「きれー!」
周りの人から感嘆の声が漏れる。エリちゃんも楽しそうにそれを見上げていた。たくさんの人の明るい顔。こういうのいいな。私はこんな笑顔を守れるヒーローになりたい。改めて今日のことが一つの指針になった気がした。素敵な景色見させてもらって、響香にもお礼言わないとなあ。
一気に氷がなくなり片付けも無事終わった。あとは他のイベントを楽しむだけ。
「エリちゃん。一緒に波動先輩見にいこっか。」
「とんでた人?」
「そう!きっと綺麗だよ~。」
はぐれないようしっかりエリちゃんの手を握って、緑谷くんと通形先輩と一緒にミスコン会場へと向かう。文化祭はまだまだこれから。鼻歌を歌うエリちゃんにつられて私も頬を緩ませた。