文化祭
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いよいよ文化祭当日。そわそわしすぎて今日はいつもより早く目が覚めた。現在AM8:45。ダンス隊のみんなで衣装に着替えてほつれてるところがないか確認中。
「やっぱこの衣装可愛いね。」
「でしょ!?既製品に手加えただけだけどバッチシー!」
「エロけりゃいい‼」
衣装は三奈ちゃん考案。丈を短くしたジャケットとボリューム感のあるミニスカートを合わせて元の衣装よりさらに華やかな仕上がりになった。首元にはスカーフがネクタイ風に巻かれている。お腹と足が結構出ちゃってるけど同じ色のシャツとタイツを身に着けてるから恥ずかしさは半減だ。これで動き回っても問題ない。女子の可愛い衣装が見られて峰田くんもご満悦。
「轟ー!演出の最終確認させてー!」
ダンス隊の女の子みんなで本番の準備をしてくれてる焦凍くんの元に向かう。演出隊のみんなも文化祭用のクラスTシャツに着替えていて、いつもと雰囲気が違って新鮮だ。私たちの衣装を見ると近くにいた瀬呂くんまで寄ってきてくれた。
「やーっぱ可愛いなその衣装。」
「ああ。みんなよく似合ってる。」
「でっしょー?ってそれより今は演出確認!」
本番が間近に迫りみんな焦ってるのでそれどころじゃなかったけど、可愛いとか似合ってるとか言われると少し舞い上がってしまう。打ち合せしながらふと視線を上げると瀬呂くんと目が合った。ふって目を細めたその顔があまりに優しくて、なんだか一気に顔が熱くなる。
可愛いって、私だけに言ったんじゃないことはわかってるけど彼に言われると特別だ。それに彼の今の恰好。クラスTシャツちょっと似合い過ぎじゃない?普段と違うデザインのものを着てるだけなのになんだかすごくかっこいい。上手く直視できずに必死で演出の書かれた資料に目を通した。
AM9:20。ステージで使う道具も運び終わってあとは本番を待つのみだ。みんな準備万端のはずなんだけど、気がかりな人が一人。
「え、緑谷くんまだ戻ってきてないの?」
「ああ。携帯もつながらない。」
飯田くんが不安そうにため息を吐いた。どうしたんだろう。緑谷くんはこのあと使う青山くん用のロープを買いに行ってくれてるはず。外で何かあったのだろうか。
「私も一応連絡してみるよ。」
「ありがとう。そうしてくれると助かる。」
自分のスマホを取り出して彼に電話をかけたりメッセージを飛ばしてみたりするけど一向に返事はない。嫌な予感がした。
「何もないと良いけど……。」
胸騒ぎがしながらスマホを画面を見つめる。私もホームセンターまで行ってみようか。いやすれ違いになったら最悪二人とも間に合わなくなる。どうしたものかと頭を悩ませていると消太くんの姿が見えた。一緒にいるのは通形先輩と今日の主役であるエリちゃん。
「エリちゃん、来てくれてありがとう~!」
目線を合わせるように屈んでエリちゃんの頭を撫でると、大きな瞳が物珍しそうな目で見上げてきた。
「なまえさん……かわいい。」
「ほんと!華やかだね!」
「ふふ、嬉しい。今日はエリちゃんの為に頑張っちゃうからね。」
まさか褒めてくれるなんて。嬉しくて頬がゆるゆるだ。通形先輩も親指を立てていい笑顔を向けてくれた。だけど和やかな雰囲気も束の間、先輩はあたりをきょろきょろ見回しながら不思議そうに首を傾げた。
「あれ、そういえば緑谷くんは?」
「それが……。」
エリちゃんの手前言いづらかったけど緊急事態なので仕方ない。消太くんに緑谷くんのことについて事情を伝えると険しい顔をしながらも他の先生に連絡してくれた。クラスのみんなは買い出し一つで何やってんだってプンプンしてる。
本番が近づくにつれエリちゃんはだんだん暗い顔になって眉を下げた。
「デクさん、踊らないの?」
哀しげな瞳に胸が痛む。だけど私ももうすぐスタンバイだ。行かないと。せめてもと思ってエリちゃんににっこりと笑って見せる。
「大丈夫、緑谷くんがエリちゃんとの約束破るわけないよ。ステージには絶対いるはずだから見つけたら手振ってあげて。」
「……わかった。なまえさんも頑張って。」
「ありがとう。行ってくるね!」
エリちゃんはまだ少し不安そうにしながらも頷いてくれた。私に優しい言葉までかけてくれて俄然やる気が出てくる。うん、きっと大丈夫。そうだよね緑谷くん。自分に言い聞かせるように彼の無事を信じて私は控え室を後にした。
AM9:50。ステージの袖からこっそり客席を覗くとなかなかにいっぱいだ。うう、緊張するなあ。
「思ったより人集まってるよ。」
「朝からゴキゲンな連中だぜ。」
「楽しみにしてくれてんだよバカチン!」
来てくれたお客さんに対してあまりに失礼な爆豪くんに苦笑が漏れる。上鳴くんも珍しく彼を咎めてた。ゴキゲンな連中て。いつも通りなのはさすがすぎるけど。
「爆豪くんバンドの要なのに緊張とかしないの……。」
「誰がするか雑魚。」
手に人って書いて飲み込んでたら嘲笑われた。ひどい。そりゃ人の多さにビビってる私の気が小さいのが悪いけどさ。励ましてくれたっていいじゃない。
さらに不安要素はもう一つ。まだ彼の姿が見えてないのだ。
「青山くんデクくんは!?」
「この期に及んで何しとんじゃスットロがあ!!!」
「それが……。」
時間が近づいてお茶子ちゃんや峰田くんも焦ってる。どうやらさっき緑谷くんを校門の前まで探しに行った青山くんだけは事情を知ってるようで簡単に説明してくれた。
やっぱり緑谷くんは事件に巻き込まれてたみたい。傷だらけで帰ってきたのだそうだ。ボロボロのままステージに上がるわけにはいかないと一度保健室で治療してもらうことになったらしい。
「こんな時までトラブルメーカー発揮すんなよなァ!」
「それは言えとる……ってデクくん!」
「ごめん遅くなって!」
「謝罪はあと!すぐスタンバイだよ!」
衣装に着替えた緑谷くんがようやく姿を見せた。すでに汗だくだ。現在AM9:57。私たちも急いで定位置に着く。
いよいよ始まる。ダンス隊のみんなと顔を見合わせたあと、後ろの響香に視線を送る。すぐに気づいて笑顔で頷いてくれた。よし、勇気もらえた。ゆっくり深呼吸をしてポーズを構える。
AM10:00。ステージ開始のブザーが鳴る。暗闇の中、幕が上がった。