文化祭
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あっという間に一カ月過ぎて明日はとうとう文化祭本番。今は実際に使うステージで最終リハーサル中だ。ダンス隊は一つ一つ動きを確認していく。
「緑谷‼動きまだヌルいから、グッ‼グッ‼意識‼」
「ラジャ‼」
三奈ちゃんが各々に最後の指導をしてくれて、私たちもそれに応える。彼女のおかげでダンス隊メンバーは全員かなり踊れるようになった。傍から見たら素人だとは思われないだろう。明日はバンド隊の演奏に恥じない動きができそうだ。
「そんで緑谷はソデからすぐ天井行って、そんで青山をセットしてロープで吊り上げる!」
演出も最終調整。要となる青山くんミラーボール作戦の導線をしっかりみんなで把握して明日に備える。
「モウ、ガルルル9時ダロ!?生徒はァア"ア"ア"9時まデダロォ‼」
「やっべ帰りまーす。」
あとちょっとを繰り返しながら何度も確認しているとついに見まわりのハウンドドッグ先生がやってきた。半分獣語になっているのを見ると結構お怒りモード。さっさと片付けて退散する。
寮に帰ってもみんな落ち着かないようで、夜の11時半を過ぎてるというのに共同スペースには人が多かった。
「寝れねー‼」
「しずかに!寝てる人もいるから。」
テンション高めではしゃぎまわってる上鳴くんと峰田くんを三奈ちゃんが諫める。とはいえ気持ちはわかる。私もさっきからずっとそわそわしちゃって落ち着かない。
「皆盛り上がってくれるだろうか。」
「そういうのはもう考えない方がいいよ。恥ずかしがったりおっかなびっくりやんのが一番良くない。舞台に上がったらもう後は楽しむ!」
ソファで心配そうにしている飯田くんに、響香がトントンと自分の胸を叩きながらアドバイスする。まず私たちが楽しまなくちゃお客さんにも楽しんでもらえないもんね。練習は本番のように本番は練習のように、だっけ。
「おまえめっちゃ照れ照れだったじゃねえか!」
「あれはまた違う話でしょ。」
上鳴くんが茶化すと響香は頬を染めて口を尖らせた。はじめは乗り気じゃなかった彼女も今は全力で取り組んでる。この文化祭で響香も一歩前へ進めたのかなと思うとなんだか嬉しかった。
私はその会話を聞きながら緑谷くんと青山くんと一緒に道具の点検中。一つ一つ綻びがないか丁寧に見ている。
「耳郎さんの話色んなとこに通じるね。」
「ウィ☆誰が為を考えると結局己が為に行き着くのさ。」
「なるほど。」
「青山くんかっこいい。」
「今さら気づいたのかい?お茶目さん☆」
珍しくまともなことを言った彼を褒めれば華麗なウィンクが返ってきた。ありがたく受け取っておこう。文化祭の準備で青山くんとの距離もかなり近くなった気がするなあ。
「紙吹雪は大丈夫そうかな。」
紙の量が多くて缶がいっぱいになってしまったので今は大きめの袋に入れている。みんなちょこちょこ一緒に作業してくれて助かった。
「結構集まったね。」
「うん。緑谷くんもお茶子ちゃんも手伝ってくれたし、爆豪くんの協力もあったからね。」
「え、かっちゃん!?」
「意外☆」
二人は信じられないといった顔で私を見た。まああの時も一回は普通に断られたし彼らの反応は正解と言っていいんだろう。信用ないなあ爆豪くん。
「共同スペースで作業しようとしてたらちょうどいたから誘ったの。」
「みょうじさん本当にかっちゃんの扱いうまいよね……。」
「自覚ないんだけどなあ。」
恐ろしいものを見るような目を向けられ苦笑が漏れる。あれは煽りが上手くいったから良かったものの失敗してたら折り紙ごと燃やされてたかもしれない。命があってよかった。
「ロープほつれてる。」
「ワオ☆ずっと練習で酷使してたもんね。」
緑谷くんの手元を見ると演出で使うロープはもうボロボロだった。二人が練習頑張った証拠だ。だけどこれは青山くんを吊るすワイヤーの代わり。本番で切れてしまったら大惨事だ。
「僕らの友情の証じゃないか‼☆」
「でも危ないよ。ちぎれて怪我でもしたら……。」
「うん、みょうじさんの言う通りだ。ごめん気付かなくて……。」
上鳴くんが百ちゃんに作ってもらうのを提案したけど彼女はもう就寝中。これのために起こすわけにもいかない。三奈ちゃんからもヤオモモを便利道具扱いするなってもっともなお叱りを受けた。
「僕明日朝イチで買ってくるよ。朝練もあるし、ついでに買いたいものもあるし。」
「え、大丈夫?私たち出番10時からだけど。」
ホームセンターって大体どこも9時からとかじゃなかったっけ。他の買い物もあるなら時間足りない気がする。
「雄英から15分くらいのとこにあるホームセンター。あそこなら朝8時からやってるんだよ。」
「けっこーギリじゃん。」
上鳴くんと一緒に心配な視線を送ったけど緑谷くんは大丈夫だよと笑ったのでこれ以上はやめておいた。まあ彼が全力ダッシュすれば往復20分で戻って来られるかもしれないし。無茶なスケジュールは組まないだろうから平気かな。
「そろそろガチで寝なきゃ。」
三奈ちゃんがソファから立ち上がって背伸びする。私たちも一通り道具の点検が終わったので明日に備えて寝ることにした。
みんな腰を上げてぞろぞろと一か所に集まる。切島くんが自分の拳を合わせて勝気な笑顔を見せた。
「そんじゃ……!また明日やると思うけど……夜更かし組‼一足お先に……。」
彼の声に合わせて私たちもにっこり笑う。夜中だからあんまり大きな声は出せないけど、みんな心は一つだった。
「絶対成功させるぞ‼」
『オー‼』
夜更かし組全員で上に手をあげて一足お先の気合い入れ。なんだかソワソワよりワクワクの方が勝ってきた。今夜眠れるかなあ。
まるで遠足前の小学生のような気持ちで布団に入る。目を閉じるとエリちゃんの顔が浮かんできた。彼女に笑ってほしい。その一心でこの一カ月頑張ってきた。
いよいよ明日。君に最高のステージを。高鳴る胸を抑えて深呼吸を続けると案外早く眠りに落ちていった。