番外編
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日曜の午後いつもの訓練着じゃなくそれなりにお洒落して共同スペースに行くと、ソファでおしゃべりをしていた三奈ちゃん・響香・透ちゃんの三人に見つかってしまった。
「あれ、なまえちゃん出かけるの?もしかしてまたデート!?」
「瀬呂さっき上鳴たちと男子棟上がっていったじゃん。」
「じゃあ轟とか?」
ソファから身を乗り出す透ちゃんと三奈ちゃんを響香が宥める。恋バナコンビ絶好調だなあ。だけど今日は彼女たちの期待に沿えるようなお出かけじゃない。
「実は相澤先生とデートなの。」
ふざけたノリでそう返してみれば一気にみんなの顔が険しくなる。
「それは……淫の行では?」
「相澤先生が未成年に手出すような人だったなんて……。」
三奈ちゃんと透ちゃんが眉間を抑えながら深いため息を吐く。古畑任三郎みたい。二人も悪ノリしてるだけなんだけどちょっと消太くんが可哀想になってきた。この会話聞かれてたら100パー怒られるな。墓場まで持ってこう。
「違う違う。エリちゃんの服見に行くの。」
「あ、インターンの子?」
「そうそう。」
吹き出すのをこらえながら事情を説明するとみんな納得してくれた。そう、これから私は消太くんとショッピング。可愛いエリちゃんに似合う服を発掘しに行くのだ。
「確かに相澤先生そういうの苦手そうだもんね。」
「そうなの。この前先生が自分で選んで買ったやつ見せてくれたんだけどね、それがあんまりで……。」
「そんなに?」
遠い目をしたら響香に笑われた。いや本当にあれはひどかった。思い出すだけで苦笑が漏れる。
「一言で言うと激ダサスウェットセットアップで……無駄にフリフリしてるというか目がチカチカするピンクというか……。謎のキャラクターが胸にプリントされててその上にローマ字でGANRIKI☆NEKOって書かれてて……。」
「ああ……。」
どうやらみんな察してくれたらしい。とにかく一目見てこりゃいかんってなった彼のセンス。あれをエリちゃんに着せるのが忍びなかったので当初の予定通り私が選ぶことになった。
時計を見るとそこそこの時間。寮から駐車場まで歩くしもう出なきゃ。
「それじゃあそろそろ行ってきまーす。」
「行ってらっしゃい!」
「気をつけてね。」
「お土産よろしく~!」
三人とも元気に送り出してくれて私も手を振る。最後の三奈ちゃんのは冗談だろうけどちょっと消太くんに交渉してみようかな。
駐車場に着くと消太くんはもう車の中にいた。私も急いで助手席へと乗り込む。
「悪いな、休日に。」
「いやいや。あれ着てエリちゃんが外歩くこと考えたらいてもたってもいられなかったよ。」
「もうその話はよせ。」
激ダサスウェットのことを掘り返せば眉間の皺が濃くなった。ごめんごめんと謝りながらシートベルトを締める。
「それじゃ行くぞ。」
「はーい。」
ゆっくり車が発進して近くのショッピングモールへ。そういえばいくら学校に許可取ってるからって教師と生徒が二人で子ども服選びに行くのってどうなんだろう。あらぬ誤解を生んだりしないのかな。
「今日はゲストがあと二人くる。」
「ゲスト?」
車の中にあったガムを口の中に入れていると消太くんから意外な言葉が零れた。どうやらデートじゃなかったらしい。ゲストが誰かはわかんないけど二人きりだと思ってたのでちょっと残念。
「学校の人だったら一緒に車乗ってけばよかったんじゃない?」
「先に見たい映画があるんだと。二人はもう現地に着いてる。」
そうなのか。それにしても休日に消太くんが気兼ねなく誘える相手……って言ったら一人はもう予想がついちゃうけど。もう一人が気になる。
ショッピングモールに到着して車を降りる。消太くんと一緒に子供服売り場に向かうとようやく二人の正体がわかった。
「ミッドナイト先生、山田先生!」
「はあい。」
「山田先生はやめろって!今日くらいいつもみたいに呼べよリスナー?」
ミッドナイト先生の手前名前で呼ぶの駄目かなって思ったんだけど、良いのか。ちらりと消太くんを見上げると彼も頷いてくれた。じゃあこれはプライベートってことで遠慮なく。
「ゲストってひざしくんたちのことだったんだね。何の映画見たの?」
「ゾンビのやつ!」
「次々人が感染してくのよお~。みょうじさんにもぜひ見てほしかったわ。」
「え、遠慮しときます……。」
ミッドナイト先生が謎に興奮していて若干顔が引きつる。二人ともそういう映画が趣味なのか。ひざしくんパニックホラーとか苦手そうな気がするんだけど連れてこられたのかな。
「立ち話はいい。早く本題を済ます。」
「相変わらず遊びのない男ねえ。」
「それがイレイザーのいいとこっスよ先輩。」
そういえばミッドナイト先生って二人の雄英時代の先輩なんだっけ。確か二人を雄英教師に誘ったのも彼女だったはず。ずっと仲良いんだなあ。なんだかちょっと羨ましい。どうやらさすがに生徒が担任と二人きりで子供服を見るのは問題だという話になったらしく二人も着いて来てくれたんだそうだ。
お店の中に入ってエリちゃんに似合う服を探す。うーん何色がいいかなあ。
「あら、この白のブラウス可愛いわね。」
「あ、ほんとですね!フリルも控えめだしこれならエリちゃんに似合いそう。」
ミッドナイト先生が見つけたのは生地が柔らかそうなブラウス。可愛いし何よりエリちゃんが着ている姿が目に浮かんだ。トップスはこれで決定にしよう。先生はエリちゃんに会ったことないはずなのにさすがだ。女の嗅覚ってやつだろうか。
「あ、こっちのワンピースも可愛い。鞄もセットになってる。」
「……エリちゃんの目の色と一緒だな。」
一際目を引く赤色のワンピース。消太くんもそれを見て目を細めた。
「ね、エリちゃん髪の色素薄いし何色でも似合いそう。サイズってわかる?」
「ちょっと待て。メモったやつがある。」
スマホからメモを探してくれて、それを見ながらエリちゃんの体格に合ったサイズを選ぶ。うん、ちゃんと在庫もある。さっき選んだブラウスにもぴったりだしワンピースと鞄も決定。あとはこれに合う靴だ。
「最近急に寒くなってきたから防寒も考えないとね。」
「なるほど。だったらタイツとかあった方がいいのかな。」
「香山先輩そーいうとこよく気づきますよネ!」
「だてに女やってないからねん。」
色気むんむんのミッドナイト先生の指摘に思わず唸る。やっぱり大人の女性の意見って参考になるなあ。見落としてたところ拾ってくれてありがたい。
足元は最終的にキャメルのムートンブーツにした。子供用だからヒールもないし中がモコモコの可愛いやつだ。それに黒のタイツを合わせてコーディネート完成。
「素晴らしい出来ね。」
「相澤とは大違いのセンスだな!」
「うるせえ。」
二人に褒められてちょっと照れる。消太くんはひざしくんにからかわれて不満そうだったけど、まじまじと私の選んだ服を見たあと「確かに全然違うな」ってボソッと呟いたのを聞き逃さなかった。
「会計してくる。外で待ってろ。」
私の持っていたかごをさっと奪ってレジの方へと向かう消太くん。彼の言葉通り私たち三人は先にお店を出て近くのベンチに腰掛けることにした。私からしたら謎の三人組だけど、今日はみんな私服だし周りには家族で買い物に来たように見えるかもしれない。
ぼーっと消太くんを待ってると、ミッドナイト先生と視線がぶつかる。すると彼女はなぜか眉を下げ、言いにくそうに口を開いた。
「……みょうじさん、申し訳なかったわね。」
「え?」
急に謝られて何のことかわからない。頭にはてなをいっぱい浮かべてると次の瞬間とんでもない爆弾が落とされた。
「期末テストの時瀬呂くんのこと膝枕しちゃって……試験だったとはいえごめんなさいね。」
それいつの話してるんですか。ひざしくんもいるというのにこの人は。一気に顔が熱くなる。というか私がモヤモヤしてたの気づいてたの?何で?
先生の口元は若干にやけてるしひざしくんは面白いもの見つけたみたいな顔してる。やばい、悪ノリコンビの餌食にされてる。
「なまえ……そういうことだったンかよ!俺とは遊びだったの!?」
「ちょっとやめて通報するよ。」
「こいつぁシヴィー!」
「私ずっと気にかかってて……あのあと二人でギクシャクしなかった?」
ひざしくんもふざけすぎだしミッドナイト先生絶対申し訳ないとか思ってない。だって何かを期待する目でこっち見てるもん。波風立てて青春のエキス吸おうとしてるよ。怖い、悪魔過ぎる。
「いやあの、全然気にしてないですから。その、試験だし……って私がどうこう言う話でもないですし!そもそも根も葉もない噂が立つと瀬呂くんにも迷惑かかっちゃうのであの、」
「あら?この前あなたが彼と仲睦まじそうにしてるとこ見かけたわよ。てっきり付き合ってるんだと思ってたけどそうじゃないの?」
必死で言い訳探してるとさらに追い打ち。付き合ってると思われてたのか。というかこの前っていつ。最近は頭撫でられるのも日常風景になりつつあるから正直心当たりがありすぎる。
「ち、違います……勘弁してください……。」
小さくなりながら顔を赤くしてると二人は私を見てケラケラ笑った。この人たち三奈ちゃんと透ちゃんコンビよりタチ悪い。若干泣きそうになってるとようやく消太くんが戻ってきた。救世主様だ。
「……どうした。」
「イエ、ナンデモナイデス。」
怪訝な顔をする彼に頭を振ればなんだかわからないけどポンポンと撫でてくれた。優しさが染みる。
エリちゃんの服が買えて目的達成ということでショッピングモールから帰る流れになる。今度は四人で車に乗るのだそうだ。
そういえばと寮での会話を思い出して三奈ちゃんたちへのお土産を消太くんに打診してみると、彼の返事より先にミッドナイト先生が「いい店知ってるわよ」とウィンクを投げた。結局消太くんは言われるがまま運転してそのお店に向かい、超高級マカロンを買ってくれた。というかお土産だけじゃなくて先生たちの分も買わされていた。
「ごめんね。」
「子どもが余計な気を回すな。別にお前らが喜ぶならいい。」
寮に着いてこっそり眉を下げれば返ってきたのは担任らしい顔。それが嬉しくて自然と口元が緩んだ。そのまま三奈ちゃんの部屋に行ってみるとさっきの三人が集まっていて。お土産の中身を確認するとみんな大喜び。一緒にマカロンを頬張りながらしっかりとその味を噛みしめた。