文化祭
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あの人とは、去年の準グランプリ波動ねじれさんだよね‼」
備品室と書かれた部屋に入るとそこには綺麗なドレスに身を包んだ波動先輩の姿。天喰先輩もいる。中には衣装がずらりと並べられていてカメラまであった。ミスコンの撮影してるのかな。
「ねェねェ何でエリちゃんいるの?フシギ!何で何で!?楽しいねー!」
抱っこしてたエリちゃんを降ろすと先輩が興味津々で彼女の下へ飛んでくる。空中にフワフワ漂う先輩を見てエリちゃんはパチクリと瞬きを繰り返していた。
「文化祭の予行演習で見学中なんです。波動先輩とてもお綺麗ですね。」
「ありがとう!なまえちゃんは出ないの?強敵になるから誘うの良くないってわかってるの。でも楽しいよ一緒だと。」
「あは、ミスコンの存在もさっき知ったばかりなので……今年は遠慮させて頂きます。」
「じゃあ来年見に行くね楽しみ!」
「えっ。」
曖昧に濁したつもりだったのに墓穴掘った。波動先輩のキラキラした目からは本気が感じられて来年どう言い訳しようか今から気が重くなってきた。
緑谷くんは胸元が開いた衣装をまとっている先輩を直視できないようで、うろうろと視線を彷徨わせている。
「個性も派手だしその……お顔も……ププププロポプロ……。」
「プロポーション。」
緑谷くんが先輩のスタイルを褒めようとしているのがわかったので助け舟を出す。彼はそうそれと顔を赤くして呟いた。
「そんな先輩でも準なんですね。」
緑谷くんの素朴な疑問。私もそう思った。波動先輩以上に可憐な人が雄英にいたとは。
「そー聞いて‼聞いてる!?毎年ねェ、勝てないんだよー。すごい子がいるの!」
波動先輩が言うには、その人はミスコンの覇者らしい。三年G組サポート科、絢爛崎美々美さん。名前からしてすごい。毎年文化祭の話題をかっさらっていく張本人なのだそうだ。サポート科ってやっぱりどこかぶっ飛んだ人が多い。
「今年はCM出演で隠れファンが急増しつつある拳藤さんも出る。波動さんも気合いが入ってる。正直体育祭で圧倒的支持を得たみょうじさんが出ないのは助かった。」
恐らく波動先輩のサポート役であろう天喰先輩に急に話題を振られて驚く。圧倒的支持って。確かにあれから呼び出し増えたけど。
拳藤さんは職場体験の時にウワバミさんの事務所で百ちゃんと一緒にCM出演を果たした。私はすごいなあって呑気に思ってたけど百ちゃんとしては本当にこれはヒーロー活動なのかっていう疑問が拭えなかったみたいで複雑そうな顔してたっけ。
「大衆の面前でパフォーマンスなんて……考えただけで……。いたた……お腹いたくなってきた……。」
「胃薬ありますよ先輩。」
「すまない……頂くよ……。」
「慣れてるねみょうじさん。」
インターンのおかげで天喰先輩とも大分仲良くなった。ポーチから薬を取り出して先輩に渡す。一連の流れに緑谷くんは苦笑してた。
「最初は有弓に言われるまま出てみただけなんだけど……何だかんだ楽しいし悔しいよ。」
波動先輩の言っている有弓さんというのは奥で衣装を選んでいる三年生の方だ。やっぱり周りに推されてミスコン出る人って多いんだなあ。
「だから今年は絶対優勝するの!最後だもん!」
波動先輩はそう言って満面の笑みを浮かべた。その顔は思わず息を呑むほど綺麗で、今年の優勝は先輩だというどこか確信めいた気持ちが生まれたくらいだった。彼女の言葉に通形先輩と天喰先輩も力強いエールを送る。
「できるさ!」
ちらりと下を見ると先ほどから黙ったままのエリちゃんがじっと波動先輩を見つめていた。今日はたくさん考えることがあるようで、病院で会った時よりも口数が少ない。疲れた?と聞いても首を振るので、パニックになったり悲しい気持ちになったりしてるわけじゃないんだろう。
波動先輩と天喰先輩と別れ、次はサポート科の見学へと向かう。教室内は機械や工具だらけでみんな開発に勤しんでいた。あちこちからものすごい音が聞こえてくる。エリちゃんが驚いてしまわないよう軽く耳を塞いだ。
「彼らは全学年一律で技術展示会を開くんだ!」
「これ知ってます!毎年注目されてますよね!」
私たちヒーロー科が体育祭に合わせてコンディションを整えるのと同じように、サポート科は文化祭に一番力を入れているらしい。
「全学年ってことは一年生にもチャンスがあるんですね。すごい。」
「そう!文化祭こそサポート科の晴れ舞台なんですよ!」
色んな機械やロボットに目移りしていると、突然背後から聞き覚えのある明るい声が響いた。
「発目さ……ってうおおお!!?」
「おっきい……。」
「ドッカワベイビー第202子です!」
振り返るとそこには発目さんと巨大なロボ。ベイビーだから子で数えてるのか。独特だ。
「なんか……汚れてるね……。」
「み、緑谷くん。」
発目さんの恰好を見て直球で感想を漏らした緑谷くんに慌てる。女の子にかける言葉じゃないよそれ。一生懸命作業してる証拠だろうし。だけど発目さんは気にしてないようで変わらぬ笑顔であっけらかんとしている。
「おフロに入る時間ももったいないので!」
「ええ~‼」
「すごいね!」
緑谷くんと通形先輩が感嘆の声を漏らす。彼女は今日がお休みということもあって昨日から泊まり込みで作業してるらしい。
「ご飯はちゃんと食べてる?」
「パワーローダー先生が無理矢理差し入れをくれるのでそこは大丈夫です!」
「よかった……。」
「糖分なくしていいアイディアは生まれませんからね!」
もしかして飲まず食わずなんじゃないかと心配になって聞いてみたけどそこはちゃんとしてるんだ。体調管理も仕事の内か。睡眠はあんまりとってないみたいだから適度に休んでほしいけど。
「どんどんアイディアが湧いてきて楽しくてですね!」
発目さんがベイビーの方へくるりと向きを変え、その機体を愛おしそうに触った。
「体育祭はヒーロー科に対する副次的なアピールチャンスの場でした。が!今回は私たちが主役の場を与えられているのです!」
発目さんは絶対にこの機を逃さないという決意の目をしていた。誰もが主役になれる。それが雄英の特色だ。
「より多くの人によりじっくり我が子を見てもらえるのです!恥ずかしくない子に育て上げなくては!」
高い目標をしっかりと見据えている彼女のプロ意識に刺激を受ける。発目さんが当日遺憾なく力を発揮できますように。こっそり祈っていると今度は話題が私と緑谷くんのコスチュームへと転じる。
「それよりアイアンソールはその後どうでしょう!?みょうじさんの手袋も‼また何かあればすぐに言ってください‼」
勢いあまってベイビーの機体をバンと叩いた発目さん。そんなに強い力じゃなかったとは思うけど何だかベイビーの様子がおかしくなってきた。
「うん、ありが……あっ。」
「ベイビー!?」
音を立てて爆発したベイビー。周りの人が慌てて集まってくる。
「わー発目またかよ!?」
「水!水‼」
これ以上の爆発は避けたかったためエリちゃんを連れて急いで教室から抜け出す。去り際に発目さんには謝っておいた。せっかく可愛いベイビーなのに、騎馬戦の時といい私と関わると彼女の作品が壊れてしまう。一体なぜ。
次に向かったのは普通科。せっかくだからと心操くんのクラスを覗いてみると何やら舞台を作ってる最中だった。
「お疲れ様です。」
「みょうじ。……隠し子?」
「違うから。」
声をかけると心操くんは少しびっくりしながら私とエリちゃんを見比べた。お約束になってきた質問をしっかり否定して事情を説明する。
「えっと……みょうじさんと心操くん仲いいね……?」
緑谷くんは私たちが親しげなことが気になったらしく首を傾げていた。そういやクラスの人に訓練のこと言ってないんだった。普通科の人たちにも私たちが訓練仲間だということは伝わってないらしく、さっきからちらちら視線が刺さっている。心操くん絶対隠れて努力するタイプだもんなあ。あとで彼が質問攻めにあうんじゃないかと心配になってくる。
「ちょっとした知り合い。」
「え、マブダチだと思ってた。」
「マ、マブ……?」
「キョトン顔やめてください。」
わざと意味が分からないって顔してくる心操くんに口を尖らせれば悪戯な笑顔が返ってきた。ますます謎が深まったようで緑谷くんが混乱してるのが見て取れる。
「いずれわかると思うから今はここだけの秘密にしといてもらってもいい?」
「う、うん。いいけど……。」
自分の口元に人差し指をあててお願いすると、緑谷くんは腑に落ちてないようだったけど了承してくれた。
「言えない関係ってこと……!?」
「先輩、言い方。」
通形先輩が悪ノリしてくるのでエリちゃんの耳を塞ぐ。デートのこと男女の蜜月な行楽とか言うし困った人だ。
「それ、何するの……?」
エリちゃんが私の服を掴んでこっそり耳元で聞いてきた。内緒話みたいで可愛い。どうやら心操くんの持っていた角材が気になったらしい。人見知りが発動してしまって本人には聞けないみたい。
「心操くんそれなに?」
代わりに尋ねると彼はエリちゃんからの質問だと気づいたらしく彼女と目線が合うように屈んで答えた。
「舞台の骨組みに使うんだ。今からこれをちょうどいい長さに折る。」
「え、ノコギリとかないよ?」
「こう。」
バキッという音と共に角材が真っ二つに割れた。いや心操くん素手。最近ますます体大きくなってるしどれくらい鍛えてるんだろう。彼の成長に冷や汗が出る。エリちゃんは目の前で簡単に折れた角材に目を輝かせていた。
「みょうじたちもできるだろ。せっかくだから一本ずつ折っていって。」
「ええ……?」
私、先輩、緑谷くんに一本ずつ角材が渡される。作業の邪魔してるのは明らかだから一応やらせて頂きますけど。さっきの早業がまた見られるのかとエリちゃんも少しわくわくした様子だ。
「せいっ。」
「よっし。」
通形先輩と緑谷くんは言わずもがな。綺麗に素手で角材を折った。私もそうしたいけどさすがにちょっと男の子の力には劣る。
「なまえさんも……折れる?」
「……じゃあちょっと違うやり方にしようかな。」
エリちゃんの期待を裏切るわけにもいかないので個性を使うことにした。角材の真ん中に手を添えて短い風を放つと一瞬で真っ二つになる。
「魔法……!」
お気に召したらしい。素手で折るよりも綺麗な切り口に私はなんとか魔法使いの称号を死守することができた。危ない危ない。
「当日はお化け屋敷やるからさ。よかったら見に来てよ。」
「え、怖い?」
「相当ね。」
「ええ~……。」
「怖いの苦手なんだ。」
エリちゃんにビラを手渡しながら煮え切らない返事をすると弱点がばれてしまった。にやにやしてる心操くん。今日ちょっと意地悪モードじゃない?
「みょうじの時はとびきり怖くするよ。」
「勘弁してください……。」
恐ろしい言葉に項垂れるとなぜか楽しそうな顔の通形先輩と目が合った。
「青春!なんだね!」
ぐっと親指を立てられる。あなたの期待に沿えるような関係じゃないです。先輩の手を取りそっとその親指を下げた。
お邪魔しましたと普通科にお礼を言って心操くんとバイバイする。ここはなかなかエリちゃんも気に入ったようだ。彼女の眉は今日ずっと下がったままだけど、それでも少し元気が出たように見えた。