文化祭
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日は土曜日。爆豪くんと焦凍くんも今週は仮免補講お休み。つまりクラス全員で文化祭に向けての練習や準備ができる。このチャンスを逃すまいとみんな気合い十分にそれぞれの課題に取り組んでいた。
「緑谷違ーう!もっとこうムキッと‼ロックダンスのロックはLOCKだよ!」
私たちダンス隊は三奈ちゃんの熱血指導を受けながら体の動かし方を勉強中。ロックダンスなかなか難しい。それっぽく見えるためには単に三奈ちゃんを真似するだけじゃなくて各々のリズム感も必要になってくる。苦戦してるメンバーも多く、飯田くんなんてさっきからずっとロボットのような動きを繰り返してる。
「女の子パートどうしよっか。」
「三奈ちゃんに教えてもろたん軸にちょっと考えよ。」
「オイラ動かねえ方がいいか?」
「そうだね。峰田くんにはそこにいてもらって……。」
ある程度全体練習ができたところで今度はパートごとに分かれる。三奈ちゃんは他の指導で忙しそうだったためお茶子ちゃん・梅雨ちゃん・透ちゃんと一緒に峰田くんハーレム作戦を話し合う。どうしたものかと頭を悩ませていると不意に茂みから見知った顔が覗いているのが目に入った。
「通形先輩……?」
不思議に思って声をかけると先輩はなぜか真顔になってしまった。その場にいたインターン組も彼に気づいて集まってくる。すると茂みから思わぬ人物が現れて私たちは声を挙げた。
「エッ……エリちゃん‼」
「デクさん。なまえお姉ちゃん。」
可愛い服に身を包んだエリちゃんが緑谷くんと私の名前を呼びながら顔を出した。病院服じゃない姿初めてだ。やっぱり似合ってる。選んだ甲斐あったなあと心の中でガッツポーズした。あまりの可愛さにいてもたってもいられなくなり、急いでエリちゃんの下に駆け寄る。通形先輩が視界の隅で一発芸してた気もするけど今はツッコむ余裕がない。
「あの、お洋服……ありがとうございます。」
「着てくれて嬉しいよ。すっごく似合ってる!」
「なまえちゃんが選んだの?素敵なおべべね。」
「かっかっ可愛~!」
梅雨ちゃんとお茶子ちゃんと一緒にべた褒め。はにかむ様子で見上げてくる彼女にもうメロメロだ。エリちゃんと初めて会う尾白くんたちは状況が呑み込めてないみたいで、通形先輩の隠し子かと戸惑ってる。
エリちゃんが顔を出したのをきっかけに消太くんもゆらりと茂みから出てきた。通形先輩は渾身のギャグをスルーされて落ち込んでる。申し訳ないことしてしまったな。
「校長から許可が下りた。」
「じゃあエリちゃん文化祭来られるんですね。」
「そういうことだ。いきなりだとびっくりしてパニック起こすかもしれないからな。一度来て慣れておこうって事だ。」
突然の訪問理由について消太くんが教えてくれる。確かに今まで外界と遮断された状態だったのに急に文化祭なんて体験したら混乱して体調崩すかもしれないもんね。今日は予行演習なわけだ。
飯田くんと峰田くんがエリちゃんに向かって挨拶したけど、彼女は通形先輩の後ろに隠れてしまった。照れ屋さんだ。可愛らしい挙動に頬が緩む。
「というわけでこれから俺エリちゃんと雄英内を回ろうと思ってんだけど、緑谷くんとみょうじさんもどうだい!?」
通形先輩の誘いに緑谷くんと顔を見合わせる。
「え、私もいいんですか?」
「もちろんさ!なんたってエリちゃんがご所望だからね!」
その言葉にエリちゃんの方を見ると大きな瞳がこちらを見上げていた。不安そうに眉を下げている彼女ににっこりと微笑む。
「一緒にデートしてもらっていい?」
目線を合わせて屈むとエリちゃん私の服の袖をぎゅっと掴んだ。
「でーと……みつげつなだんじょのこーらく……?」
「え!?教えたの誰!?」
「ごめん俺だ……!」
小首を傾げた彼女からとんでもない言葉が飛び出してきて思わず声をあげた。通形先輩がてへぺろと舌を出してきたのでしっかり注意しておいた。
「デートは二人で仲良くお出かけすることだよ。今回は四人だけどね。」
「仲良くお出かけ……。」
噛みしめるように繰り返したエリちゃんの前に手を差し出す。安心してもらえるようなるべく柔らかい表情に努めると、彼女の小さな手がぎゅっと私の手を掴んだ。
「なまえさんと……行きたい。」
「うん、一緒に行こっか。というわけでちょっと抜けてもいいかな?」
私が三奈ちゃんに確認をとっていると切島くんが現れた。演出隊からダンス隊に相談があるらしい。その話し合いがてらティータイムということになりみんなしばらく休憩になった。私と緑谷くん、そして通形先輩は制服に着替えて学校の見学へと向かう。
「今日は休日だけど寮制になったこともあって、たくさんの人が準備を進めてる。」
寮を離れ雄英の校内にやってきた。他のクラスの作業を見ながら通形先輩がエリちゃんに説明する。エリちゃんは私の手をしっかり握ったまま、きょろきょろと物珍しそうにあたりを見回していた。
「通形じゃん。」
「子ども!?えっタイフーンの娘さん、えっ!そういう関係……!?休学ってまさかそういう……。」
恐らく三年生が久しぶりに会うだろう通形先輩に話しかけてきた。彼と私の間にいるエリちゃんを見てその人たちは大混乱になっている。夫婦と疑われてるのちょっと笑っちゃうな。通形先輩も意味深ににこりと笑うだけで何も言わない。ガチっぽくなるからやめてください。
「冗談はおいといて今年のI組はすげェからおめーもぜったいこいよ!君たちもどうぞ。」
「わ、ありがとうございます。」
「いくいくー。」
三年生から出し物のビラを受け取る。こちらもなかなか楽しそうだ。通形先輩は軽めに返事して去って行くお友達二人に手を振っていた。
それにしてもちょっと歩いただけで声をかけられるなんて、先輩って人気者なんだなあ。明るいし率先して友達作るタイプなんだろう。天喰先輩が太陽みたいな人だって言ってたのも頷ける。
文化祭までまだ一カ月あるけど、学内はかなり慌ただしい様子だ。みんな去年よりすごいものを提供したいっていうプルスウルトラ精神で臨んでる。私たちも負けてられないな。
エリちゃんの歩幅に合わせて進んでいると、いきなり目の前に竜の顔が現れた。
「うわあ!!?」
「何!?」
緑谷くんと一緒に思わず声をあげると、顔を覗かせたのは鉄哲くん。
「すンません……ってA組の緑谷とみょうじじゃねェか‼」
どうやら出し物に使う大道具を運んでる最中だったみたい。演劇とかやるのかな。
「アレアレアレー!?こんなところで油売ってるなんて余裕ですかあアア!?」
鉄哲くんに続いて顔を出したのは物間くん。後ろに泡瀬くんもいる。あちゃー、二人はともかく物間くんと鉢合わせになっちゃうなんて。想定外の事態だ。
「エリちゃん大丈夫?」
「ふってきた人かと思った。」
「リューキュウさんか。確かに似てるね。」
エリちゃんの心配が最優先。緑谷くんと一緒に彼女がびっくりしてないか確認すると、想像よりも落ち着いてるみたいだった。竜の顔といきなり大声で煽ってきた物間くんを交互に見つめて不思議そうにしてる。
「オヤオヤ無視かい!?いいのかい!?ライヴ的なことをするんだってね!?いいのかなァ!?今回ハッキリ言って君たちより僕らB組の方がすごいんだが!?」
「何やるの?」
こちらを気にせず物間くんが絶好調なので出し物について尋ねてみると、待ってましたと言わんばかりにさらに声が大きくなった。
「ロミオとジュリエットとアズカバンの囚人~王の帰還~‼B組の完全オリジナル脚本超スペクタクルファンタジー演劇‼」
色々交ざってる。というか詰め込み過ぎなんじゃないだろうか。泡瀬くんや鱗くんもキャストとして出るみたいだから正直気にはなるけど。
「準備しといた方がいいよ!B組に喰われて涙するその時の為のハンカチをね‼」
物間くんの煽りが収集つかなくなってきたなあと思っていたら泡瀬くんが背後から角材で殴って強制終了してくれた。殺人現場かな?エリちゃんに悪影響が出ないように目を塞いで見せないようにする。
「いつにも増してめっちゃ言ってくる……!」
「物間くん元気だよね。」
「ごめんよA組。拳藤がいねーからハドメがきかねー。」
緑谷くんと一緒に呆れていると泡瀬くんが謝ってくれた。あれ、そういや今日拳藤さんはどうしたんだろう。
「物間くんとセットのイメージあったけど……。」
緑谷くんもきょろきょろとあたりを見回している。
「今回は別!あいつはミスコン出るのよ。ムリヤリエントリーさせられて。ってかみょうじもそうじゃねーの?」
突然話題を振られて首を傾げた。え、雄英ってミスコンあるの?どうやらこの場で知らなかったのは私と緑谷くんだけだったらしい。
「え、出ないよ。というかミスコンあるのも初耳。」
「そうなのか?もったいねえなあ。出たら回原も喜んだろうに。」
「なんでそこで回原くん……。」
「物間じゃねーけどお互い気張ってこーぜ!じゃ‼」
何だかからかわれそうな雲行きに内心焦ってると、鉄哲くんが入って来て会話を終了させてくれた。彼らも準備で忙しいんだろう。物間くんを担いで足早に去って行く。正直助かった。ありがとう鉄哲くん。
「先生ミスコンの事なんて一言も言ってなかった。」
「言わなくてもいいだろって感じだったのかなあ。忘れてたとかじゃないと思う。」
消太くんああいう雰囲気苦手そうだし。今回私たちは他の科に喜んでもらうことが目的だからそれに専念しろってことなのかも。とにかく嵐のようにB組がいなくなってしまったのでエリちゃんが混乱してないか確認をとる。
「大丈夫?」
「大きい顔だった。」
「あれも時間が合えば文化祭で見られると思うよ。」
泡瀬くんたちが持っていた大きな竜の顔に怖がるわけでもなく何かを考えるように俯くエリちゃん。色々インプットしてるその姿は微笑ましいもので、今後もこういう思い出が増えていけばいいなと勝手に願っていた。
「いきなり雄英の負の面を見せてごめんよエリちゃん。」
通形先輩が謝ると彼女は不思議そうに首を傾げた。あんまり意味は分かってないようだったけど私は思わず笑ってしまった。物間くんが負の面。言い得て妙だ。今度拳藤さんに会ったら伝えてみよう。
「ミスコンといえばそうだ!あの人も今年は気合い入ってるよ!」
「あの人?」
通形先輩の言葉に三人で顔を見合わせる。あの人って誰だろう。私たちの知ってる人なのかな。わからないまま先輩が駆け出したので、私は慌ててエリちゃんを抱きかかえる。抱っこされた彼女は少し驚いた様子だったけど、すぐにはにかむように頬を染め私の胸に頭を預けてくれた。可愛い。ほっこりしながら前を走る先輩を追いかけ、別の教室へと足を進めた。