文化祭
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休日、共同スペースのソファで文化祭の参考になりそうな動画を漁っていると緑谷くんが外出から帰ってきた。
「おかえり。エリちゃんどうだった?」
「それが聞いてよみょうじさん!エリちゃん文化祭に来られそうなんだ!」
「え!ほんとに?」
興奮気味の彼が走って私のところまでやってくる。その表情からエリちゃんと何かいい話ができたのだろうと推測できた。
「今相澤先生が校長先生に掛け合ってくれてるみたいなんだけど、多分大丈夫だって!エリちゃんもすごく楽しみにしてくれてて、林檎飴食べたいって言ってくれて……!だからみょうじさんも屋台当日探してほしくて、」
「み、緑谷くん落ちついて。」
「あ、ごめん……!」
あまりの勢いに一旦言葉を遮ってしまう。彼は照れたように頭を掻いて、エリちゃんの好物がリンゴであることを教えてくれた。
「林檎飴かあ。常闇くんと気が合いそうだね。」
「そういやリンゴ好き同士だ!」
「ね。私もお店探してみるよ。クラスの皆とも仲良くなれるといいなあ。」
俄然文化祭が楽しみになってきた。緑谷くんも同じ気持ちのようで気合いの入った顔で手が差し出される。これは握手を求められてるんだろうか。いつになく大胆な彼におずおずと手を重ねると我に返ったのか突然頬を赤く染めた。
「あっごごごめんつい!これは別にその変な意味じゃなくて文化祭頑張ろうってことで……。」
早口で弁明をする彼のあまりの慌てぶりに笑ってしまう。勢いのまま思わず出してしまったらしい手に、私もしっかりと力を込めた。
「大丈夫、ちゃんとわかってるよ。エリちゃんに喜んでもらえるようないいステージにしようね。」
二人で握手を交わす。きっとこれは誓いの握手だ。彼女に本当の笑顔を取り戻してもらうための私と緑谷くんの固い約束。手を離すと彼は照れたように眉を下げた。
「エリちゃん、みょうじさんにもすごく会いたがってた。今日はなまえお姉さんいないのって。」
「え、それは嬉しい。私もお話ししたかったなあ。」
「折り紙渡すと嬉しそうにしてたよ。前に一緒に作ったものも病室に飾ってた。」
「天使だ……。」
今朝緑谷くんにエリちゃんへのお土産を渡しておいた。綺麗な模様の折り紙を3種類と、いくつか動物の形を折ったもの。どうやらそれは無事彼女の手元に渡ったらしい。喜んでくれてる顔、私も見たかったなあ。
「そういえば僕と先輩が病室入ってすぐにエリちゃんがみょうじさんのこと本当の魔法使いだって言って相澤先生も笑ってたけど……。」
緑谷くんが不思議そうに首を傾げた。その顔を見て自然と目が細まる。
「ふふ、そうなんだよね。私が魔法で緑谷くんたちを呼んだの。二人がエリちゃんに会いに行ってくれたことでその魔法が完成したんだけど。」
要領を得ない私の説明に彼がますます首を傾げる。この前のことを話してみると納得したようにいい魔法だねと笑ってくれた。
「エリちゃん、大分回復してるみたいだけどまだ笑顔は……。」
「うん……。見たいよね、エリちゃんの笑った顔。絶対可愛い。」
エリちゃんがいまだ治崎の支配から抜け出せていないことを、緑谷くんも悟ったみたいだった。彼女にもう縛られる必要はないのだと理解してもらうためにも私たちは自分のやるべきことに全力で取り組まなくちゃ。
「文化祭、頑張ろ。」
「うん!」
「ということで緑谷くんも参考になりそうな動画収集お願いします。」
「わ、わかりました……!」
改めて向き合うと力のこもった返事が響いた。文化祭のステージが少しでもいいものになるように。緑谷くんも一緒にソファに腰かけて、しばらく二人で唸りながら構想を練っていた。
次の日、ようやく補習も終わりインターンの間の遅れを取り戻せた。
「つ、疲れた……。」
「お茶子ちゃんお疲れ様。」
「今頃みんな話し合いの途中かしら。」
「俺らも早く行かねーとな!」
インターン組でわいわい話しながら寮へと向かう。玄関のドアを開けるともうすでにみんな盛り上がってるみたいで、賑やかな声が聞こえてきた。
「うーす。」
「補習今日でようやく穴埋まりました。」
「本格参加するよー!」
共同スペースに入っていくとみんなお疲れと出迎えてくれる。とりあえず状況がわかってないのでこれまでの話し合いについて教えてもらった。
「え!爆豪くんドラムやってくれるの……!?」
意外過ぎる人選。何でも響香への負担が大きくなってしまうのを避けるために選出されたらしい。爆豪くん昔音楽教室通ってたんだって。驚きの初出し情報。
響香はギターもベースも弾けるけど、ドラムはまだ練習中。初心者に教えながら彼女もドラムを練習ってことになるとかなりキツイということで才能マンの爆豪くんに白羽の矢が立ったらしい。焚きつけたのは瀬呂くん。なんか扱い慣れてるなあ。
「爆豪くんいるなら百人力だね。」
「ったりめーじゃ。雄英全員音で殺る。」
「物騒。」
発想がヒーローから出てくるものじゃないんだよなあ。どうやら彼は私たちが他の科のストレス発散を目的としていたのが気に入らなかったみたいだ。確かに彼らからしたらストレスの原因になってる私たちがいきなり機嫌を取ってきても余計に苛立つだけかもしれない。爆豪くん曰くこれは殴り合い。私たちの全力の音楽でストレスを抱えた人たちの感情を殴るということなのだろう。多分。
爆豪くんはさすがに極端すぎるにしても一理ある。単純なご機嫌取りじゃ人の心は掴めない。現状ストレスを抱えている人たちのネガティブな感情をふき飛ばしてしまうくらい全力でやって全力で楽しんでもらわなきゃ。
「そんでウチはベース、ヤオモモがキーボードってとこまで決まったの。あとはギターとボーカル。」
「へ?うたは耳郎ちゃんじゃないの?」
バンドメンバーについて響香が話すとお茶子ちゃんがきょとんと首を傾げた。私も同意見。絶対に響香が適任だ。
「いやまだ全然……。」
「ボーカルならオイラがやる!モテる!」
「ミラーボール兼ボーカルはそうこの僕☆」
「オウ!楽器はできねーけど歌なら自信あんぜ!」
響香が戸惑ってると峰田くん・青山くん・切島くんの自称歌うま三銃士が名乗りを上げた。オーディションも兼ねてその実力をみんなで聞いてみることになったけど、三人とも何とも言えない。切島くんは今回のバンドとテイストが違うし峰田くんはめちゃくちゃに叫んでるだけに聞こえた。青山くんは美声ではあると思うけど終始裏声だ。
「やっぱり響香がいいんじゃないかなあ。」
「私もそう思う!前に部屋で教えてくれた時、歌もすっごくカッコよかったんだから!」
三人が歌い終わったところで率直な感想を呟くと透ちゃんも賛同してくれた。他の女の子たちもうんうんと頷いている。
「ちょっと……ハードルあげないでよ。」
やりづらと焦っている響香を透ちゃんと一緒にマイクまで連れて行く。歌ってとせがめば彼女は困りながらも覚悟を決めてくれた。
「オイラたちの魂の叫びをさしおいて……どんなモンだよコラ……?ええコラ!?」
「耳郎の歌聞いてみてエな!いっちょ頼むぜ!」
ボーカル立候補組がやんややんやと囃し立てる。響香は一度深呼吸をして自分を落ち着かせたあと、ゆっくりと歌い始めた。
本当に綺麗な声。洗練されたその歌に誰もが聞き惚れた。峰田くんと青山くんも完敗のようで地面に伏している。
「耳が幸せ―‼」
「ハスキーセクシーボイス!」
「満場一致で決定だ‼」
立候補していたはずの切島くんも一緒になって盛り上がる。自慢の親友になぜか私が誇らしい気持ちになっていた。これでボーカルは決定だ。響香はみんなに褒められて恥ずかしそう。そそくさとマイクから離れてバンドメンバーへと話を移す。
「あとギター‼二本ほしい!」
すかさず手を挙げたのは上鳴くんと峰田くん。
「やりてー‼楽器弾けるとかカッケー‼」
「やらせろ‼」
「やりてェじゃねンだよ殺る気あんのか‼」
「あるある超ある!」
ノリで言ってるように見える上鳴くんに爆豪くんがキレたけど本人はそんなに気にしてなさそう。爆豪くんのこと適当にあしらえるのある意味才能だと思う。
試しに響香の部屋から持ってきたギターを二人が弾いてみることになった。ジャーンと音を鳴らして喜んでる上鳴くんはなかなか様になってていい感じ。峰田くんはキャラデザの関係で弦に手が届かず断念。涙を流しながら落ち込んでしまった。
すると峰田くんが手放したギターを常闇くんが拾って弾き始めた。爆豪くんに続いて意外な一面。
「常闇……!?」
「なんて切ねェ音出しやがる……‼」
「弾けるのか!?なぜ黙ってた!?」
みんなからも驚きの声が次々に漏れる。常闇くんは切なそうに眉を顰めながらいじけている峰田くんの方を見た。
「Fコードで一度手放した身ゆえ。峰田、おまえが諦めるならば俺がおまえの分まで爪弾く。」
部屋の隅で体育座りしてる峰田くんはそれを聞きたくないとばかりに暴言を吐く。
「勝手にしろクソが。下らん下らん。」
これでギター二人は決定したけど峰田くんは納得いかない様子。ボーカルもギターも却下されちゃったもんね。少し気の毒になってくる。
「はよ終われ文化祭。全員爪割れろ。」
やさぐれてしまった彼を心配してお茶子ちゃんと三奈ちゃんがその背中に近づく。
「峰田!ダンス峰田のハーレムパートつくったらやる!?」
「やるわ。はよ来いや文化祭。」
彼女たちからの提案に彼はコロッと態度を変えた。現金だなあ。とにかくこれでみんな参加への意欲は高まった。バンドの方は決定したからあとは他のメンバーの役割決めだ。
演出についてもインターン組が帰る前にある程度話が進んでいたようで、三奈ちゃんが構想を教えてくれた。まずお茶子ちゃんが切島くんと焦凍くんを浮かせる。青山くんがミラーボールとして吊るされてるからその上で焦凍くんの氷を切島くんがゴリゴリ削る。そうするとスターダストみたいに光がキラキラ舞い落ちるっていう寸法らしい。発想がぶっ飛び過ぎてるけどすごい。三奈ちゃんアイディアの宝庫だ。
「なまえはギターじゃなくてよかったの?」
「本格的なのは全然できないし……個性的に演出の方がいいかなって。」
響香に聞かれてそう答えれば急に肩を誰かに掴まれた。後ろを振り返ると怖い顔の三奈ちゃん。
「何言ってんの!なまえはダンス隊!顔出しするところにいてもらうからね!?」
「え、なんで……?」
凄まじい勢いに押されながら恐る恐る聞き返すと当然だというように手鏡を見せられた。
「ほら見て!自分の顔!A組のビジュアル担当なんだから自覚して!」
「ええ……。」
初耳なんですが。助けを求めようと周りを見たけどみんなにもうんうんと頷かれた。味方がいない。
「じゃあダンス隊で……?」
「よっしゃー!気合入れてこ!」
三奈ちゃんの圧に負けて了承の返事をすると待ってましたと言わんばかりに抱き着かれた。強引だけど楽しそうだからいっか。バンドメンバー以外は女の子みんなダンス希望してるみたいだし。
その後も話し合いは続き、ようやく全員の役割が決定した頃には時計は深夜一時を回っていた。眠そうにしているメンバーもいる中各々の担当を確認する。
まずバンド隊。ベース兼ボーカルは響香、ギターは上鳴くんと常闇くん、キーボードは百ちゃん、そしてドラムは爆豪くん。演出隊は瀬呂くん・焦凍くん・青山くん・切島くん・口田くんの5人だ。私含めた残りのメンバーはダンス隊。楽しい雰囲気に心が躍る。
とりあえず夜も遅いので今日は解散。きっと明日から忙しくなる。そのために今は休んでおこう。ワクワクした気持ちを胸にみんなで気合いを入れる。文化祭まであと一か月。逸る気持ちを抑えられないまま私も自室の布団へと潜った。