文化祭
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放課後インターン組で補習を受けている。その中でもみんなが気になっていたのはホームルームの時にもちらっと話が出ていたエリちゃんについて。授業に一区切りついたところで消太くんから説明があった。
「緑谷ちゃんに会いたがってる?」
彼の言葉を受けて梅雨ちゃんは首を傾げた。他の面々も不思議そうな顔をしている。
「ああ。厳密には緑谷と通形を気にしている。要望を口にしたのは入院生活始まって以来初めての事だそうだ。」
ずっと溜め込んできたエリちゃんの気持ち。自分のやりたいことを口にするだけでも相当勇気がいっただろう。あの時ちゃんと聞くことができて本当に良かった。
「聞き出せたのはみょうじがエリちゃんと話をしてくれたおかげだ。ありがとうな。」
「みょうじさんが?」
消太くんが私にお礼を言えば緑谷くんは目を丸くした。謎の人選にみんなからの視線が刺さる。当然だ。瀬呂くんと響香以外で何の接点もなかった私が呼ばれた理由に気づく人はいない。
「あの時はまだちょっと男の人が怖かったみたいで。事件のこと思い出すのも良くないってことで顔見られてない私のところに依頼が来たの。」
この場で自分の過去についてべらべら話すわけにもいかないのでそれらしく誤魔化す。消太くんも何故私を呼んだかについて詳しく話すつもりはないようでただ頷くだけだった。
「そういうことだ。まあ結果的にエリちゃん本人から事件に関することが聞けたわけだが……。」
消太くんはそこで言葉を切って目を伏せた。この前のエリちゃんを思い出したんだろう。あれほど過酷な環境にいたというのに、他の人の心配をして自分を責め続けている彼女。周囲に怯えるあの目が浮かんで私の胸も痛んだ。
「エリちゃん、緑谷くんと通形先輩……あとナイトアイさんのこともすごく気にしてた。自分のせいで迷惑かけて、怪我させちゃったんだって。」
代わりに私が話を続けると緑谷くんが勢い良く立ち上がった。
「違うよ!エリちゃんは悪いところなんて……!」
彼の拳は震えていた。周りのみんなも悲しそうな表情をしている。だけどこれは事実なんだ。ずっと苦しめられてきた存在がいなくなったからはい終わりなんて、そんな簡単な話じゃない。何であんなひどい目に遭わなきゃいけなかったのか。自分のせいだったのか。そうやって一生解決されない問いを抱えたまま、長い年月を過ごしていくことになる。
「うん、私もそう伝えた。だけど多分、響かなかった。エリちゃんはまだ救われてないんだと思う。彼女のそばから治崎はいなくなった。でも、きっと心の中からは消えてない。」
「そんな……。」
私の言葉にみんなが肩を落とした。静かになってしまった教室で、消太くんが私たちを慰めるように口を開く。
「そう落ち込むな。エリちゃんはまだこれからだ。心の傷はそう簡単に癒えるもんじゃない。ゆっくり時間をかけて治していくもんだ。それを忘れて焦るなよ。」
誰もが真剣な顔で頷いた。そう、焦っちゃいけない。エリちゃんの本当の笑顔が見られるまで、何度だって根気強く語りかけるんだ。みんなあなたのことが大好きだよって。あなたは愛されるために生まれてきたんだよって。私が誰かにしてもらったみたいに。
「というわけでこの休みあけておけよ緑谷。」
「あれ、私は?」
「あまり大勢で行っても混乱させるだろう。医者もフラッシュバック懸念してるそうでな。今回は留守番だ。」
「……わかりましたあ。」
不満そうに口を尖らせると語尾を伸ばすなって怒られた。でも私も会いたかったもん。仕方ないからあとで折り紙折って緑谷くんに託そう。エリちゃん喜んでくれるかなあ。
補習から帰ると文化祭の話し合いは一通り終わってるみたいだった。私たちインターン組は補習で出し物決めに参加できないからみんなの決定に従うことになっている。共同スペースでは響香と三奈ちゃん、そして百ちゃんがパソコンを囲んで話し合っていた。
「なまえおかえり~。」
「ただいま。出し物決まった感じ?」
「音とダンスでパリピ演出!」
「ごめんなんて?」
自分たちが何をするのか気になって聞いてみると、三奈ちゃんから返ってきたのは謎の呪文。パリピ演出って何?困惑していると見兼ねた百ちゃんが順を追って説明してくれた。
まず候補に多く上がっていた食べ物系。雄英生はみんなランチラッシュさんの料理を普段から食べているため学生の私たちでは食で満足させられるものは提供できないという結論になったようだ。確かにプロには勝てない、納得。他の科の人たちが喜ぶような出し物にしなくちゃだもんね。
「それでダンスがいいって話になったの!」
「轟も賛同してくれてね。」
「焦凍くんが?」
それは意外過ぎる。何でも仮免補講から連想した案だったらしく、フェスのような形で踊りを披露すれば一体型になってお客さんもみんな楽しめるんじゃないかとクラスの意見もまとまったみたい。どんな講習だったんだろう。爆豪くんと焦凍くんが二人で踊ってる姿を想像して吹き出してしまった。
「音っていうのは?」
「耳郎さんの生演奏ですわ!」
「えっ。」
驚いてそちらを見ると響香の照れくさそうな顔。
「まあなまえも背中押してくれたし。みんなからもやる気出ること言われて……断るのもロックじゃないかなって。」
くるくるとイヤホンジャックを弄りながら頬を染める響香。可愛い。彼女が趣味に前向きになってくれたのも嬉しくて思わず抱き着いた。
「すごいね、絶対いいものになる。」
「なまえも力貸してよね。」
「もちろん!」
何でも言ってと胸を叩いて見せたけどまずはお風呂に入ってきなさいって正論で追い返された。もう夜遅かったので素直に従う。それにしても楽しみだなあ。演奏は響香、ダンスは三奈ちゃんが指導してくれるらしい。A組みんなでフェス提供。こんなにワクワクするの久しぶりだ。お風呂に向かいながら自然と鼻歌が漏れた。