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二日後。みんなが寝静まったあとに共同スペースへと向かう。集まったのはインターンの五人。ようやく、決行日を知らせるメールが届いたのだ。
「なんか、緊張するね……。」
「無理もないわ。あんな話を聞いた後ですもの。」
「それでも、俺らはやることやるだけだ。」
全員同じような面持ちで、この数日間どんな思いで過ごしてきたのかわかるようだった。その中でもひと際思い詰めた様子の緑谷くん。沈黙のまま決行日について記されたメールを見つめている。
「緑谷くん、エリちゃんのこと助けよう。」
「うん……‼」
みんなでぎゅっと拳を握る。小さな女の子の手を、今度こそ掴むんだ。
決行当日。私たちは再びナイトアイさんの事務所に集められた。今日のことについてナイトアイさん自身から説明を受ける。
まず、居場所の特定について。治崎はなんと本拠地にいた。逃げも隠れもしてないらしい。さらに八斎會の構成員が近くのデパートでプリユアのおもちゃを買っていたことも分かった。プリユアは小さい女の子に人気のアニメ。恐らくエリちゃんへのプレゼントだろう。色んな趣味の人がいるので断定はしづらいけど、ナイトアイさんが個性を使って予知してくれたらしい。その人がそのおもちゃをエリちゃんに渡しているところが映ったのだそうだ。核心を得た時のダメ押し。とにかくこれでばっちりエリちゃんの居場所が特定できたわけだ。
治崎が家にいる時間帯も張り込みにより把握済み。令状も出ていてあとは乗り込むだけ。この短期間でこれだけ準備ができてるなんて。プロの迅速さを改めて目の当たりにした。
朝8時。コスチュームに着替えて警察署前で最終確認を行う。当たり前だけど警察の人たちもずらりと並んでいてかなり物々しい雰囲気だ。
ナイトアイさんが構成員の未来を予知してくれた結果、治崎の本拠地である死穢八斎會邸宅には届け出のない入り組んだ地下施設が存在していることがわかった。構成員はその施設を迷いなく進み、とある部屋に入っていったそうだ。そこがエリちゃんの部屋。男がどこにも寄り道せずまっすぐエリちゃんの部屋に向かったので、地下の全体像は把握できなかった。けどそれはつまり彼女への最短ルートを知ることができたということで、かなり有益な情報だ。
警察の人たちは八斎會のメンバーの個性をリストアップしてくれていた。全員に配られ私も目を通す。エリちゃん救出に向かう際に、個性で妨害されたら捜索も難航してしまう。その懸念への対処だ。ぬかりない。
「隠ぺいの時間を与えぬ為にも、全構成員の確認・補足等可能な限り迅速に行いたい。」
ナイトアイさんからの指示。いよいよ決戦も間近って感じで緊張が高まる。
「みょうじちゃん今回は堪忍な。」
「もちろんです。こっちはこっちでやれることあると思いますから。ファットさんが怪我しないよう祈っときます。」
「ええ子や……っ!泣かせるなァ!」
「切島くんと天喰先輩も、お気をつけて。」
「おう!みょうじもな!」
「……ありがとう。君も無理しないように。」
今回は個性的にリューキュウさんのところと一緒に動いた方がいいだろうということになった。ファットさんたちは前線突入隊。私は空中得意組として後方支援に回る。ゴリゴリの戦闘になると役に立てるかわからないし、狭い地下の中では私の個性は邪魔になるかもしれない。危険なことを人に任せてしまうのは忍びないけど、今回はサポートに徹しよう。
「リューキュウさん、お世話になります。」
「こちらこそ。ウチの事務所も随分華やかになったわね。」
視線の先には波動先輩・梅雨ちゃん・お茶子ちゃん。確かに、と言ってくすりと笑う。そうか、緊張をほぐしてくれてるんだ。細やかな気配りに彼女の強さを感じた。
「なまえちゃん!がんばろね!」
「うん!」
「あのねみょうじさん知ってるよ風の個性だよね。飛べるのかな不思議!似てるよね個性、なまえちゃんて呼ぶけどいい?」
「あ、え?」
「先輩落ち着いて。なまえちゃんが困ってるわ。」
お茶子ちゃんと気合を入れていたら急に波動先輩に抱き着かれた。いつもの質問攻めに戸惑ってると梅雨ちゃんが見兼ねて間に入ってくれる。落ち着いたところで名前で呼んでいいと伝えると波動先輩はにこにこしていた。可愛い。まだ距離間つかめてないけどもっと仲良くなりたいなあ。リューキュウさんと先輩のおかげで肩の力抜けたかも。
「おい。」
「あいっレイザヘッド!」
切島くんと話していた緑谷くんに向かって消太くんが声をかける。緑谷くんはびくりと肩を震わせながらもそれに応じた。
「俺はナイトアイ事務所と動く。意味わかるな?」
「はい……!」
それは多分正規の活躍を見ているぞという意味。無茶したらひっぱたくのニュアンスもちょっと入ってるかもしれない。消太くんの視線に応えるように、緑谷くんは大きな返事をした。彼の決意の表れのような通る声だった。
「お前さんもくれぐれも無理しないように。」
「はーい。」
「返事を伸ばすな。」
私にも注意の目は飛んできて釘を刺される。最近ずっと沈んでたからほとんどは心配なんだろうけど。消太くんは怒りながらも頭を撫でてくれた。うん、やる気でた。
警察の人が前に出る。これが最後の確認だ。
「ヒーロー、多少手荒になっても仕方ない。少しでも怪しい素振りや反抗の意志が見えたらすぐ対応を頼むよ!相手は仮にも今日まで生き延びた極道者。くれぐれも気を緩めずに各員の仕事を全うしてほしい!出動!」
始まりの合図だった。私たちはそのまま敵の本拠地、死穢八斎會邸宅へと向かう。朝8時半。ずらりと門の前に並んで作戦決行だ。
「令状読み上げたらダーッ‼っと!行くんで!速やかによろしくお願いします。」
警察の人の言葉に緊張感が増す。息を深く吐いた。ロックロックさんは警察の発言が気に入らなかったようでまた文句言ってる。あの人口悪いよなあと半ば呆れてたけど、そんな余裕は一瞬で消し飛んだ。
「何なんですかァ。朝から大人数でぇ……。」
警察の人がインターホンを押したのと同時に大柄の男が門をぶち破ってこちらに一撃を入れてきた。前方に並んでいた警察の人たちが吹き飛ぶ。
「助けます。」
消太くんの声を合図に空中へ浮かぶ。飛ばされた人を素早く捕まえふわりと着地した。
「大丈夫ですか!?どこか怪我とか……。」
「ありがとう……平気だ。ちょっとお腹痛いけど。」
すぐさま安全確認すると敵の方に向かっていいと言われたのでそうさせてもらう。他の吹き飛ばされた人たちも緑谷くんと消太くんのおかげでみんな無事みたいだ。私はリューキュウ事務所に合流する。
「オイオイオイ待て待て!!!感付かれたのかよ‼」
「いいから皆で取りおさえろ!」
こちら側から困惑の声が聞こえてくる。相手からの急な攻撃に混乱してるんだ。隊列崩されたらまずい。
「少し元気が入ったぞー……もお~~~。」
「離れて‼」
もう一度相手の腕が振りかぶる。攻撃を予測してリューキュウさんが前線に立った。
「何の用ですかァ!!!」
先ほどと同じ強い威力のパンチ。けれどそれが私たちに届くことはなかった。
「とりあえずここに人員割くのは違うでしょう。彼はリューキュウ事務所で対処します。皆は引き続き仕事を。」
竜の姿になったリューキュウさんが、相手の右腕をしっかり握っている。そのまま男の身体を倒して足で抑えつけた。動きを止めている間にみんな突入していく。
「サポート‼」
「はい!」
波動先輩からの指示もあり私もお茶子ちゃんたちと一緒に男の身柄確保に向かう。
「梅雨ちゃん、みょうじ、麗日!頑張ろうな!」
「また後で‼」
「二人も気を付けて!」
切島くんと緑谷くんの声を背中に受けながら返事をする。どれだけ入念に準備していても、事が予定通りに進むなんて保証はないんだ。慌ただしいスタートになってしまい改めてそれを痛感した。