インターン
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「ケッ、ガキがイキるのもいいけどよ。」
緑谷くんたちの決意を聞いて強面の人がため息を吐く。さっきからなんなのこの人。二人の気持ちを全く考えない言い方にムッとする。
「推測通りだとして若頭にとっちゃその子は隠しておきたかった核なんだろ?それが何らかのトラブルで外に出ちまってだ!あまつさえガキんちょヒーローに見られちまった!素直に本拠地に置いとくか?俺なら置かない。攻め入るにしてもその子がいませんでしたじゃ話にならねえぞ。どこにいるのか特定できてんのか?」
嫌な物言いに変わりはないけど指摘は鋭い。本拠地に乗り込んで収穫なしとなれば相手に時間を与えてしまう。さらにばれない場所にエリちゃんが移動させられてしまう可能性が高まる。
「問題はそこです。何をどこまで計画しているのか不透明な以上、一度で確実に叩かねば反撃のチャンスを与えかねない。そこで八斎會と接点のある組織・グループ及び八斎會の持つ土地!可能な限り洗い出しリストアップしました!皆さんには各自その箇所を探っていただき、拠点となり得るポイントを絞ってもらいたい‼」
ナイトアイさんの説明を合図に、モニターに映し出されたのは日本地図。目的の場所には印が付けられている。これだけたくさんのヒーローが集められたのはこのためだったのか。隈なく探せるようその土地に詳しいヒーローを呼んでるんだ。
ファットさんはこのやり方が気に入らなかったようでナイトアイさんに吠えた。
「オールマイトの元サイドキックな割にずいぶん慎重やな回りくどいわ‼こうしてる間にもエリちゃんいう子泣いてるかもしれへんのやぞ‼」
「我々はオールマイトにはなれない!だからこそ分析と予測を重ね救けられる可能性を100%に近付けなければ!」
グラントリノさんもナイトアイさんの意見に同意した。けれどやっぱりファットさんは不満なようで慎重派と行動派に分かれて喧嘩が始まる。
私はナイトアイさんの言葉を反芻していた。分析と予測。そういえば彼の個性って今の状況にかなり役立つものなんじゃないだろうか。大人の喧嘩に入っていくのは怖いけど、勇気を振り絞って手を挙げる。
「あの、ナイトアイさんの個性を使っていただくことはできないんでしょうか……?」
ピタリと喧嘩が止みみんなの視線が私に集まる。うう、怖い。内心ドキドキしていると消太くんが助け船を出してくれた。
「俺も同意見です。どういう性能かは存じませんがサー・ナイトアイ。未来を予知できるなら俺たちの行く末を見ればいいじゃないですか。このままでは少々……合理性に欠ける。」
ナイトアイさんがヒーロー一人一人の未来を見れば、すぐにエリちゃんの居場所はわかるだろう。捜査の大幅な短縮になる。けれど私たちの提案をナイトアイさんはすぐに却下した。
「それは……できない。」
首を傾げる私たちにナイトアイさんは静かに続けた。彼の個性は予知。発動したら24時間のインターバルが必要で、一日一時間一人しか見ることができないらしい。そしてそれはフラッシュバックのように一コマ一コマが脳裏に映し出される。発動してから一時間の間他人の生涯を記録したフィルムを見られると考えればいいそうだ。ただ、そのフィルムは全編人物のすぐ近くからの視点で、見えるのはあくまで個人の行動とわずかな周辺環境に限られる。
「いや、それだけでも充分過ぎる程色々わかるでしょう。出来ないとはどういうことなんですか。」
消太くんの素朴な疑問。個性の説明を受けてもやっぱり有用なものに変わりないように思えた。ナイトアイさんはメガネの位置を直しながら、低い声で答えた。
「例えばその人物に将来、死、ただ無慈悲な死が待っていたらどうします。」
一瞬その場が静まり返った。人の死。もしその未来が見えてしまったら。もし未来が変えられなかったら。ナイトアイさんはそれを危惧していたのだ。
「この個性は行動の成功率を最大まで引き上げた後に勝利のダメ押しとして使うものです。不確定要素の多い間は闇雲に見るべきじゃない。」
辞退は一刻を争ってる。弱気とも取れるナイトアイさんの発言に強面の人が抗議の声をあげた。
「はあ!?死だって情報だろう!?そうならねェ為の策を講じられるぜ!?」
「占いとは違う。回避できる確証はない!」
「ナイトアイ!よくわかんねえな。いいぜ俺を見てみろ!いくらでも回避してやるよ!」
押し問答が続いたけれど一向にナイトアイさんは首を縦に振らなかった。
「ダメだ。」
絞り出すように呟かれた彼の拒否。それだけで彼の過去に何かあったのだろうと予測がついた。自分の大切な人や知り合いの未来に死が待っている。それは想像よりもずっと怖いものだろう。予知という個性を持って生まれた彼にしかわからない恐怖なのかもしれない。
結局、当初の予定通りの作戦でエリちゃんの居場所の特定を行うことになった。場所がわかれば保護へと向かう。迅速な事件解決が求められていた。
会議は解散となり、私たち学生は先輩も一緒にロビーの机を囲んで座っている。その空気は重かった。
緑谷くんと通形先輩が以前エリちゃんと接触した時のことを教えてくれた。怯えながら緑谷くんに助けを求めたのに、治崎が現れた途端そちらに戻ってしまったのだそうだ。よっぽど恐怖を植えつけられているのか。精神的に逆らえないように教え込まれているのかもしれない。二人は悔しさを滲ませ、下を向いている。
「悔しいな……!」
「デクくん……。」
切島くんとお茶子ちゃんが緑谷くんを慰める。天喰先輩も通形先輩を心配そうに見つめていた。私も何か声をかけたかったけど、事件のショックが大きくて吐き気が収まらない。
みんな無言になってしまいただ俯いていると、エレベーターが開いて消太くんがおりてきた。
「……通夜でもしてんのか。」
「先生!」
私たちのどんよりとした空気を察してか、消太くんはいつも通りの口調で近くまでやってきてくれた。その手には自販機で買っただろうペットボトルが握られていて、目の前に差し出される。
「飲んどけ。」
「……ありがとう、ございます。」
やっぱり気づかれてた。お茶子ちゃんたちにも顔色悪いの心配されたからバレバレだったんだろうけど。大人しく貰ったものに口をつける。ひんやりとした水が入ってきて少し気持ちよかった。
「学外ではイレイザーヘッドで通せ。いやァしかし……今日は君たちのインターン中止を提言する予定だったんだがなァ……。」
「!」
ため息交じりのその言葉にみんなで反応する。連合の名前が出てきたからもしかしてとは思ってたけど。あんな話聞かされた後に危険だからここまでですって言われても納得できない。
「ええ!?今更なんで‼」
「連合が関わってくる可能性があると聞かされただろ。話は変わってくる。」
同じことを思ったようで切島くんが抗議の声を挙げる。緑谷くんは黙ってるけど思い詰めた顔はそのままだった。
「ただなァ……緑谷。おまえはまだ俺の信頼を取り戻せていないんだよ。」
不服そうな顔の彼の目線に合わせて消太くんが屈む。いつもの静かな声が私たちの冷静さを取り戻してくれてるようだった。
「残念なことにここで止めたらおまえはまた飛び出してしまうと俺は確信してしまった。俺が見ておく。するなら正規の活躍をしよう、緑谷。」
泣きそうな緑谷くんの胸に消太くんが拳を合わせる。
「わかったか問題児。」
緑谷くんの瞳は絶対に救けるという意思で満ちていて。消太くんの言葉が彼の背中を押したのだとはっきりわかった。彼の悔しい気持ちをちゃんと汲み取ってくれる消太くん。相変わらず優しい。
その様子を見て天喰先輩も通形先輩に声をかける。
「ミリオ……。顔を上げてくれ。」
「ねえ私知ってるの、ねえ通形。後悔して落ち込んでてもね仕方ないんだよ!知ってた!?」
「……ああ!」
二人の鼓舞に、通形先輩が力強く頷いた。一番悔しい思いをしている二人が改めて前を向き、私たちの士気も高まる。
「気休めを言う。掴み損ねたその手はエリちゃんにとって必ずしも絶望だったとは限らない。前向いていこう。」
「はい‼‼」
消太くんにチャンスを貰えた緑谷くんが大きな声で応える。彼の気合が現れているようだった。
消太くんは改めて私たちに向き直る。今度は緑谷くんだけに話しかけているわけではなさそうだった。その目に背筋が伸びる。
「とは言ってもだ。プロと同等かそれ以上の実力を持つビッグ3はともかく、おまえたちの役割は薄いと思う。蛙吹、麗日、切島、みょうじ。おまえたちは自分の意志でここにいるわけでもない。どうしたい。」
その問いかけにいち早く立ち上がったのはお茶子ちゃん。みんなの意志なんて、聞かなくても分かった。
「先……っイレイザーヘッド!あんな話聞かされてもう、やめときましょとはいきません……‼」
「イレイザーがダメと言わないのなら……お力添えさせてほしいわ。小さな女の子を傷つけるなんて許せないもの。」
「俺らの力が少しでもその子の為ンなるなら、やるぜイレイザーヘッド!」
「誰かに支配されて泣いてる女の子がいるのなら助けないわけにはいかない、イレイザー。」
消太くんももう答えがわかっていたようで、止めるわけでもなくただ頷くだけだった。
「意思確認をしたかった。わかってるならいい。今回はあくまでエリちゃんという子の保護が目的。それ以上は踏み込まない。」
今消太くんが一番心配しているのは敵連合の存在。八斎會と良好な関係ではないはずだから同じ場所にいるとは思えないけど万が一がある。見当違いで連合にまで目的が及ぶ場合は私たちは身を引き、あとはプロに任せることになる。それだけ約束してその日は皆寮に戻ることになった。
私はなぜか消太くんに呼び止められてビルに残った。なんだろう。大分気分も回復してきたけど、心当たりがなくて不安になる。モヤモヤしながら消太くんと一緒にエレベーターに乗り込み再び上の階に向かう。
「そんなに緊張しなくていい。ナイトアイさんが軽く挨拶したいんだそうだ。」
「あ、そういやちゃんとできてなかったね。忙しいのに申し訳ないなあ……。」
多分父の手前挨拶しないわけにもいかないってことなんだろう。そんなに気を遣ってもらわなくてもいいのになあ。お葬式以来会えてなかったから正直ちょっと嬉しいけど。
「まだ体調万全じゃないんだろ。変に気を回すなよ。」
私の顔色が気になったのか釘を刺された。葬儀のお礼言わなきゃとか考えてたの完全に見抜かれてる。こういう時消太くん大人だなあと思う。さっきの緑谷くんへの対応もそうだけど、素気ないようで私たち生徒のことちゃんと見ててくれてるんだよね。
「……うん。お水ありがとう。」
「ずっと顔真っ青だったからな。エリちゃんの話、なんか重なったか。」
ギクリとした。エリちゃんが治崎に怯えながらも逃げられなかったという事実。確かに自分と重ねてしまった。痛めつけられながらも逆らうことができない心理を、ほんの少しだけど私は知っている。被害にあってるのが小さい女の子だと聞いた時、さらに吐き気を催してしまった自分に目を背けることはできなかった。
「ちょっとね。でも大丈夫だよ。」
「なまえの大丈夫は信用ならん。」
「ひどいなあ。」
間髪入れずに疑いの目を向けられ苦笑してしまう。けれど久しぶりに消太くんの口から私の名前が零れて心が躍った。やっぱり彼の隣は安心する。心配してくれてありがとうとその肩に頭を預けながら呟く。ちょうど目的の階に到着し、私は姿勢を正してナイトアイさんの元へと向かった。