インターン
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ファットさんが銃弾を調べてくれている間、私たちは一旦学校へ戻ることになった。今日は普通に授業。切島くんと一緒に教室へ向かうと上鳴くんの大きな声が出迎えてくれた。
「切島みょうじコラア!!!おまえら名前‼ネットニュースにヒーロー名‼のってるぞスゲエ!!!」
スマホの画面を見せられる。確かに記事になっていて「新米サイドキックトルネード・烈怒頼雄斗爆誕!」と書かれている。見出しだけで嫌な予感がしたけどやっぱりそれは的中。どう考えても切島くんの方が活躍してたのに記事の話題は私の方に向いている。やっぱりプロヒーローの娘ってネタになるよなあ。あんまりそこ強調してほしくないんだけど。どうしても自分のヒーロー名の前に元No.4の娘という文字がくっついてくる。思わずうわあと声が漏れた。
梅雨ちゃんとお茶子ちゃんも早速リューキュウ事務所のサイドキックとして活躍したようで、同じくネットニュースになっていた。二人とも可愛いし話題性は抜群だ。それにしてもいつの間に写真撮られてたんだろう。
「爆豪くん顔凄いことになってるよ。」
「すぐ追いつくわ調子乗んなコラァ!」
「仮免頑張って。」
「馬鹿にしとんのか!!!」
歯ぎしりすご。私と切島くんに先越されたのがよっぽど癪に触ったらしい。いつも以上に眉間の皺が濃くて思わず笑ってしまった。そんな爆豪くんと焦凍くんは絶賛仮免講習中。この前は顔中ボロボロになって帰ってきたんだそうだ。そんなに過酷なのか。
「仮免といえど街へ出れば同じヒーロー……素晴らしい活躍だ……!だが学業は学生の本分‼居眠りダメだよ!」
「おうよ飯田!覚悟の上さ!なァ!?」
「うん!」
「もちろん!」
飯田くんがクラス委員長らしく注意してくれる。それに応えるように切島くんと緑谷くんと一緒に頷いてやる気を見せた。インターン行ったから勉強に身が入らないじゃ困るもんね。両立は大前提の話だ。
「おまえ勉強やべーっつってたのに大丈夫かよー。」
「先生が補習時間設けてくれるんだってよ。」
「私も一緒に受けるからわかんないとこあったら質問させてほしいな。」
「お、俺は適任じゃないのでは?」
通常通り授業を受けてたはずの上鳴くんが目を逸らす。なんでよ。近くの百ちゃんに頼めば快く了承してくれた。
「俺も行きゃーよかったなァ。両立キツそうでさァ……。」
「学ぶペースは人それぞれですわ。」
瀬呂くんがため息を零すと百ちゃんが慰める。その時何を一番大事にするかは人による。無理に両方やって自滅するよりは一方を着実に積み重ねていく方がずっと賢い選択だ。
「善いことを仰る!」
「上鳴くん授業はちゃんと聞いといてよ。」
「はい……。」
釘を刺せば上鳴くんはしゅんと肩を落とした。明るい彼の言動がいつも通りでどこかほっとする。ちょっと前まで銃弾や無数の刃と戦ってたなんて嘘みたいだ。おかげでかなり元気が出てきた。
授業は寝ることもなくちゃんとこなせた。放課後は補習。予習貯めてた分があったのでそれほど内容には困らなかった。これならみんなにもすぐ追いつけるだろう。
補習も終わってインターン組で帰宅の準備を始める。鞄の中に教科書を詰めているとあることに気づいた。
「あ、手帳忘れた。」
「おお、大丈夫か?」
「うん、取ってくるからみんな先帰ってて。」
「おっけい。もう遅いし気をつけてな。」
「ありがとう。」
心配してくれる切島くんとお茶子ちゃんにお礼を言って、また後でとみんなと別れた。教室に戻って机の中を確認するとやっぱりぽつんと手帳だけが取り残されてる。しまい忘れちゃったんだな。なくしたんじゃなくてよかった。素早く鞄に入れて教室を出る。
下駄箱で靴を履き替えていると後ろから声が聞こえてきた。B組の泡瀬くんと回原くんだ。隣同士の下駄箱なので当然目が合う。そのまま無視して帰るのもどうかと思い声をかけてみる。
「二人も今帰り?」
「ああ。みょうじネットニュースになってたな。見たぜ。」
どうやらB組にも把握されてたみたいだ。泡瀬くんは記事スクショしたと言って笑った。それはなかなか恥ずかしい。
「あれは切島くんがすごかったんだよ。私後方で避難誘導しただけだもん。」
「謙遜すんなって。」
「いやほんとなんだって。」
私が慌てて否定するとケラケラ笑う泡瀬くん。この人、話しやすい。前から友達だったみたいに揶揄われて、しかもそれが別に嫌じゃない。距離の取り方が上手いんだろうか。すぐ打ち解けられる人って尊敬するなあ。
反対に回原くんは全然しゃべらない。そういや合宿の時もそうだった。なんとなく一緒に寮まで帰ることになったけど、泡瀬くんの隣で相槌を打つだけで会話らしい会話ができていない。もしかしたら嫌われてるんだろうか。話しかけたのまずかったかなあと心配になってきた。
「回原借りてきた猫みたいになってんな。」
「……なってねえ。」
私たちが言葉を交わせてないことに気を遣ってくれたのだろうか。泡瀬くんが回原くんに話題を振ってくれた。回原くんは気まずそうにしながら視線をさまよわせた。
「あんまりこんな機会もねえし何か聞きたいこととか聞いとけば?」
「聞きたいことって……。」
彼がちらりとこちらを見たので視線がぶつかる。思わずじっと見つめれば顔を赤くして逸らされた。うーんこれはどうなんだろう。嫌われてるわけじゃないのだろうか。
「好きな食べ物とか……?」
「お見合いかよ。」
横の泡瀬くんが噴き出した。あまりに可愛らしい質問が飛び出したため私もちょっと笑いそうだったけどぐっとこらえる。
「なんだろ、甘いものかなあ。チョコとか。」
「そう、ですか。」
「ふふ、敬語じゃなくていいよ。回原くんは何か好きなものある?食べ物じゃなくても。」
「カ、カメラ。」
「カメラ?撮る方?」
これは意外な一面発見だ。質問を繰り返すと段々普通に話せるようになってきた。目は合わないままだけど。
「あ、ああ。得意とかじゃなくて、趣味でやってるだけなんだけど……。」
「すごい。」
「今度みょうじも撮ってもらえよ。」
「え、いいの?」
泡瀬くんに言われて思わず聞き返すと回原くんは控えめに頷いてくれた。
「みょうじさんが良いなら。」
「嬉しい。本格的なカメラで写真撮ってもらうのはじめてかも。」
「よかったなみょうじ。俺とみょうじのツーショットも頼むわ。」
「泡瀬のはいらねえ。」
泡瀬くんがおどけたのに対してほとんど反射的に返した回原くん。思わず零れた言葉だったようで急に慌て始める。泡瀬のはいらねえっていうのは私の写真はほしいと言ってくれてるみたいで。自意識過剰もいいとこなんだけど私もなぜか顔が熱くなってしまった。
「あ、いや。今のは違う。」
「うん、あの。大丈夫。わかってる。」
お互いに歯切れが悪くなる。変な空気を気にする様子もなく泡瀬くんはちょっと面白がってた。
寮が見えてきた。棟が違うためそろそろお別れ。B組男子とこんなにしゃべったの初めてかもしれない。あ、鉄哲くんがいたか。でもあの時は緊急事態だったから日常会話とかじゃなかったもんな。
「じゃあまた明日ね。」
「おう今日はありがとな。」
「こちらこそ。話せて嬉しかった。回原くんも、今度カメラお願いします。」
「あ、ああ。」
冗談ぽく頼んでみると回原くんは目を逸らしながら了承してくれた。ちょっとは距離縮められたかなあ。
二人とおやすみを言って別れる。お風呂入らなきゃなあと考えていると再び呼び止められた。後ろを振り返ると回原くん。
「……これ。あったから。」
「え、くれるの?」
手渡されたのはチョコの包み。さっき好きだと言ったからだろうか。このために走ってきてくれたのか。
「うん、良かったら食べてくれ。いらなかったら捨てていい。」
「捨てない捨てない。ちゃんと食べるよ、ありがとう。」
しっかり受け取ると彼はほっとした表情を見せた。これは多分、というかほぼ間違いなく嫌われてはないんだろう。でなきゃこれだけの為にわざわざ走ってきてくれたりしない。彼の表情を見るとなんだか自惚れじゃないという気さえしてきた。思わず顔に熱が集まる。
今度こそバイバイをしてお互いの寮へと帰る。さっきの回原くんのホッとした顔が浮かんでは消えた。体の火照りはしばらく続きそうで、貰ったチョコが溶けてしまわないか心配だった。