インターン
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繁華街を上から捜索しているとすぐに敵と切島くんの姿を発見。アーケードの方に逃げてることが見てとれた。確かあっちは行き止まり。アーケードの屋根で視界も遮られるしここからは空中じゃ無理だ。加勢に入れるよう着地することにした。
切島くんが男を追い詰めた先はやっぱり行き止まりになっていて。逃げ場をなくした相手が彼に向かって行くのが見えた。細い道には何人か人もいる。まずい。このまま戦闘に入ると怪我人出るかも。追いついてすぐに避難誘導に入る。
「危ないですので下がってください!」
「おお、新しいヒーローか?」
「自己紹介はあの男を捕まえてからさせていただきます。大丈夫、すぐに終わらせます。さあ、下がりましょう。」
出来るだけ距離を取ってもらって私も敵へと向かう。けれど勝負は一瞬だった。刃物を腕から生やした男が切島くんに殴り掛かり、切島くんはそれを硬化で受け止め必殺技のカウンターで返す。個性の相性もあるかもだけど、やっぱり切島くん強い。男はあっけなく地面に倒れ込んだ。
「加減はした!おとなしく捕まろうぜテッポー野郎!」
またも出る幕なく制圧終了。いいとこないなあと苦笑しながら切島くんの横に並ぶ。
「ごめん遅れた。」
「おおみょうじ!避難誘導ありがとな。」
眩しい笑顔に私もお礼を言おうと口を開いた瞬間、目の前に倒れている男が泣き始めた。
「ズルやで……こちとら刃渡り10㎝以下の刃がとびでるやぞ。カッターナイフと同じくらいやぞ……ズルやん。そらアニキら助けたいわアホンダラ!でも怖いやん……!!!むしろ撃った勇気ほめろや……!」
無茶苦茶なことを言いながら大泣きする敵。いや敵って感じでもないなこの人。ファットさんが言ってたみたいなチンピラか。大の男が泣いてる姿が面白かったのかさっき避難したはずのギャラリーが動画を撮りに来る。だから下がっててくださいって。
「やだよ!つーかそんなベソかいて怖いとか言うなら悪ィ事に加担すんなよ!」
「お兄さん銃撃てるくらい勇気あるんですから足洗う勇気も持ちましょう?」
切島くんと一緒に倒れた男を起こしながらなんとか宥めようとする。男の足はフラフラで、銃を所持していた危険な人物とは到底思えなかった。
「強い男に……なりたかったんや……。強い人らとおれば強くなれるから。」
「その気持ちはわかるけどよ……。」
涙を流してうわ言のように呟く男。切島くんの言う通り言い分はわからなくもない。強さへの憧れは共感できる。でも強いっていうのは強力な武器で武装して人を痛めつけることじゃない。この人は選択を誤ったんだ。
どう拘束しようかと考えていると男はおもむろに何かを取り出した。
「アニキらについていけば……力を貰えるんや。ヒーローになれる奴が軽率にわかるとか言わんといてや……。」
手に握っているのは筒状の小さな道具。何だあれ。警戒していると男はそれを首に当てた。
何か打った?もしかしてあれ注射なのだろうか。嫌な予感がする。それは多分的中で男の様子ががらりと変わった。不気味な咆哮が夜の街にこだまする。
「あああああ!」
「何してんだ!?何打った!?オイ!大丈夫かよ。」
絶対駄目なやつだこれ。異様な動きを見せる男に冷や汗が出てくる。ファットさんもまだ到着してない。私たち二人で街の人を守りながら戦えるだろうか。いや、できるかじゃない。やらなきゃ。ファットさんが来るまで何としてでも時間を稼ぐ。とにかく今は避難優先。近くにいるギャラリーを安全な場所へ誘導する。
「レッドライオットそれ多分変な薬!気を付けて!私はなるべく距離を取る!」
とりあえず連携。切島くんからも了承の返事があり意思疎通は図れた。今ここにいる一般の人は4人。動画撮るのに夢中で近づきすぎてる。大きな声で指示を出してもう一度後ろに下がってもらう。
「なるべく遠くに!危険です!……!?」
男の叫び声が耳に響いた。それと同時に後ろから飛んできたいくつもの刃。髭のおじさんに当たりそうになり咄嗟に突っ込む。風に助けてもらって加速が間に合いギリギリで躱すことができた。
「おお、ありがとうな。」
「ご無事で何よりです。皆さんもできるだけ距離を取ってください!ここは私たちで何とかします。」
後ろを見ると全身刃だらけになった男。しかもその長さはかなりのものだ。奴の個性は刃渡り10㎝って言ってたはず。さっきなんか打ってた薬のせいだろうか。もしかしてあれって最近問題になってるブースト薬物。ただのチンピラじゃなくて違法なものに手出してたのか。インターン初日にこんな厄介な相手に出くわすなんて。
切島くんは何とか硬化で防いだようで血も出ていない。避難誘導が完了し私も攻撃の態勢に入る。
男は刃を出しっぱなしのままこちらに近づいて来る。歩くたびに壁や看板が傷ついて壊れていき、さっきと威力が段違いなことが窺えた。これはこの場で倒さなきゃ。大通りなんかに出したら何人死傷者が出るかわからない。
「みょうじ下がっとけ。個性の相性悪いだろ。」
「今は私もヒーローだよ。そんなこと言ってられない。邪魔しないから戦わせて。」
「でも、」
切島くんが言葉を続けようとすると、突然男の足から無数の刃が飛んで来た。威力増し増しで風を送り粉砕しようとするけど数が多くて間に合わない。捉え損ねた刃が腕をかすった。
横を見ると切島くんも吹っ飛ばされてる。硬化の彼が踏ん張りきれない攻撃力。もしかしてこの刃彼より硬度固いのか。嫌な汗が滲んでくる。
「慢心したなァガキコラぁ!!!偉そうに正義ごっこしとるからや‼アニキらが言うとったで!ヒーローの時代はもうじき崩れるってなァ‼次は俺たちみたいな日陰者の時代言うとったわ!なんかめっちゃハイになってきたわ!どけガキ‼今ならおまえの言う通りアニキら助けられそうや!!!」
男は薬のせいか言動まで変わってしまっている。さっきまで泣いてたとは思えないな。強さを手に入れて気が大きくなってるんだ。ボロボロで膝をついてしまった切島くんに、男が笑いながら容赦なく刃を飛ばす。私が少しでも防がなきゃ。再び風を放つために足を踏ん張ると隣の彼が突然叫んだ。
「みょうじ‼安全確認頼んだァ‼」
「え、了解!?」
驚いて返事をすると力強い顔で立ち上がった彼が見えた。なるほど。すぐに意味がわかり彼の後方へ回る。
ここは切島くんと男を一対一にした方が都合がいい。その方が多分戦闘もコンパクトに済む。私は周りの人や建物に被害が出ないよう壊れた刃の破片を回収。並行して相手の攻撃が漏れたら後ろで対応ってことだろう。
目の前の切島くんが刃に向かって構える。今まで見たことない程硬度が上がっているのがわかった。無数の刃が彼を捉える。それでも切島くんは怯まない。誰もここを通さないのだという強い意思が気迫へと変わっていった。
「いでえ―――!!?」
男の攻撃は切島くんの硬化に敗れ刃がボロボロと崩れていく。これ、きっと圧縮訓練の成果だ。あの量の刃相手に一人で太刀打ちできるなんて。彼の努力が垣間見えた。私は男の刃が周りに飛び散らないよう破片を回収していく。
「何やこの音……軋んでんのか!全身が‼」
切島くんの体からギギギという音が聞こえる。恐らく彼の硬度もここまでが限界。そしてこの状態は長くはもたないはずだ。早く決着をつけないとまた形勢逆転する。
「俺を見ろォ!!!」
「ううう……!押し飛ばしたるわあ!!!」
最高硬度の切島くんが向かって行ったことに焦った男は、他に見向きもせず彼に集中して無数の刃を放つ。切島くんの作戦通りだ。周りに注意を逸らしちゃいけない。一対一の構図を崩さず対処する。自分の得意で戦わせることが大事なんだ。
切島くんは全身で刃を受けとめながらそのまま歩みを進める。パワーゴリ押しだ。それでも相手を決して通さないっていうのは、とんでもなく強い。
「必殺‼烈怒頑斗裂屠!!!」
強烈な一撃が相手に入り男は倒れた。薬でブーストしてた相手に勝つなんて。ものすごい気迫に息を呑んだ。
「切島くん大丈夫?」
「おお!後ろ守ってくれてありがとな!」
「いや今回私何もしてない……。」
側に駆け寄るといつもの切島くんに戻りパッと明るく笑う。だけど彼もかなりギリギリのところで闘ってたみたいだ。かすり傷だらけ。ただのチンピラが彼をここまで追い詰めるなんて。あの薬相当危ない。この辺りで薬物が蔓延してるなら早く回収しないと。
倒れた男は再び泣き始め、薬を打つ前の状態のようにボロボロ涙を溢した。
「強くなりたかっただけやねん……‼頼むよ逃がしてよ……!俺は力が欲しかっただけの哀れな人間や‼」
「ダメだ先輩を撃った。気持ちはよくわかるぜ……俺も昔は……。」
「駄目切島くん。すぐ制圧しよう。抑えとくからファットさん呼んできてもらえるかな。」
これは多分泣き落としだ。この男は天喰先輩を撃って逃走し薬を使って個性の威力を上げ周りに攻撃した。たくさん犯罪を重ねてる。さっきも弱気なふりをしてこちらの気を引いた隙に薬を打たれた。嘘も大分うまそうだ。
男を動けない程度に風で抑えつける。元の個性の威力ならこれくらいで十分だろう。そう思っていたけど読みが少し甘かった。
「掴まってたまるかボケェ!!!」
男が背中から刃を出し逃走を図った。しまった、薬の効果はもう切れたとばかり思ってた。やっぱり人を騙すのが上手い。抑えつけていた風力では威力が足りず突破されてしまう。街の人が危ない。
「ごめん取り返す!」
私たちを突破してはしゃいでいる男に直線状に風を放つ。気絶させる程度の威力。ちゃんと仮免試験の時加減憶えた。風はちゃんと当たってくれて男の体が地面へと落ちていく。けどまだ意識あるな。なかなかしぶといこの人。
よろよろしながらもさらに逃走を続ける敵にもう一度攻撃しようとすると、ちょうどファットさんが来て男を沈ませてくれた。
「遅なってすまんな‼対敵した時‼敵の勝利条件は殺す!逃げる‼ブチのめすにetc‼対してこっちはガイ者出さずに捕らえる一つ‼覚えて帰りや二人とも‼敵退治は、いかに早く戦意喪失させるかや‼」
ファットさんのお腹の中でだらんとする男。攻撃を吸収する脂肪、すごすぎる。私たち二人が苦戦した相手を一瞬で倒してしまった。
「助かりました……。」
切島くんも近くに寄ってきて二人でファットさんにお礼を言う。するとさっき避難誘導した街の人が駆け寄ってきてくれた。
「ありがとうなァ若いの!お嬢ちゃんも!凄いなァ惚れたでホンマ。俺らに刃ァ向かんように動いとったやろ!?長年ヒーロー見とるとわかんねん!フツーびびるであんな刃人間‼ホンマ救けられたわ‼」
声をかけてくれたおじさんの言葉に切島くんはきょとんとしている。本人は自覚ないかもしれないけど本当にかっこよかった。私もおじさんに同意して彼のことを褒める。
「レッドライオットほんとにすごかったよ。震えたもん。」
「いやお嬢ちゃんもやで!」
「え。」
「瞬発力エグいで!お嬢ちゃんおらんかったら俺なんか今頃お陀仏や。ありがとうなァ‼」
「そ、そんな……。」
今回いいところなかったと思ってたのに思いがけず感謝されてしまった。どう答えていいのかわからず切島くんと顔を見合わせる。彼も気恥ずかしそうに眉を下げていた。こうやって街の人に喜んでもらえるの、いいな。彼らの笑顔を見て私まで口元が緩んでしまう。
「華々しいデビューやなァ……。俺のデビュー時とは大違いや。たすかったんはこっちや‼おまえらはすごいヒーローになるよ!必ず‼」
ファットさんの言葉が力強く胸に響く。プロからもらう称賛はたまらなく嬉しかった。
「ありがとうございます!」
「あざっス‼」
その後刃男は無事警察に引き渡された。他のスーツの人たちもみんな掴まったらしい。とりあえずここでの事件は解決だ。ほっと胸をなでおろす。
三人で別の場所にいる天喰先輩と合流に向かうことになった。先輩、個性まだ治ってないんだろうか。彼の不安そうな顔が思い出され、歩く足に力がこもった。