インターン
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ようやく見まわりに出られた頃には陽が落ちかかっていた。ジーニストさんのところで教えてもらった、一番危ない時間帯だ。
「最近チンピラやらチーマーやらのイザコザが多くてなァ‼腹が減ってしゃアないわ‼」
ファットさんがたこ焼きを食べながら愚痴をこぼす。と言っても普通のたこ焼きじゃない。ファットさん仕様のジャンボたこ焼き。それを鉄板ごと持ってむしゃむしゃしながら歩いてる。色々と規格外だ。
「せやからここらのヒーロー事務所も武闘派欲しがっとんねん。レッドライオット君適材やで。トルネードちゃんもな、制圧向きの個性やし。」
「よろしくお願いします!!!フォースカインドさんが受け付けてなかったんで拾ってもらってありがてーっス‼」
「ほんとに。二人も受け入れてくださってありがとうございます。」
「ミリオの都合がついていれば……。君たちグイグイ来て恐ろしかった。」
「それについては申し訳ないです。」
やっぱり怯えさせてしまってたのか。天喰先輩の顔は相変わらずどんよりしてて、仲良くなれる日はまだまだ遠そう。ちなみに通形先輩はサーナイトアイさんのところにインターンに行ってるらしい。緑谷くんがそこに向かうことになり定員いっぱいになってしまったのだそうだ。同じオールマイト好き同士、ナイトアイさんと緑谷くんは気が合いそう。彼のインターンもきっと実りあるものになるはずだ。
「二人とも、本場の味食うとき。」
「わ、いいんですか。ありがとうございます。」
「あざっス!」
ファットさんがたこ焼きを半分にしてくれて私と切島くんにわけてくれる。口に入れたたこ焼きはアツアツで火傷しそうだったけど、外カリ中トロですごくおいしかった。隣で嘆いてる天喰先輩には申し訳ないけど、やっぱりファットさんのところに来られてよかったなあ。
「環はそのヘボメンタルどうにかなれば逸材やのにな‼」
「そのプレッシャーが俺を更なる低みへ導く……!」
ファットさんの歯に衣着せぬ物言いに天喰先輩が思いっきり食らってしまう。彼はインターン始まってからずっとネガティブ。本当に繊細な人らしい。
「いつもこうなんだ!この人は俺をいたぶる為スカウトしたんだ!パワハラさ!帰りたい!」
「お、落ち着いてください。」
「激励くれてるんじゃないっスかね!俺にはそう聞こえる。」
切島くんは先輩を宥めつつ褒める。彼は誰のことも否定しない。しかも本心で笑いかけてくれる。眩しいなあ。彼の光に戸惑ってしまう天喰先輩の気持ちもちょっとわかる。
「君やミリオのように明るく前向きにはなれない。」
天喰先輩がコスチュームのフードを目深に被ると、切島くんはさっきより真剣な顔で答えた。
「俺もそんなっスよ。みょうじの方が全然男らしくて。皆が必死ん時に何も出来ねえ事多くて、クラスの連中と実力も経験値も開いちまって。みょうじなんか何回も身ィ削って戦ってんのに……。だからせめて並び立てるよう差を埋めたいんス‼」
「切島くん……。」
「それを前向きだと言うんだよ1年生!」
そんなこと考えてたのか。全然知らなかった。彼も十分強くて頼りになる。これまではタイミングが合わなかっただけだ。爆豪くん救出の時だって切島くんがいなかったら成功してない。
それでも、彼は自分の無力さを悔いてみんなと肩を並べたいと意気込んでる。クラスメイトの意外な一面に、私も背筋が伸びた。誰だって一緒なんだ、強くなりたいのは。切島くんの決意を聞いて俄然やる気が出てきた。でもちょっと男らしいっていうのはやめてほしいかもしれない。
「ケンカだあ‼誰かァ‼」
「噂をすれば!」
突然聞こえた助けを呼ぶ声。急いでそちらに駆け出す。夜の繁華街は人通りも多い。街の人に被害が及ばないよう迅速に動かなきゃ。
声の方向を先回りして逃げ道をなくす。案の定こちらに向かってスーツを着た何人もの男たちが逃走してきた。ファットさんが行く手を阻み、彼らを自身の体に沈みこませる。
「ファットや‼あかん沈む……‼」
「沈ませ屋さんのファットさんや!って何やエッジと個性被っとるでおまえ‼」
脂肪吸着の個性で男たちの動きを封じたかと思ったけど、逃走してるうちの一人が個性で体を細く変形させファットさんのお腹からすり抜ける。けれどその先に待っているのは天喰先輩。彼の指からタコの足が出てきてあっという間に相手は拘束された。
「何じゃこのタコォ――!!?」
「酷い言い方を……!」
「違うよセンパイ見た目の話‼悪口じゃないっス!」
相手の言葉を罵倒だと勘違いしてショックを受けてしまった先輩を切島くんが咄嗟に慰める。筋金入りのネガティブだ。それにしても天喰先輩の個性初めて見た。彼はタコ足で相手を拘束したまま、今度は左手を貝に変えて男の顔を殴った。
「タコやないんかい……ワレ……。」
衝撃でドサリと倒れる男。先輩はその体を鶏に変形した足で抑えつける。
「アサリは便利なんだ……。攻防に長ける……。だから毎日食べるようにしているんだ。」
天喰先輩の個性。再現。食べたものの特徴を体に再現できるらしい。かなり強い個性だけど生活上に制限がありそう。毎日同じものを食べるとか、好きな時に好きなもの食べられないとか。なかなか大変だと思う。
「上手く……できていただろうか……。」
「すげーっス‼迅速で個性の使い方も慣れてて……。」
「かっこよかったです!」
プロとビッグ3のおかげで私たちの出番なかった。ちょっとしゅんとしてしまうけど、私より天喰先輩の方が暗い顔をしていたので慌てて慰めてしまう。
「技量ならとうにプロ以上やでウチのサンイーターは!メンタルは育たんけど!」
ファットさんが自慢すると一部始終を見ていた街の人から歓声が上がる。天喰先輩はそれに顔を青くさせていた。
これでとりあえず一件落着なのかな。あとはこの人たちを警察に引き渡せばいいはずだ。次の処理を考えていると急にファットさんが声をあげた。
「あかん伏せ!!!」
「!?」
動く前に一瞬で飛んでくる何か。それは天喰先輩の左腕を直撃した。飛んできた軌道を見ると街の人の中に銃を持った男の姿。もしかして今のって、銃弾。男の声が夜の街に響く。
「アニキ逃げろォ!!!」
叫びながらもう一発撃ちこんでくる。切島くんが天喰先輩を庇って前に出た。銃弾は彼の硬化で弾き返される。それが周りに当たらないよう、私は素早く弾の行く先を確認して空気操作で動きを止めた。警察に渡せば何かの役に立つかもしれない。持っとこう。
「サンイーター‼レッドライオット‼トルネード‼」
「捕えます‼」
私たちの安否を気遣ってくれるファットさん。彼がこちらに駆け出したのと同時に切島くんが戦闘態勢に入った。となると私が今優先すべきは天喰先輩だ。
「先輩大丈夫ですか!?」
「思ったより痛くない。」
「わあ!」
倒れた先輩に駆け寄るとむくりと起きた。いや、さっき弾当たってたよね。これがビッグ3の力なのだろうか。普通に話してるし血も出てない。なんで?
「何やこのポンコツはあー‼」
銃弾を撃たれても無傷な先輩に相手が焦り始めた。天喰先輩はその隙を逃さず個性で捉えようとする。けど、様子がおかしい。先輩の指からタコ足が出ることはなく、その間に男が逃亡してしまう。
それを切島くんがダッシュで追いかける。私も後に続こうと走り始めた。
「待て早まんな!下手に追うと噛まれるぞ!サンイーター無事ならここ任すぞ!すぐ他のヒーローが来る協力しろ!」
「無事だけど、発動しない!」
彼の言葉に私とファットさんの足が止まった。発動しないってどういうことだろう。個性が使えなくなってるんだろうか。もしかしてさっきの銃弾と何か関係があるのか。
「!!?イレイザーでもおんのか!?」
ファットさんはUターンして天喰先輩の元へと向かう。私も気になるけど緊急性を考えて多分今優先すべきなのは切島くんの方。急いでさっき手に入れた銃弾を取り出した。
「ファットさん、これさっきの銃弾です!お渡ししておきます!」
「おお!でかしたでトルネード!俺もすぐ向かうけど先フォロー頼めるか!?」
「了解です!」
逃げる相手の行方を追うには空中が一番。ふわりと足から風を送り飛び上がる。天喰先輩大丈夫だろうか。個性が発動しないってことは周りに誰か個性を消せる敵がいたのか。いやあの状況でそれは考えにくい。他に仲間っぽい人も見当たらなかった。ということはやっぱりあの銃弾に何か入ってたって考えるのが自然だ。咄嗟の判断だったとはいえ取っておいてよかった。