仮免試験
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グラウンドに到着するとすでに心操くんの姿があった。汗だくな様子を見ると先に訓練していたんだろう。合宿などもあってバタバタしていたので彼に会うのは随分久しぶりだ。
中に入ってきた私たちを見て心操くんの動きが止まる。私たちというか、私のコスチュームか。
「お久しぶりです。」
まじまじと見られて恥ずかしくなる。照れてしまい社交辞令的な挨拶をすれば消太くんが横で噴き出していた。思春期の微妙な心情を笑うのはやめていただきたい。
「……久しぶり。大変だったな色々。」
「ああ、うん。ご心配おかけしました。もう元気だよ。」
にっこり笑えばホッとした表情を見せる心操くん。合宿襲撃のあと彼も連絡をくれていた。なんか周りに心配かけてばっかりだなあ。入院して即爆豪くん救出に行ったなんて口が裂けても言えない。
「コスチューム姿初めて見た。」
「あんま見ないで恥ずかしいから。」
「似合ってるよ、かっこいい。」
「う、ありがとうございます。」
意外にもストレートな表現をされて顔が熱くなる。心操くんはかなり興味津々で、コスチュームの機能性について色々聞かれた。注目されるのかなり恥ずかしい。
「そろそろ始めるぞ。」
ひとしきり質問タイムが終わると消太くんの合図でいつもの鬼ごっこが始まる。なんだか今日は夏休み前の訓練よりよく動けている気がした。圧縮訓練のあとだから疲れてるはずなのに。心操くんも毎日訓練しているらしいのでギリギリ逃げている状態だけど、合宿の成果が出てるのかもしれない。体が軽い。
心操くんの手が届きそうになって慌てて崖から飛び降りる。今は個性使用禁止だけど、これが実際の交戦ならやっぱり飛びながら攻撃できるのって便利だよなあ。ぼんやり考えながら着地すると、もうすぐ後ろに心操くんが来ていた。反応速くなってる。
「集中しないと逃げ遅れるよ。」
「う、ごめん。」
意識が引き戻されて素早く逃げる。しばらく逃げ回って酸素が薄くなってきた頃休憩になった。汗を拭きながら地面に座り込む。
「なんか考え事?」
心操くんに聞かれて思わず失礼なことしたなと謝る。別にいいけどと彼は気にしていないように話を続けた。
「珍しいな、みょうじが訓練中にぼんやりしてるの。」
「ほんとごめん。ちょっと行き詰まってて。」
「そんなにヒーロー科の訓練大変なの?」
授業内容が聞けるかもと心操くんの顔が好奇心に染まった。こういうワクワク顔も出来ちゃうのか。先ほどのコスチュームの時といい、これはちょっと可愛いかもしれない。
「うーん、今必殺技編み出してるんだけど。」
「何それかっこいい。」
「あはは。えーとその必殺技と同時に空中へ飛びたいんだけど並行が難しいんだよね。」
「ああ、体育祭でも飛んでたね。」
「うん。攻撃に両手使わなくちゃだからその間は飛べなくて。コスチューム改良も視野に入れてるんだけどどう変更したらいいのかわかんなくて。」
目下の悩みを告白すると、心操くんは真剣に聞いてくれていた。一緒に頭を捻ってくれる。やっぱり人柄が素晴らしい。さっき爆豪くんに同じこと言ったら「クソダセえ」って嘲笑われたよ。どうなってるんだ彼は。
「両手塞がってたら飛べないの?」
「うん。風出せなくなるから。」
「そういや見たことないけどみょうじの風って手以外からは出ないの?足とか。」
「……足。」
「うん、足。」
その可能性完全に抜けてた。目から鱗とはこのこと。心操くんにとっては素朴な疑問だったようだけど、柔軟な発想に衝撃を受ける。
「そういや試したことない。」
「え、まじか。」
生まれてから今まで考えたこともなかった。なんでだろう。お父さんが腕使ってるの見て育ったからかな。でもそうか。確かに青山くんもおへそから伝導させて膝でレーザー撃ってたもんね。私は気圧操作だから彼の性質とは異なるけど、別に操れるなら手でも足でも変わらない気がする。
「えっすごい。世紀の大発見過ぎるかも。ちょっとやってみていい?あ、相澤先生個性使用していいですか?」
「別に休憩中は何してもいいが、休まなくていいのか。物好きだな。」
「ちょっと試してみるだけだから!」
敬語抜けちゃうくらい興奮してる自分に気づかないまま立ち上がる。休憩場所から少し距離を取って足に意識を集中させる。手で操作するみたいにイメージする。自分の足の裏から地面に向かって風を送る。ふわりと体が浮いた。
「……浮いた。えっ浮いた!すごいこれ心操く、うわ!」
近くの崖の高さまで体が浮いたところでバランスを崩す。段々近くなる地面。咄嗟に手で風を起こして何とか着地する。
「何やってんだ。」
「びっくりした……。」
へたりこむと頭上から消太くんの声が降ってきた。心操くんも様子を見に来てくれてる。
「足でも空気操作できました。」
「一歩前進だな。」
「でもかなり難しいですね。」
「当たり前だ。空中でバランスを取るには慣れとそれなりの体幹が必要になる。しかも足から風を出して空中に留まりながら戦うとなるとやることも多い。これまでの比じゃない集中が必要だ。」
「……そうですよね。でもやっぱり空中でのアドバンテージはほしいです。頑張ります。」
拳をぐっと握ると消太くんの大きな手がポンと頭にのせられる。
「まあこれでイメージしやすくなっただろ。コスチューム改良考えとけよ。」
「はい!」
モノにするには課題も多いけど、悩んでたことは一気に色々片づいた気がする。あとでパワーローダー先生のとこ行ってみよう。それにしても。
「心操くん、ありがとう……!」
「え、俺は別に何も。」
立ち上がって彼の両手を握ると、驚いた顔で後ずさった。本人は何もしてないって言い張るけど私にとっては神様みたいだ。彼がいなかったら自分の個性の可能性に一生気づけなかった。
「心操くんのおかげで色々解決した。今度ジュースとか奢らせてください。」
「いやいいよ。」
「何かしないと気が済まないから……!」
困ったように眉を下げる心操くん。手を離さない私に彼は考え込んで、それから何か思いついたとばかりににやりと笑った。
「じゃあ今後も訓練付き合って。」
「え、そんなんでいいの?」
「俺にとっては何より貴重な時間だよ。」
「……わかった。何があっても訓練一緒にやる。風邪でも台風でも。」
「いやそれは休もうよ。」
二人で顔を見合わせて笑う。その後すぐに消太くんの招集がかかって、再び訓練を再開した。なんだかさっきよりも気分が軽くて、終始楽しみながら鬼ごっこできた。