インターン
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いよいよ今日からインターン。職場体験の時より新幹線の時間が長い。けど切島くんとの会話が弾んで全く苦じゃなかった。以前は爆豪くんもそれなりに返事してくれてたけど、すぐ寝ちゃったからなあ。改めて切島くんのコミュ強具合を思い知る。
「ここがファットガムの事務所か。なんか緊張すんなァ。」
「ほんとだねえ。これ中入っちゃってもいいのかな?」
きょろきょろとあたりを見回すけどサイドキックらしき人はいない。どうしたものかと思ったけど、とにかくビルの中に入ってみることになった。勝手に侵入して怒られたらその時謝ろう。
事務所のファットガムさんがいるであろう部屋に辿りつき、ノックをして中に声をかける。
「失礼します。」
返事がない。電気も消えてるみたいだ。どうしたんだろう。
「おーい、誰かいませんかァ!」
切島くんも同じように声をかけるけどやっぱり誰の声も聞こえてこない。あれ、インターンって今日が初日で合ってるよね。二人で首を傾げる。
「ドア開けて入っちゃうか。」
「い、いいのかな。」
「見まわり行ってるだけかもしんねえし、すぐ帰ってくんだろ!」
そう言って切島くんがドアノブに手を掛けるとガチャリと開いた。え、鍵かけてないの。不用心ではと少々心配になる。
部屋に入っても人の気配はない。けれどがらんとした部屋の中で一際異彩を放っているものを見つけた。机の上のカラフルな箱。明らかに部屋のインテリアとも合ってない。
「何だろうこれ。」
「開けてみてって書いてあんな。罠か?」
「ヒーロー事務所に罠?」
謎の状況にわけがわからず無言で見つめ合う。箱に添えられた開けてみてというメモ。これ誰に向けたメッセージなんだろう。切島くんを見るとちょっとそわそわしてる。うん、気になるよね。結局私も好奇心に負けてしまい開けてみることになった。
「いいか、行くぞ。」
「いつでもどうぞ。」
そっと切島くんが箱の蓋を開ける。ちょっとした緊張感に包まれて肩に力が入った。
「お。」
「わ。」
中身を確認しようとするとなぜかピエロが飛び出してきた。え、なにこれ。もしかしてびっくり箱?困惑していると後ろから破裂音が響いた。
「わあ!?」
「お疲れさーん!はるばるよう来たな!」
振り向くとクラッカーを持ったファットガムさんと天喰先輩。先輩に関してはやらされてる感満載だ。今世紀最大のため息が出ている。
「二人ともリアクション薄いで~。」
「え、あの。これは一体。」
「どういうことスか?」
ノリに置いてきぼりだ。ファットガムさんは特に気にした様子もなく朗らかに笑っている。なんかマスコットみたいで可愛い。だけどクラッカーはかなり心臓に悪かった。今もバクバク鳴ってる。
「歓迎の意を示した挨拶やんか。サプライズやサプライズ!関西やとこれが普通やで。」
「そうなんスか!?」
「多分噓だと思うよ……。」
「え、嘘なのか。」
切島くんなんでも信じちゃう。ファットさんはおもろいなあって笑ってるけど天喰先輩は終始暗い表情だ。ここ、本当に先輩のインターン先なのだろうか。めちゃくちゃ明るい雰囲気に面食らってしまう。
「すまんかったな。せっかくぴっかぴかの1年生が来るいうからなんか工夫しよ思たんやけど。」
「だから俺はやめようって言ったんだ。完全にスベった……!」
「環辛辣ゥ。もう知ってくれとるやろうけど俺がファットさんや。よろしゅうな。」
二人揃ってポンと頭に手を乗せられる。私たちの頭を包み込めるくらい大きい手。トトロみたいでちょっとテンションが上がる。
「雄英高校ヒーロー科1年A組切島鋭児郎っス!お世話になります!」
「同じくヒーロー科のみょうじなまえです。よろしくお願いします。」
頭を下げるとよしよしと頷いてくれた。ファットさん、ベストジーニストさんともまた違った雰囲気。豪快だけどすごく優しそうだ。よかった。
「ほな早速着替えてもらおか。男女別の更衣室あるから、環案内頼むわ。」
「……ああ、わかった。」
いまだ口数の少ない天喰先輩の後について更衣室へと向かう。切島くんは新しい部屋を見るたびこの部屋なんすか?ってずっと質問していた。すごい。鋼のメンタル。天喰先輩泣きそうになってる。
着替え終わってファットさんのところに戻ると事務所の構造について軽く説明を受けた。一人一部屋泊まれるところもあるみたいだ。あとは業務について。見まわりが主で敵退治にも同行する。いよいよプロと一緒に前線での戦い。背筋が伸びて気合が入る。
「二人のヒーロー名聞いとこか。」
「俺は烈怒頼雄斗っす!」
「お、紅頼雄斗リスペクトか。ええなあ!」
「あざっす!」
「私はトルネードです。」
「みょうじちゃんかいらしいのに強気なヒーロー名やな。お父さんより強なってしまいそうや。」
ファットさんから零れた父の名前。活動拠点も離れてるしその話題が出るとは思わなかった。咄嗟に反応してしまう。
「あ、父とは……。」
「たまーに顔合わせとったで。質実剛健なええヒーローやった。」
惜しいことしたなあと頭を撫でてくれる。その顔には悔しさが滲んでいて偽りの優しさじゃないことがわかった。よかった、彼はちゃんと私の気持ちを慮ってくれる人だ。温かい手に信頼度がグッと上がった。
「ファット、それはセクハラなんじゃないだろうか。訴えられる。」
「エッ。これあかんの。」
「むやみに女性に触っちゃだめだ。」
「ごめんなァみょうじちゃん。」
「い、いえ私は全然気にしてないです。」
「みょうじ色んな奴に頭撫でられてるもんな!」
「切島くん……!」
「それは……アオハルやなあ。」
なんかファットさんに遠い目をされた。切島くんの言葉だと語弊があるけど私の頭撫でるのはほぼ響香とか女の子が占めてるから。……瀬呂くんは例外だけど。とにかくちゃんと訂正してほしい。本人はきょとん顔で何か変なこと言ったか?と聞いてくる。彼もなかなか天然さんだ。