インターン
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今日から緑谷くんが復帰。謹慎が明けて彼も気合十分だ。この三日間でついた差を取り戻すと言って意気込んでる。目血走ってるけど大丈夫かな。
「じゃ、緑谷も戻ったところで本格的にインターンの話をして行こう。入っておいで。」
仮免取得組が全員揃ったということで消太くんがインターンの詳細な説明をしてくれることになった。それに合わせてどうやら今日は教室に来客があるらしい。みんなドアの方に注目する。
「職場体験とどういう違いがあるのか、直に経験している人間から話してもらう。多忙な中都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。」
入ってきたのはヒーロー科の制服を着た男の人2人女の人1人。その姿を見て驚いた。思わず声が漏れる。
「……え。」
隣の瀬呂くんの怪訝そうな視線を受けて慌てて口元を抑える。あの人、この前朝一緒になった人だ。思わず凝視してしまうと目が合ったので頭を下げる。けれど全力で逸らされた。泣いちゃう。
「現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名、通称ビッグ3の皆だ。」
ビッグ3。響きだけで強そう。一人筋骨隆々な人いるし。私を見て怯えていた人がトップ3人の中にいたのは失礼だけどかなりびっくり。でも、この人もヒーローとして実力がある人なんだ。
「あの人たちが……的な人がいるとは聞いてたけど……!」
「びっぐすりー!」
「めっちゃキレーな人いるしそんな感じには見えねー……な?」
みんなざわざわし始める。やっぱ名称がかっこいいよね。言いたくなるのわかる。あちこちからビッグ3と聞こえてきてちょっと面白かった。
「知ってる人いる?」
「あの右の人、この前落し物拾ったよ。」
「まじか。」
どこにでも知り合いいんなあと瀬呂くんに感心される。あれは完全に偶然だったけど雄英のトップに入る人と話してたなんて。今さら緊張してしまう。
「じゃ手短に自己紹介よろしいか?天喰から。」
消太くんに促されると天喰と呼ばれたその人は急に目を見開いた。教室の空気がビリビリ揺れる。目力だけでこの迫力、さすがだ。
「駄目だミリオ……波動さん……。ジャガイモだと思って臨んでも……頭部以外が人間のままで依然人間にしか見えない。」
何を言うのかと身構えていると予想外の発言。あれ、この前見た光景だ。トップの威厳を感じたのも束の間、その人はなぜか小刻みに震え始めてしまった。強気で顔が怖かったわけじゃないのか。
「頭が真っ白だ……辛いっ……!帰りたい……!」
ええ。黒板の方を向いてこちらを見なくなってしまった。なにこれ。挙動不審ぶりにみんなも戸惑ってるみたいで心配そうに尾白くんが口を開く。
「雄英……ヒーロー科のトップ……ですよね……。」
「あ、聞いて天喰くん!そういうのノミの心臓って言うんだって!ね!人間なのにね!不思議!」
今度は隣の美女が流ちょうに話し始めた。こっちの人はたくさん話す人なんだなあ。かなり辛辣だけど。
「彼はノミの天喰環。それで私が波動ねじれ。今日はインターンについて皆にお話ししてほしいと頼まれてきました。」
天喰先輩今ノミって言われなかった?独特の雰囲気の波動先輩に若干圧倒されてしまう。彼女は目についたもの全てが気になるようで私たちにどんどん質問が飛んでくる。
「けどしかし、ねえねえところで君は何でマスクを?風邪?オシャレ?」
「これは昔に……。」
「あらあなた轟くんだよね!?ね!?何でそんなところを火傷したの!?」
「!?それは……。」
質問するけど答えは聞かないんだ。なんか謎な人だなあ。クラスにいたら距離感が難しそうだ。
それにしてもなんてこと聞くの。隠してる部分や傷跡について聞くなんてめちゃくちゃ不躾だ。憤ってたけど彼女から次々に疑問が繰り出されるのを見て特に悪意はないのだとわかる。波動先輩はやっぱり私たちの答えを待ってる様子はなく、ただただ気になることだけをぶつけてくる。
「芦戸さんはその角折れちゃったら生えてくる?動くの!?ね?峰田くんのボールみたいなのは髪の毛?散髪はどうやるの!?蛙吹さんはアマガエル?ヒキガエルじゃないよね?どの子も皆気になるところばかり!不思議。」
いわゆる不思議ちゃん、なのだろうか。思ったことは口にせずいられないみたいだ。教壇の前に座っている尾白くんにも質問をはじめ、自己紹介は中断されてる。天喰先輩は黒板の方を向いたまま何もしゃべらない。何このハチャメチャな状況。消太くんがイライラしてきてるのがわかる。
「合理性に欠くね?」
「イレイザーヘッド安心してください‼大トリは俺なんだよね!」
痺れを切らした低い声の消太くん。その形相に慌てて残りのビッグ3の人が前へ躍り出た。
「前途―――!!?」
「……?」
その人が急に叫んで教室中がシンとなった。ゼントって、前途のことだろうか。
「多難ー!っつってね!よォしツカミは大失敗だ!」
みんなではてなを浮かべているとその人は自分でレスポンスを返した。どういうテンションで受け入れればいいのかがちょっとわからない。
なんか、3人とも変だ。この人はそれでもまだ会話が成り立ちそうだけど。他2人に至っては言葉のキャッチボールができるかすら危うい。いやビッグ3だから優秀な人たちなんだろうけど。今のところ戸惑いの方が勝つ。
「まァ何が何やらって顔してるよね。必修てワケでもないインターンの説明に突如現れた3年生だ。そりゃわけもないよね。」
ちゃんと普通のトーンでしゃべれるんだ。どこか意外に思ってしまってる自分がいる。それにしても先輩、コミカルな顔してるなあ。挙動はともかくちょっと安心する。心開いてしまいそうな愛嬌のある顔だ。
「1年から仮免取得……だよね、フム。今年の1年生ってすごく……元気があるよね……。そうだねェ、何やらスベリ倒してしまったようだし。君たちまとめて、俺と戦ってみようよ‼」
「え……ええ~~!?」
急だ。まだ名前も聞いてないのにいきなり戦闘の申し込み。クラス中が戸惑ってる。それでも消太くんが許可したので急遽体育館γに行くことになった。展開についていけない。
私たちは言われるがまま体育着に着替えて体育館に来た。通形先輩たちも着替えてる。準備運動している彼を見て、本当に戦う気なんだと実感する。
爆豪くんのけて20人。それを一気に相手するっていうのはかなり無茶な話じゃないだろうか。
「ミリオ……やめた方がいい。形式的にこういう具合でとても有意義ですと語るだけで充分だ。皆が皆上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない。」
壁の方を向いたまま天喰先輩が口を開いた。私たちとはかなり距離を取っていて遠い。極度の人見知りらしい。
彼の言葉は私たちの心配とは真逆のものだった。通形先輩がやられることじゃなく、私たちが力の差に挫折することを危惧してくれていた。それに波動先輩も賛同する。
通形先輩、そんなに強いのか。正直今は陽気すぎるお兄さんくらいにしか感じられてないけど、ビッグ3がそこまで言うんだから相当の実力なんだろう。なんだか緊張してきた。切島くんや常闇くんは天喰先輩の発言が気に入らなかったらしく、不服そうに言い返す。
「待ってください……。我々はハンデありとはいえプロとも戦っている。」
「そして敵との戦いも経験しています!そんな心配されるほど、俺らザコに見えますか……?」
「うん、いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」
二人に凄まれても先輩の強気姿勢は変わらない。彼の言葉にいち早く手を挙げたのは意外にも緑谷くんだった。謹慎でできた差を取り戻すって意気込んでたからなあ。私も負けてられない。
「問題児‼いいね君やっぱり、元気があるなあ!」
通形先輩余裕だなあ。緑谷くんが先頭で構えて、私たちもそれに続く。全員やる気満々で一斉に先輩に向かって行く。
「よっしゃ先輩そいじゃあご指導ぉー、よろしくお願いしまーっす‼」
切島くんの言葉を合図に攻撃開始。その瞬間唐突に通形先輩の服が消えた。え、何これ。全裸になろうとしていたので咄嗟に目を塞ぐ。
「今服が落ちたぞ!」
「ああ失礼、調節が難しくてね!」
いそいそと服を着る先輩。その隙を逃さないように緑谷くんが蹴りを入れる。けどなぜか緑谷くんの攻撃は先輩の体をすり抜ける。これが彼の個性なのか。私たちも容赦なく追撃する。けれど私の風もみんなの攻撃も全部彼をすり抜けた。
「いないぞ‼」
それどころか先ほどまで先輩がいた場所には誰の姿もない。どこに行ったのか探していると彼は突然響香の後ろに現れた。索敵班にも気づかれずに移動できるってどんなからくりなの。また服脱げてるし。
「まずは遠距離持ちだよね!」
「危ない!」
そちらに風を放つけどやっぱりすり抜ける。攻撃がまるで効かないなんて。考える暇もなくいつの間にか目の前に先輩がいた。
「うっ……!」
めちゃくちゃ重い腹パン。衝撃で立っていられず地面に崩れる。遠くで消太くんの声が聞こえた。
「おまえらいい機会だしっかりもんでもらえ。その人……通形ミリオは俺の知る限り、最もNo.1に近い男だぞ。プロも含めてな。」
そ、そんなにすごい人なのか。先に教えといてほしい。消太くんの言葉に違わず先輩は一瞬で遠距離個性持ちを全員倒した。私も動けず横たわるしかない。
その後の近接組。緑谷くんが健闘したみたいだけどやっぱり一瞬だった。クラス全員が通形先輩一人に一瞬でやられた。あまりに強い。ビッグ3の名は伊達じゃない。それにしてもどういう仕組み何だろう。体を攻撃がすり抜けたってことは、やっぱりそれがもとになった個性なんだろうけど。
「ギリギリちんちん見えないよう努めたけど‼すみませんね女性陣‼」
何もできないまま総評みたいな雰囲気になってしまった。私たちみんなグロッキーだ。というか彼に羞恥心はないのか。
「とまァーこんな感じなんだよね!」
「わけもわからず全員腹パンされただけなんですが……。」
お腹痛い。一撃で相手をひれ伏せさせるパンチって、すごい。筋肉もりもりの見た目通りの圧倒的パワーだ。
「俺の個性強かった?」
「強すぎっス!」
「ずるいや私の事考えて!」
「すり抜けるしワープだし!轟みたいなハイブリッドですか!?」
通形先輩の問いかけにみんな次々不満を零す。まあ焦凍くんはかなり異例だからハイブリッドとかはないと思うけど、からくりは私も気になる。緑谷くんもさっき言ってたけどワープっていうのはすり抜ける個性を応用させたものなんだろうか。
みんなの質問に波動先輩が答えてくれようとしたけど天喰先輩に止められてた。今は通形先輩の順番。発言を遮られた波動先輩は不満そうに頬を膨らませている。天喰先輩、意外とちゃんとした人かもしれない。
「いや一つ!透過なんだよね‼君たちがワープと言うあの移動は推察された通りその応用さ!」
「どういう原理でワープを……!!?」
いつになく前のめりな緑谷くんに丁寧に答えてくれる通形先輩。先輩の個性は全身どこでも発動できるもので、透過した場合彼の体はあらゆるものをすり抜けるらしい。あらゆるという中には地面も含まれていて、地面に沈んだと思ったあの個性は地面に落っこちている状態だったのだそうだ。
そして落下中に個性を解除すると質量のあるモノ同士が重なり合うことはできないらしく、地中から弾かれてしまう。それで先輩の体は瞬時に地上に弾き出されるため、ワープしたように錯覚したのだ。体の向きやポーズで角度を調整して弾かれ先を狙うことができるらしい。
「攻撃は全てスカせて、自由に瞬時に動けるのね……。やっぱりとっても強い個性。」
梅雨ちゃんの言葉に先輩は首を横に振った。
「いいや。強い個性にしたんだよね。」
先輩は、個性の発動中は肺が酸素を取り込めないのだと言った。すべてが透過しているため、空気を吸ってもすり抜けてしまうのだ。同様に鼓膜は振動を網膜は光を透過する。あらゆるものがすり抜けるということは、何も感じることができずただただ質量を持ったまま落下の間隔だけがあるということなのだそうだ。
それを聞いてぞくりとした。外界のモノが何も見えず何も感じず、暗闇の中で落下の感覚だけある。どんな気持ちなんだろう。よほど努力しないと、自分の自由さえ効かない個性だ。ましてや戦いに使うなんて。一朝一夕でできるようなものじゃない。
通形先輩は壁をすり抜けるにしても、片足以外発動、もう片方の足を解除して接地、そして残った足を発動させすり抜ける、といくつもの工程がいる。見る分には簡単に見えるけど、個性を使おうと思えばあらゆる動作に気を配らなくちゃならない。
「急いでる時ほどミスるな俺だったら……。」
「おまけに何も感じなくなってるんじゃ動けねー……。」
上鳴くんと峰田くんがその困難さを想像しながら渋い顔をする。
「そう案の定俺は遅れた‼ビリっけつまであっという間に落っこちた。服も落ちた。」
通形先輩は自分の個性で上に行くには遅れを取っちゃダメだったと言う。周囲よりも早く予測すること。それが何より必要だったのだと。そしてその予測を可能にするのが経験だと結論付けた。
「長くなったけどコレが手合わせの理由!言葉よりも経験で伝えたかった!インターンにおいて我々はお客ではなく一人のサイドキック!プロとして扱われるんだよね!」
そうか。体で経験した方が私たちもインターンをやる意味をちゃんと理解できる。そして通形先輩の強さを実際体験したという事実も私たちを強くする。彼の意図がようやく掴めた。
「それはとても恐ろしいよ。ときには人の死とも立ち会う……!けれど怖い思いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の経験!俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!恐くてもやるべきだと思うよ1年生‼」
力強い言葉に思わず身震いした。人の死と向き合うかもしれない。それがプロの横に並ぶってことなんだ。サイドキックとして事務所に向かって、帰って来なかった朧くんのことも私は知ってる。ベストジーニストさんに安全に個人訓練をつけてもらった時とはわけが違う。一層身が引き締まった。
通形先輩は、途方もない努力でトップを掴んだ人なんだ。学校の中だけじゃなく、ちゃんと行動を起こして外での経験を積み重ねた。本当に学ぶことが多くて尊敬する。
その後消太くんのそろそろ戻ろうという一言で解散になり、ビッグ3は帰って行った。結局通形先輩以外はよくわからなかったけど、十分すぎるくらいやる気は鼓舞された。今夜もしばらくリストとにらめっこして真剣に考えてみよう。