エンデヴァー事務所
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大量にあったお鍋をたいらげ、一旦片付けに入る。洗い物を済ませて机の上を綺麗にしたあと今度はデザートの準備を始めた。
「この人数になると紅茶を淹れるのも一苦労ですね。」
「コップもすごい量。」
「やっぱりお皿どう考えても足りないや。どうしよう。」
台所で百ちゃんと一緒に紅茶を淹れていると食器の準備をしていた緑谷くんが眉を下げた。41人分だもんね。さすがにこの寮にもそんな数置いてない。
「それなら私同じものを創りますわ。」
「ヤオモモナイス!」
「ありがとう百ちゃん。こっちは私やっとくから。」
ミルクを取りに来た上鳴くんがさすが!と百ちゃんを褒める。それが嬉しかったのか彼女はぷりぷりと赤くなりながらたくさんのお皿を創っていった。急な褒められにテンションが上がるのはわかる。わかるんだけどそんなにいらないよ百ちゃん。あっという間に積み上がってしまったお皿を見て彼女は「まあ、私ったら!」と慌てている。うん、可愛いからいっか。
紅茶を淹れ終えお皿の収納場所に頭を悩ませていると、玄関から「お邪魔しま~っす」と取蔭さんの声が聞こえてきた。B組のみんなだ。急いで人数分の食器を数える。
「む!来たか!ささ、こちらへ!小大くんもわざわざすまないな!」
飯田くんが手際よく小大さんを誘導し、空いてるスペースに個性で小さくしていたソファや椅子を配置してもらった。これでみんな座れるね。
「空いてる席適当に座って!どうせならA、Bバラバラでさ!」
三奈ちゃんがどうぞどうぞとB組のみんなに声をかける。それぞれが思うままに腰をかけるとちょうどいい具合にばらけることができた。
「全員分のお皿揃った~?」
台所に顔を覗かせた三奈ちゃん。なんとかこちらも枚数を数え終わり百ちゃんと一緒にお皿を運ぶ。
「さすがに足りなくて百ちゃんに創ってもらっちゃった。」
「え、悪いな八百万。」
「いえ、このくらいお安い御用ですわ。」
拳藤さんが申し訳なさそうにお礼を言う。B組のみんなはそれに続いて口々にありがとうと頭を下げた。百ちゃんまたぷりぷりしちゃってるなあ。可愛い。
ようやく全員に紅茶と食器が回った。砂糖くんが大量のお手製ケーキを切り分けてくれている間に私たちA組も席に着き始める。うーんどこに座ろう。迷っちゃう。
うろうろ彷徨ってるとふと柳さんの隣が空いていることに気づいた。確か彼女は拳藤さんと一緒に女性ヒーローのところでインターンだったはず。ちょっと話聞いてみたいかも。
「ここ座ってもいい?」
若干緊張しながら声をかけると柳さんは「もちろん」と快く受け入れてくれた。よかった。こうやってちゃんと話すのは合宿以来。女の子と仲良くなれるの嬉しいなあ。柳さんの右隣には鉄哲くんもいる。何だか和やかなメンバーだ。
砂糖くんからケーキを受け取り、B組と一緒のインターン意見交換会が始まった。紅茶をすすっていると鉄哲くんが口を生クリームでいっぱいにして話しかけてくれる。
「おうおう!みょうじはインターンどうだった!?どこ行ってたんだ!?」
「鉄哲、声大きい。」
「すまねえ‼」
うん、謝罪の声も大きい。柳さんは鼓膜がやられないようにさっと耳を塞いだ。慣れてるなあ。
「ふふ、エンデヴァーさんのところだよ。かなりスパルタだった。」
「何‼No.1のとこかスゲエ‼」
私が彼の名前を出せば鉄哲くんはまっすぐ褒めてくれて柳さんは意外そうに目を丸めた。そうだよね、私とエンデヴァーさんあんまり結びつかないもんね。
「え、また何で。エンデヴァーも飛べるからとか?」
「えっと、体育祭の時にオファーしてもらってて。No.1のところで一度揉まれてくるのもいいかなって。」
エンデヴァーさんから直々に指名があったことは申し訳ないけど伏せておく。一応内密に、ってことになってるし。
「敵ボコボコにしたか!?」
「ボコボコ……。いや私たちが駆けつける前にエンデヴァーさん全部終わらせちゃってるんだよね。だから置いてかれないように必死って感じだったかなあ。」
一度だけエンデヴァーさんより先に敵を倒せたけどあの時のことを話すのは何となく憚られた。柳さんと鉄哲くんは感嘆の声を漏らしていてちょっと照れる。
「鉄哲くんはファットさんのところだよね?」
「おお!みょうじも前はファットのところだったんだよな!会えなくて寂しいって言伝預かってるぜ‼」
「彼女じゃん。」
まさに遠距離恋愛中の彼女のような台詞。柳さんの冷静なツッコミに笑ってしまった。私もファットさんに会いたいなあ。今度電話してみようかな。
「柳さんは……。」
「レイ子でいいよ。私もなまえって呼びたいし。」
「え、いいの?」
思ってもみなかった申し出に心躍った。B組の女の子を名前で呼べる日が来るなんて。ちょっとにやけが止まらない。
「……じゃあ、レイ子ちゃん。拳藤さんと一緒だったんだよね?」
「うん。あの子本当頭の回転速くてさ。プロヒーローにはもちろんだけどあの子から学ぶことも多かったわ。」
「あいつはやる女だからな‼柳もだけど‼」
相変わらずクラスメイトのこと大好きだなあ鉄哲くん。微笑ましくなってしまう。二人の話をひとしきり聞いてると隣のソファから回原くんと円場くんの大きな声が耳に入ってきた。
「最終日は家にも来てくれた。」
「「家に!?」」
「ああ、夕飯一緒に食べた。」
「「夕飯を!?」」
ちらりとそちらを見ると無表情の焦凍くんを凝視してる二人の姿。これは文脈的に焦凍くんの家にお呼ばれした時のことだろうか。うん、言い方がまずい。堂々たる天然ぶりを発揮してしまっている焦凍くんに、なんとかフォローを入れねばと焦る。
「また話戻るけどよ、エンデヴァーって普段何食べてんだ!?」
「何その質問。」
「あんなにでけえ体作るにはまず食事だろ‼」
「あれはもう遺伝子の問題じゃない?」
目の前の柳さんと鉄哲くん。繰り広げられる二人の漫才にある考えが浮かんだ。これなら向こうの席の誤解も解けるし鉄哲くんのキラキラした目にも応えられる。
「あの、焦凍くん呼んでこようか?私よりはエンデヴァーさんのこと詳しいと思う。」
「お、いいのか!?」
「気遣わせちゃってごめんね。」
「ううん、いいの。」
席の交換。焦凍くんがこっちに来て私があっちに行く。そうすれば万事解決でしょ。一人で納得してさっと立ち上がる。隣のソファに移動すれば何故か顔面蒼白になってる回原くんと円場くん。二人は私が来たことに気づいてないみたいだったけど隣に座ってた焦凍くんと泡瀬くんはこちらを見てくれた。
「あ、あの……えっと、レイ子ちゃんと鉄哲くんが焦凍くんのお話聞きたいって。席交換しよっか。」
声をかけてみると私の存在を認識してくれたらしい回原くんと円場くんに元気が戻る。あ、さっきより顔色いい。よかった。
「ああ。なまえは良いのか?」
「うん。焦凍くんから聞いた方がエンデヴァーさんの強さも伝わると思うし。行ってあげて。」
「わかった。」
幸い焦凍くんはすぐに頷いて隣のソファへと移ってくれた。私はさっきまで彼が腰かけていた回原くんと円場くんの間に座る。
「ごめんね急に入れてもらって。」
「い、いや。」
「全然!全然気にしないで!」
「うん……?」
歯切れの悪い回原くんに妙にハイテンションな円場くん。ちょっと不思議な二人の反応に首を捻ると泡瀬くんが苦笑してた。
「みょうじ轟の家行ったってまじ?やっぱちっちゃい頃とかもよく遊んでたのか?」
やっぱりさっきの会話それのことだったのか。泡瀬くんが直球で聞いてくれたので私もチャンスを逃がすまいと慌てて訂正する。
「焦凍くん、というかエンデヴァーさんにお呼ばれしたのは事実だよ。でも爆豪くんと緑谷くんも一緒ね。さっきみんなの会話聞こえちゃって絶対あらぬ誤解生んでると思ってた。」
「ああ……!」
「なるほど。」
どうやらみんな私単独で彼の実家に行ったと思ってたらしい。そりゃびっくりするよね。何とか誤解が解けたみたいで本当に良かった。
「5歳くらいまでは家が近所だったっていうのもあって頻繁に遊びに行ってたよ。私が引っ越してから会わなくなっちゃったから轟家は10年ぶりくらいだったなあ。」
昔を思い出しながら呟けば隣の回原くんは一瞬微妙な顔をした。だけどすぐに首を振って会話を仕切り直してくれる。
「みょうじさんは、その……体育祭の時エンデヴァーからオファーもらってたってことだよな?」
話の流れ的に突拍子もない質問に思えたけど、そういえば今はインターン意見交換会の真っ最中。恐らく焦凍くんから私のインターン先を聞いて彼も少なからず驚いたんだろう。エンデヴァー事務所を選んでるってことは体育祭の時に指名もらってるってことだもんね。
「そう、だね。一応もらってたけど……多分身内票だよ。焦凍くんの幼馴染だから呼んでくれたんだと思う。」
「……いや、実力だよ。」
それとなく濁しながら笑えば回原くんのまっすぐな瞳が返ってきた。思わずどきりとしてしまう。こんな風に彼とちゃんと目が合うの、珍しいかも。
「あ、ありがとう。」
なんだか顔が熱くなる。無性に恥ずかしい気持ちを抑えようと、私は床に視線を落とした。
「みょうじさん地面に落ちてたって聞いたけど平気!?」
ふわふわした雰囲気を一蹴するように今度は円場くんから心配が飛んだ。地面とこんにちはしてたことが広まってる。なぜ。犯人は多分彼だろうけど。
「ええ、焦凍くんそんなことまで話してたの……。お恥ずかしながら空気調節が上手くいかなくて。でも大体かすり傷だから何ともないよ。」
「大体って何だよ。」
「今はもうスピードに慣れたから大丈夫。地面すれすれで体勢立て直せるし。」
「本当に大丈夫なのかそれ。」
怪我してたことを誤魔化すとその都度泡瀬くんから鋭いツッコミが入る。彼との会話はポンポン弾んで楽しいなあ。
「今元気だから無問題。」
軽くウィンクしながら親指を立てると「ならいいけどよ……」と半ば呆れ気味に引き下がってくれた。優しさが染みる。
「みんなはインターンどうだったの?回原くんと円場くんは同じところだったんだっけ?」
「あ、ああ。」
「そうそう。」
私の話ばかりしちゃってるなと思い三人のインターンのことも聞いてみる。二人は鎌切くんと、泡瀬くんは鱗くんと同じインターン先だったみたい。それぞれ学ぶことがたくさんあったようで、その内容から確実に戦闘スキルが上がってることがわかった。
段々と夜が更けていき、そろそろ時計が0時を回りそう。さすがに解散しなきゃということになりみんな帰り支度を始める。色々ためになる話聞けてよかったなあ。
「また話そうね。」
立ち上がる三人を見上げて笑えば泡瀬くんだけが「おお」と元気な返事をしてくれた。あとの二人は頬を赤く染めて言葉を詰まらせている。
お見送りのため私も玄関の方に向かおうとしたけど何故だか回原くんだけがその場を動こうとしなかった。不思議に思って首を傾げる。声をかけようかと迷ったその時、突然彼に腕を引かれた。
「え、」
いつになく熱っぽい瞳にじっと見つめられる。ああ、やっぱり整った顔だなあなんて。ぼんやりそんなことを考えた。
「約束……まだ、果たせてないから。今度写真撮らせて。」
驚いてすぐに答えることができなかったけど、段々と理解が追いついてきて以前彼と約束したカメラ撮影のことだと思い至る。回原くん、あの時のこと覚えててくれたんだ。
「うん、楽しみにしてます。」
少し照れながら笑って返せば目の前の彼はホッと肩を撫で下ろした。そしていまだ私の腕を掴んだままということに気づき素早く手を離す。さきほどよりもっと真っ赤な顔で「じゃあ」と玄関へ走り去ってしまった。
その様子がちょっと可愛くて頬を緩ませながら私もB組みんなのお見送りに向かう。するとその途中で今度は骨抜くんに呼び止められた。彼は体をかがめてこっそりと私に耳打ちする。
「みょうじさんと今日全然しゃべれなかったからさ、次こういう機会があったら絶対俺のとこ来てよ。約束。」
言葉の内容と距離の近さにまた心臓が跳ねる。さっきから感情振り回されてばっかだなあ。素直に頷いて見せると骨抜くんはふっと目を細めた。
B組のみんながいなくなってほんの少しだけ静かになった部屋で片づけを始める。耳に残る二人の声は砂糖くんのケーキよりも甘かった。