エンデヴァー事務所
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「何してたんだ遅エ~~よ謹慎ボーイズ。」
「早く手伝わねーと肉食うの禁止だからな!」
寮に戻るとみんな準備の真っ最中。瀬呂くんは食器、上鳴くんはお肉を運びながら口を尖らせている。
「ご、ごめん!」
「すぐやるね!」
緑谷くんと一緒に手洗い場に急ぐ。もうすでに食材なんかは切り終わっているらしく非常に申し訳ない。だけど約一名は全く気にしてない様子。謝罪どころかキレ散らかす声が後ろから聞こえてきた。
「肉を禁じたらダメに決まってんだろがイカれてんのか‼つーかあいつも遅れてんだろが‼」
「俺あからさまにみょうじ贔屓だから。文句は爆豪と緑谷だけでじゅーぶん。」
「クソが‼」
なんかかなり恥ずかしいこと言われてる気がする。堂々としすぎだよ瀬呂くん。会話が聞こえたらしい緑谷くんもはわわみたいな顔で赤くなってるし。こっちまで熱くなるからやめて。しっかり手を洗って準備に取り掛かろうとしているとすれ違いざま爆豪くんに「調子乗んな!」と睨まれてしまった。キングオブ横暴。
暴言を受けながら台所に入っていくと山盛りの野菜が入ったお皿を運ぼうとしている響香がいた。
「あ、なまえおかえり。」
「ただいま~。私も野菜持つよ。」
「さんきゅ。」
さすがに21人もいると量多いなあ。同じ大きさのお皿が四枚もある。私たちはそれを一枚ずつ持って落とさないように机を目指した。
「ニラ切った奴誰だ!」
「俺だ!」
「姉ちゃん泣くぞ‼」
もう一往復しようと台所に戻れば入れ替わりでやってきていた爆豪くんが猛スピードでニラを切っていた。どうやら焦凍くんが切り損なったやつらしい。文句言いながらもなんだかんだ世話焼いてくれるんだよね。爆豪くんと焦凍くんとの距離もインターンでほんの少しだけ縮まったっぽい。多分だけど。
あらかた準備が終わってそれぞれのコップに飲み物が注がれる。ちなみに私はオレンジジュース。コンロに火もつけたしあとは出来上がりを待つのみだ。豆乳鍋のいい匂いが漂ってくる。お腹空いたなあ。
「あとでB組も合流するんだよね。」
「座る場所足りる?」
響香の言葉にキョロキョロと周りを見回す。もうすでに席は埋まってる状態だ。いくらこの寮が広いと言えどもさすがに一つの部屋に41人は無理があるのでは。少々不安になってると小大さんがソファを持ってきてくれるそうだと切島くんが教えてくれた。なるほど、それなら安心。
ぐつぐつとお鍋がいい音を立て始めた。みんな席について飲み物を持つ。私は響香と百ちゃんの間に座って始まりの合図を待っていた。
「では!インターン意見交換会兼始業一発気合入魂鍋パだぜ!会を始めよう―――!!!」
委員長である飯田くんが元気な音頭を取ってパーティが始まった。響香たちと乾杯してオレンジジュースに口をつける。
「良い香りですね。」
「やっぱ寒い日はお鍋だねえ。」
百ちゃんと一緒に顔を綻ばせていると障子くんの大きな手がお玉を取った。
「そこからだと遠いだろう。皿を貸せ。」
「え、でも。」
「近い者が取ればいい。遠慮は無用だ。」
なんだか申し訳ない。だけど距離的によそいづらいのも事実。結局お言葉に甘えて女子三人分のお椀を渡すことにした。
「これくらいでいいか。」
「うん、ありがとう。」
お礼を言って彼の手からお椀を受け取りみんなでいただききますをする。汁を一口啜ればふんわりゴマが香った。うん、豆乳鍋最高すぎる。
「暖かくなったらもうウチら2年生だね。」
柔らかくなった大根を噛みしめていると響香が感慨深そうに呟いた。梅雨ちゃんとお茶子ちゃんもあっという間だったとうんうん頷く。
「後輩できちゃうね。」
「有望な奴来ちゃうなァ!や~だ~!」
どんな子たちが入学してくるんだろうと思いを馳せながら零せば上鳴くんが駄々をこねるみたいに叫んだ。確かに才能溢れる後輩に抜かされるのは怖いかも。インターンで一緒になるかもしれないし、いいとこ見せられるよう私たちも頑張らなきゃなあ。
「君たち!まだ約三カ月残ってるぞ‼期末が控えてる事も忘れずに!」
一年を振り返ってしみじみしていると飯田くんから鋭い指摘。一部の人にとっては耳を塞ぎたくなるような現実を突きつけられ、峰田くんが眉間に皺を寄せた。
「やめろ飯田鍋が不味くなる!」
「味は変わんねェぞ。」
「おっ……おまえそれもう天然とかじゃなくね……!?」
相変わらずの焦凍くんにさすがの峰田くんも若干困惑してる。響香はおかわりをよそいながらケラケラ笑った。
「皮肉でしょ。期末慌ててんの?って。」
「高度‼」
三人のやり取りに周りからも笑いが零れる。上鳴くんは峰田くんに「俺は味方だぞ」というエールを送っていた。ちゃんと勉強しようね。
「また皆で勉強会したいね。」
合宿前の期末のことを思い出しながら隣の響香に寄りかかれば頭を撫でてくれる。彼女の紫色の目がやんわり細まって私を見つめた。
「それじゃあ場所は約束通りなまえの部屋。」
あ、そういえばそんな話だった。一人暮らししてるって言ってなかったのめちゃくちゃ怒られた時に次のテスト勉強は私の家でってことになったんだっけ。懐かしいなあ。
「素敵ですね。」
「オ、オイラもいいか……!?」
「ごめん、却下で。」
「チクショウ‼」
百ちゃんも響香の意見に賛同する。女の子三人で和やかなムードになってると峰田くんが鼻息荒く手を挙げてきたので丁重にお断りさせてもらった。部屋の中にまたみんなの笑い声が響く。
インターンとか、父のこととか、ホークスさんとか、ワンフォーオールとか。最近感情が忙しすぎて穏やかな時間が久しぶりに思える。ついこの間クリスマスパーティをしたはずなのに、もう随分遠い昔のようだ。
「……なんかこういうのいいね。」
温かい賑やかさに包まれながらお肉を口に放り込む。横では響香が私と同じような顔をしてみんなの様子を見つめていた。大好きな人たちの楽しそうな声に、何だか胸がいっぱいだった。