仮免試験
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翌日教室に集められた私たち。まだ夏休み真っ最中だけど、合宿が中断されてしまったため休んでもいられない。
「昨日話した通り、まずは仮免取得が当面の目標だ。」
「はい!」
みんなも気合十分で、消太くんへの返事がいつもより大きい。全員が気持ちを新たに目標に向かおうとしていることがわかって、私も背筋が伸びる。
「ヒーロー免許ってのは人命に直接係わる責任重大な資格だ。当然取得のための試験はとても厳しい。仮免といえどその合格率は例年5割を切る。」
いまいちピンと来てなかった仮免試験の説明。その内容はかなり過酷だ。半分以上が落ちちゃうなんてさすがに厳しい。改めて狭き門なのだと実感する。
「そこで今日から君らには一人最低でも二つ……。」
がらりとドアが開いて入ってきたのはミッドナイト先生、エクトプラズム先生、セメントス先生。
「必殺技を作ってもらう‼」
「学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタアア‼」
クラス中が盛り上がる。必殺技かあ。合宿の時偶然だけどそれっぽいの出来たんだよな。池ぐるぐるさせたの応用したやつ。あれを基本にして考えたらいいのかな。
「必殺!コレスナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」
「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押しつけるか!」
「技は己を象徴する!今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」
お三方の力強いお言葉。確かに今活躍してるヒーローもみんな必殺技持ってるよなあ。自分の得意で戦闘する。そういえば前にお茶子ちゃんもそんなこと言ってたっけ。
「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え体育館γへ集合だ。」
消太くんの指示通り戦闘服に着替えて体育館へと向かう。そこはトレーニングの台所ランド、通称TDL。ここまでくると意図的としか思えない名前だ。権利関係大丈夫なのだろうか。
どうやらセメントス先生考案の施設らしい。がらんとしていて何もないように見えた体育館が、彼の個性によって変形していく。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意してくれるのだそうだ。セメントス先生がどんな状況もつくり出せる場所。なるほどそれで台所。
「質問をお許し下さい!」
元気よく手を挙げる飯田くん。勢いすごいな。気合十分だ。
「何故仮免許の取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います‼」
「順を追って話すよ。落ち着け。」
飯田くんの勢いに若干消太くんも引き気味だ。その後今回の課題について説明が続けられた。
ヒーローはあらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事。当然仮免取得試験ではその適性を見られる。情報力・判断力・機動力・戦闘力。他にもコミュニケーション能力・魅力・統率力など多くの適性が毎年異なる試験内容で採点されるのだそうだ。
その中でも戦闘力は極めて重要視される項目になる。敵連合の動きが活発化している今年はなおさらだ。技の有無は合否にも大きく影響するらしい。これさえあれば勝てるという必殺技を持っておけば、試験にも焦らず臨める。状況に左右されることなく安定行動をとれるということは、高い戦闘力を有していると判断してもらえるのだそうだ。
技は必ずしも攻撃である必要はなく、自分の中でアドバンテージとなる型を作っておこうという話らしい。
「中断されてしまった合宿での個性伸ばしは……この必殺技を作り上げるためのプロセスだった。」
消太くんの言葉に納得する。そうか、自分の長所を伸ばして絶対負けない技を作ることが目的だったんだな。それも敵襲撃でうやむやになってしまったけど。
「つまりこれから後期始業まで……残り十日余りの夏休みは、個性を伸ばしつつ必殺技を編み出す圧縮訓練となる!」
セメントス先生が形成してくれたステージに、個性で増殖したエクトプラズム先生たちが配置される。相手役として一人につき一人エクトプラズム先生がついてくれる仕組みだ。
「尚、個性の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの改良も並行して考えていくように。プルスウルトラの精神で乗り越えろ。準備はいいか?」
消太くんの声を合図に訓練へと取り掛かる。ステージを壊してもすぐにセメントス先生が直してくれるため、存分に個性を放っていいようだ。
私もすぐに配置についた。自分の体と同じくらいの岩を作ってもらい、とりあえずその前で腕を構える。合宿では池の水を洗濯機みたいにぐるぐる回してそのまま空中に留めることができた。襲撃の時も旋風を起こして煙を広範囲に巻き上げられた。これを合わせれば多分行ける。
まず片手で威力の強い風を放って岩を粉砕。すかさず旋風を起こして散らばる破片を上の方へと巻き上げる。岩の瓦礫や破片が全て巻き上げられたところで旋風を解除し、空気を圧縮する。よし、できた。ようやくこれでベストジーニストさんに言われた課題はクリアだ。対象を破壊しつつ周りへの配慮も欠かさない。これなら誰も瓦礫で怪我させることなく救助活動もできる。ここまで結構かかったなあ。
「型ハスデニ出来テイルヨウダナ。旋風ヤ直線状ノ風ヲ単体ノ必殺技トシテ考エテモヨサソウダ。何カ名前ノ候補ハアルカ?」
「……せ、洗濯機?」
「……必殺技ハ自分ノ代名詞トナルコトヲ忘レルナヨ。」
「もうちょっと考えます。」
合宿中ずっとモーセと洗濯機って呼んでた訓練だからつい引っ張られてしまった。あまりのネーミングセンスのなさに自分でも苦笑してしまう。エクトプラズム先生はにこりとも笑ってくれなかったけど。えーとどうしよう。
「他ニ何カ気ニナルコトハアルカ?」
「あ、はい。今の一連の流れなんですけどこれやろうとすると両手が空いてるのが必須条件で。攻撃してる間空中に飛べないんです。」
「ホウ。コレマデハドンナ風ニ飛ンデイタ?」
「ええと、空気の塊を作って階段みたいにして上へあがったり、爆豪くんみたいなスタイルで風を両手打ちしながら体を押し上げたりしてました。」
「ナルホド。確カニソレデハ両立ガ難シイナ。」
「はい……。」
結構深刻な最近の悩みだ。地上で倒せる相手なら問題ない。でも敵が強くなると空中に逃げられる可能性は捨てたくない。選択肢は多い方がいい。
「ダガ空中デ戦エレバソレダケ有利ニモナル。ヤリ方ヲ模索シツツコスチュームノ改善モ考エテミヨウ。」
「はい!」
セメントス先生にステージを直してもらって訓練を続ける。それと同時にモヤモヤとコスチューム変更について考えた。体育祭の騎馬戦の時みたいなサポートアイテムを作ってもらうのがいいのかなあ。でもあれ結構重そうだったし、私の個性的になるべく重量化は避けたい。お茶子ちゃんみたいに重力なくせたらなあ。ついないものねだりしてしまう。
答えが出ないままそろそろ夕方だ。コスチュームのことばかり考えてたから結局必殺技の名前も思いついてない。洗濯機じゃなくて、うーん。トルネードはヒーロー名と同じだけどいいのかな。名が体を表す的な感じにしたりとか。直線状の風は……モーセの十戒?駄目だ、塩崎さんみたいになってしまった。
「おい。」
うんうん唸っていると背後から声をかけられる。振り向くと消太くん。なんだろう。
「このあと時間あるか。別訓練だ。」
「あ、心操くんですか。」
周りに聞こえないようトーンを落とす。別に隠してるわけじゃないんだろうけど何となく秘密にしておいた方がいい気がして。消太くんが頷いたので体育館を出る準備をする。
「大丈夫です。このままでいいですか?」
「ああ。いちいち着替えるのも面倒だろ。」
消太くんの後を追いいつものグラウンドへと向かう。そういや心操くんにコスチューム姿見られるの初めてだな。今さら体育着に着替えるのも嫌だけどちょっと恥ずかしくなってきた。
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