二章
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気づいてしまった事実があまりに衝撃的で項垂れていたが自室に帰って黙々と片づけをしていると幾分か冷静になってきた。
大丈夫だ。恐らく私の役目は日記を元いた世界に届けること。それが終わればもう用済みなのだからその場で元の時代に戻れる算段がつくだろう。うん、きっとそのはず。というかそうなってくれないと非常に困る。
半ば言い聞かせるように自分自身を納得させて私は再び山寺に繋がる手がかりを探すことにした。何かに没頭していないと不安で押し潰されそうになる。広い長屋で自分の生活音しか聞こえないこの状況は私の孤独を助長させていた。
書物を読むのにどこか良い場所はないかと涼しさを求め自室の障子を開ける。きょろきょろと辺りを見回すと六年い組の部屋の前で何やら木材を広げている兵太夫くんの姿が目に入った。
「おはよう兵太夫くん。」
「あ、おはようございますなまえさん!」
声を掛けるとぱっと顔を上げてくれる。眩しい笑顔と元気な挨拶に自然とこちらも笑みが零れた。
「今日の作業場は六年長屋?」
彼の手には新作の絡繰りが握られていて今は微調整の最中らしい。兵太夫くんは私の問いかけを片手間に聞きながら「んー」と唸った。どうやら目の前のことに集中している様子。タイミング悪い時に来ちゃったかなと何だか申し訳なくなってくる。
「ここ陰になってて涼しいんですよ。最近お気に入りの場所です。」
手元から視線を逸らさないながらも返事をくれてほっとする。会話したくないとか邪魔だとかそういうのではないんだろうなと思い直して私も縁側に腰かけ本を開いた。
「兵太夫くんはしばらくここにいるの?」
時折吹いてくる風に心地よさを感じて垂れてくる髪を耳にかけた。ほんの少しの期待を込めて彼に尋ねてみたがそんな打算はすぐに摘まれる。
「あー、父上が明日近くに用事があるそうなので合流して一緒に帰ります。」
「そっか、さ……楽しみだね。」
寂しくなるねの一言を既の所で呑み込んだ。しばらくいてくれたらなんて自分勝手な思いは心の中に仕舞っておこう。まだあどけない彼にまで余計な気を遣わせちゃいけない。一人、また一人とみんなが学園から離れていくことにどうしようもない寂しさを感じて自身の情けなさに胸が締めつけられた。
「そういえばなまえさん、帰る方法見つかったんですよね?」
「あ、うん。まだ可能性があるってだけで実際にその方法で帰れるかどうかはわからないんだけどね。」
まるで言い訳をつらつらと並べ立てているようで我ながら未練がましいなと苦笑してしまう。どれほど足掻いたところでこちらの意思に関係なくその日はやって来るというのに、意気地のない私は未だこの世界にしがみついていた。
「僕も帰りの道中山寺探してみますよ!夏休み明けに場所報告しますね。」
兵太夫くんの純粋無垢な親切心に目が眩みそうになって思わず小さく息を吐いた。周りの蝉の声がやけにうるさくてまるで何かに掻き立てられているかのような心持ちになる。
「ありがとう。また新学期に会えるの楽しみにしてるね。」
立ち込める薄暗さを微笑みの奥へと押し込めて唇で穏やかな弧を描く。兵太夫くんの「はい!」という元気な返事を遠くに聞きながら着実に迫るタイムリミットについて考えていた。