二章
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今日も朝から図書室に籠もっている。立花くんが帰ってしまった今、蒸し風呂のようなこの場所に現れる奇特な人間は私くらいだった。額に浮かぶ汗を拭いながら新しくページをめくる。もういつものことになってしまったが山寺の居場所を示す手掛かりは見つかりそうになかった。
「……駄目だ、ぼーっとする。」
暑さのせいで内容が入ってこない。切れてしまった集中力に項垂れながら、私はばさりとノートを開いた。
とりあえずこれまでの情報と推測を整理してみよう。まずは姫様の日記から。
この日記はこの世界に生きていたヤマイグチ城の姫君正源寺綺姫のもので、本来ならば向こうの世界に存在するはずはない。それならば何故私はここに来る前に彼女の日記を読んでいたのか。恐らくその答えは私が日記を現世に届けたから、だ。姫様と私の顔が瓜二つなのはきっと偶然じゃない。そこには何か重大な理由があるはずだ。それが何かはまだわからないけれど。
元いた世界での日記の発見場所は四国の山寺。遅かれ早かれ私はいずれそこに訪れることになるだろう。姫様が大切に描写していた桜の綺麗な山寺から、まるでゲートを通るように。そうすればこの世界での私の役目は終わるはずだ。ちゃんと当時の発見場所に日記を届けさえすれば、私は元の世界に帰ることができる。
「……あれ。」
そこまでノートに書き込んで手が止まる。当時の発見場所?その当時とは、いつのことだろうか。
さあっと体温が引いていった。こちらとあちらを繋いで日記を届けるのが私の使命だというならば、私が飛ばされてしまうのは。
「明治、時代……。」
そう。そうなのだ。この日記が見つかったのは明治時代後期。私が生まれるより100年以上も前の日本だ。どうしてこんな重大なことが頭から抜け落ちていたのだろう。
「はぁ……。」
鉛のように肩が重たくなって盛大なため息が一人きりの図書室に響く。
元の世界に戻れるというのは夢幻だったのだろうか。深刻な現実が一層鋭さを帯びるのを感じながら開いたばかりのノートを力なく閉じた。