一章
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今日は早朝から図書室に籠もっている。私の向かいに座っているのは中在家くん。図書委員の仕事をこなしながらこちらの進捗を見守ってくれている。本当に彼には頭が上がらない。
最近はみんな夜になると学園の外へ出掛けていく。忍たまの実習が立て込んでいる今、私が勉強を見てもらえるのは朝しかなかった。食堂の台所に立つ時間まで、少しの合間を縫って中在家くんは私に付き合ってくれている。
「おはようございます。」
静かに障子が開いて、可愛らしい声が図書室に響いた。ひょっこり顔を覗かせたのは私の小さな先生。
「おはよう、怪士丸くん。」
「……早いな。」
私達が挨拶を返すと彼は嬉しそうに隣に腰を下ろした。自分が持ってきた課題を開いて勉強会へと加わる。
「なまえさん、ここの答えってこれで合ってますか?」
「ん、どれどれ……うん、合ってる。完璧だよ。」
「えへへ、なまえさんもすごく字お上手になってます。」
「本当?先生のおかげだね。」
「そんな……嬉しいです。」
二人で顔を見合わせて笑う。その様子をじっと眺めていた中在家くんがふっと目を細めたのがわかった。
「ごめん、うるさかった?」
「……いえ、近頃特に仲が良いな、と思っただけです。」
彼はまるで父親のような穏やかな表情をしていた。下級生達を静かに見守る頼りになる存在。怪士丸くんが憧れるのも納得だ。やはり最上級生というのは偉大なのだなと勝手に頷いていると、不意に作業をしていた中在家くんの手がぴたりと止まった。
「みょうじさん、食堂の仕事を終えたら作法室に行って下さい。」
「え?」
「午後から町に出ます。」
告げられたのは突拍子のない提案。午後からって、今日の午後だろうか。事務員の仕事もあるしさすがに突然抜けることはできない。それに作法室に行けというのもあまりに謎だ。普段の中在家くんからは想像もつかない脈絡のなさに困惑してしまい、すぐには返事ができなかった。
「吉野先生と学園長先生にはすでに許可を取ってあります。」
私の考えを読み取ったのか、中在家くんが補足の説明をくれる。しかしその真意は掴めないままだ。恐らくデートのお誘いではないはずなんだけれど。
「何があるんですか?」
聞きたかったことを怪士丸くんが代弁してくれた。それに対して中在家くんは黙って首を横に振るばかり。誘った理由は教えられないということか。ますます気になってきた。
「とりあえず、わかった。作法室に行けばいいんだね。」
「はい。よろしくお願いします。」
とにもかくにも何が待っているのか知るには作法室に行く必要があるようだ。了承を返すと中在家くんは「もそ」と言って再び手元に視線を戻した。
怪士丸くんは不思議そうに私と中在家くんを見比べている。「後で何だったか教えてあげるね」とこっそり耳打ちすれば「絶対ですよ」と彼が小指を差し出して、私達はまた指切りをした。