一章
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収穫は上々だった。不運を呼び寄せる善法寺先輩もいないため、特に何も起こらず籠いっぱいに目当てのものを積み上げることができた。
「これだけあったら大丈夫だね。帰ろうか。」
よいしょ、と数馬が籠を背負う。
「帰りは僕がなまえさんと手を繋ぎたい!」
我慢していたらしい左門がすかさず手を挙げた。しかし三之助は嫌そうだ。
「帰りも俺が繋ぐ。作兵衛で我慢してくれよ。」
「我慢って何だ。」
抗議の声を上げる作兵衛のことを二人は少しも気にしていない。
「作兵衛とはいつでも繋げるがなまえさんはそうはいかない!」
「それは俺も同じだ。」
「一人占めは良くないぞ!」
「お前らもう探してやらねえからな……。」
「まあまあ。片手ずつ繋ごう。」
宥めるように彼女は手を差し出した。その声に口論はピタリと止み、雑な扱いを受けた作兵衛だけが不服そうだった。
「両手が塞がった状態で山道を下るのは危ないですよ。」
嬉しそうに彼女の手を取ろうとしていた二人に藤内が水を差す。またも一触即発の空気が流れたが、それを許さなかったのは彼女だった。
「多分大丈夫だよ。この前裏山からもこうやって帰ったし。それに危なくなったら二人が支えてくれるはずだから。」
ね、と問えば元気な返事が二つ響く。藤内も渋々了承し、ようやく事は収まった。
学園への帰路を辿りながら、彼女を横目で盗み見ていた。何故そんなにも執着するのかと疑問だったが、今日一日で少しだけ左門と三之助の気持ちがわかった気がする。
賢く気高く、穏やかで包み込んでくれるような人。中庸的で、何事にも寛大な人。僕とジュンコを個人として見てくれる人。あまり他人に興味を示さない自分にも魅力的に映った。
どうでもいいという感情はいつのまにかなくなっていた。
「みんなのおかげで素敵な景色が見られたよ。連れてきてくれてありがとう。」
一人一人を見据えて彼女が声をかける。
「喜んで頂けて良かったです。」
初めに反応した三之助を皮切りに、学友たちもそれぞれの思いを述べた。
「僕も楽しかったです!」
「薬草採り手伝っていただいて助かりました。」
「おにぎり作っていただいてありがとうございました。」
「ほんとに美味かったです。」
ひとしきり全員がしゃべったあと、自然と視線がこちらへ向く。全員がじっと自分の言葉を待っているようだった。
「……僕も楽しかったです。みょうじさんのことを知ることができて、良かったと思います。」
みょうじさん以外は驚きの目をこちらに向けている。まるで珍しいものでも見たかのようだ。
「孫兵も人に興味が持てたんだな。」
みんなの気持ちを代弁するように、作兵衛から失礼なことを言われた。その意図がわからない彼女は、僕の顔を不思議そうに見つめている。
なんだか気恥ずかしくなって会話から外れる。すぐに左門が別の話題を出し、再びみんなは賑やかになった。
ふと彼女の方を見ると目が合った。あまりしゃべらない自分を察してか、彼女は声に出すことなく「ありがとう」と口を動かした。
その時の彼女の笑顔が、何故だか焼きついて頭から離れなかった。