一章
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朝の食堂が落ち着いてきた頃、珍しい来客があった。彼らはみんな緊張した面持ちで私を見上げていて、かなりの勇気を出して声をかけてくれたことがわかる。
「お、お忙しい中お呼び止めしてしまって申し訳ありません。お話を聞いて頂きたく伺いました。」
任暁くんの挨拶は他の一年生の子達より大人びたもので、その丁寧さにこちらも襟を正す。
「もうすぐ仕事も一段落つくから大丈夫だよ。どんなご用かな。」
その場に屈んで目線を合わす。突然近くなったその距離に、彼は少しだけ視線を彷徨わせた。
「あ、ありがとうございます。実は僕達朝の授業が自習になっていまして、その際にみょうじさんに勉強を見て頂きたくてお願いに来ました。」
「私に?」
「はい。安藤先生と吉野先生にはすでに許可を頂いております。」
し、仕事が速い。十歳だとは思えないほどの配慮に脱帽する。
最近下級生の子達から宿題について質問されることが増えた。何故か勉強ができるという噂が流れてしまっているようで、主に一年生がたくさん訪ねてくる。恐らく出どころは図書委員のみんななのだが。
「私がみんなに教えられることあるかな。」
「みょうじさんに算術の宿題を見てもらったと孫次郎から聞きました。僕達も是非見て頂きたいです。」
ええと彼は確か上ノ島くん。ほっぺが可愛い。
範囲が同じなら確かに役には立てるかもしれない。しかしい組のみんなは特に勉強ができると聞く。私の助けなど必要だろうか。
「やはり駄目でしょうか。」
考え込んでいる私を黒門くんが引き戻す。その目からは不安な色が滲んでいた。
「僕達、みょうじさんとお話がしたくて……。」
彦四郎くんが怖々と続ける。その言葉を聞いてようやく私は意図を理解した。
彼らは別に勉強を見てもらいたいわけじゃないのだ。それを口実にして、私との交流を図ってくれているのだろう。
「お誘いありがとう。私もみんなとお話ししたかったから、朝の食堂が終わったら教室に行かせてもらうね。」
にっこりと微笑めば彼らの表情はようやく少し和らいだ。
「あ、ありがとうございます。それではお待ちしてます。」
頭を下げて出ていく四人を見送る。礼儀正しい彼らからは、学園に来たばかりの頃の敵意は微塵も感じられなかった。
一年い組の子たちとは、彦四郎くん以外ほとんど関わったことがない。以前作法室にお邪魔したとき黒門くんはいなかったし、任暁くんは潮江くんの手前私に近づくことはできなかっただろう。上ノ島くんはたまに三治郎くんたちからその名前を聞くが、直接交流があるわけではなかった。
彦四郎くんだけは三郎くんと勘ちゃんがよく一緒にいるため、比較的話す機会がある。
みんなの緊張はこちらにもひしひしと伝わってきた。勇気を出して声をかけてくれたに違いない。
彼らの気持ちに報いなければ。早く教室に行けるよう、私は食器の片づけを急いだ。