一章
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学園長は自身の庵で隠しておいた高級羊羹を食べていた。誰にも邪魔されず熱いお茶を啜っていると、突然天啓に打たれたように閃いた。
「そろそろ頃合いかもしれん。ヘムヘム!」
「ヘム!」
見計らっていたかのように現れた忍者犬に目で合図をする。
「皆に伝えてくれ。頼んだぞ。」
「ヘムヘム!」
了解の意を唱え早速庵を飛び出したヘムヘムを、学園長は満足げに見送った。
「特別課題?」
「ヘム!」
急遽招集された私、伊作、留三郎は思わず顔を見合わせた。どこか得意げなヘムヘムは胸を張って答える。
「また学園長先生の突然の思いつきかよ。」
留三郎がやれやれと肩を竦める。私もその反応には同意見だった。全く、せっかくの休日だというのに人騒がせなお人だ。
どうやらヘムヘムは全校生徒にこのことを伝えなければならないらしい。鍛錬で外に出ている文次郎、長次、小平太には我々の方から報告しておくと約束した。
「してその内容は?」
「ヘム。」
今度は何をさせられるのかと身構えて聞いていたが、それは意外なものだった。
「なまえさんの笑顔を引き出す?」
「ヘム!」
木陰で昼寝をしているとヘムヘムに声を掛けられた。聞くと学園長先生の思いつきに付き合わされているらしく、先程までは六年生に内容の説明を行っていたようだ。
「それが条件なの?」
「ヘム。ヘムヘム!」
「ふーん、なまえさんには課題ってことは内緒なんだ。」
「ヘム。」
どうやら単独行動ではなく各学年で行動しなければならないらしい。一年生だけ人数が多いので組ごとに分かれるようだ。
最初はまた迷惑な思いつきかと顔を顰めていたが、今回は珍しく納得できる課題のようだ。
さて、僕ら四年生はどうしようかな。いつもふわふわと頭を撫でてくれるその人を思い浮かべながら立ち上がる。
とりあえず穴を掘りながら考えることにしよう。
「で、全学年がみょうじさんと遊んだあとに判定をしてもらうと。」
「ヘム。」
「みょうじさん自身に一番一緒にいて楽しかった学年を決めてもらうってことか?」
「ヘムヘム!」
これはかなり不利なんじゃないのか。みょうじさんと仲のいい五・六年生に比べて僕たち二年生は圧倒的に交流が少ない。
四郎兵衛や石人は問題なさそうだが、以前きつくあたってしまったことのある三郎次と久作は後ろめたさから彼女に上手く近づけずにいた。
「なまえさんと遊べるなんてわくわくするんだなあ。」
「僕も。初めてちゃんと話ができるよ。」
もうすでに何をして遊ぶかを話し始めている二人とは裏腹に、三郎次の表情は暗かった。
「いい機会なんじゃないか。」
「……そうだな。」
深刻になっている級友に声をかけると存外素直に返ってくる。あの人はもう気にしていないだろうけど、三郎次にとってはかなり重要な事柄らしかった。
打ち解けられるといいな。意外と真面目な性格の友人と優しい彼女の未来の為に、そんなことを願った。
「学園長先生も考えたもんだよな。」
突然学園長室に呼び出された彼女がいなくなった図書室で、ヘムヘムの話に耳を傾けている。
「まあな、なまえさんと仲良くなりたくてもなれない忍たまのことも考慮してるんだろうな。」
最初に彼女を敵と勘違いしてひどい態度をとってしまった忍たまは確かにいる。それが足枷となって上手く親交を深められていない様子は、俺達も度々見かけていた。
しかし課題ということにしてしまえば近づきやすい。学年ごとという制約があれば個人で動かなくていい分尚更気が楽だ。
「まとめると、各学年ごとにみょうじさんを誘ってその交流の中で彼女の笑顔を引き出すことが僕たちの課題。最終的にみょうじさん本人に一番楽しく過ごせた学年を決めてもらい、優勝した学年には何か賞品があると。」
「ヘム。」
「みょうじさんには交流を深めるために各学年から誘いがある、とだけ伝えられるんだね。」
「ヘムヘム!」
雷蔵が内容を整理すると、ヘムヘムはそうだと言わんばかりに頷いた。
賞品がついているのは恐らく格好だけだ。彼女に対して打算的に動く人間はもうこの学園にはいない。
彼女と忍たま達の間に気まずさをなくす。これが本来の目的なんだろう。
「僕達はどうしようか。とりあえず八左ヱ門と兵助も呼んだ方がいいよね?」
「そうだな。まずは二人を探しに行こう。」
雷蔵の言葉に三郎も賛同する。二人が立ち上がろうとした時、俺はあることを思い出した。
「ねえ、俺思いついちゃったんだけど。」
「え?」
今日は楽しい夜になりそうだ。どこか確信めいた俺の顔を、二人は不思議そうに見つめていた。