一章
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あいつを見る度に言い知れない苛立ちが込み上げてきた。へらへらと力なく笑う顔が無性に腹立たしかった。
仙蔵に言われたあと自室に籠もり自問してみたが、答えがどこにあるのかすらも分からない。しかしあいつの言う通り、確かに俺は初めから嘘をついていないことを知っていたように思う。
あいつを追い出してしまうことなど、いくらでもできたはずだった。しかしそれをしなかったのは何故だ。
皆目見当もつかない。
あいつが他の忍たまと話をしていると踏み潰してやりたくなるような衝動に駆られた。恐らく自分の見知った人物に危害を加えるのではないかと危惧したからだろう。
しかしあいつが自分から近づいて来ようとすると何か言い知れぬ恐怖が迫ってくるようで、いつも逃げ出したかった。
何故だ。あいつが力のない人間であると知っていたはずなのに。自身を脅かすような存在ではないことくらい気づいていたはずなのに。
いくら考えてみても分からない。
「今帰った。」
不意に障子が開くとそこにはずぶ濡れの仙蔵が立っていた。その目は冷ややかで、怒りすらも感じられる。
「どうだ、何かわかったか。」
黙る他なかった。答えに辿り着くどころか、疑問ばかりが増えている有様だ。
「まあそうだろうな。貴様一人では天地がひっくり返ってもわかるまい。」
妙な言い方だった。
こいつは何か知っているのか。俺自身でさえ解明できていないというのに。
「どういう意味だ。」
「やはりわからないか。敵に塩を送る趣味は私にはないのだがな。」
仙蔵の言いたいことが掴めず苛立ちが募っていく。
「お前、馬鹿にしているのか。」
「そう怒るな。文次郎、お前はみょうじさん本人が怖かったのではない。」
唐突に紡ぎ出された言葉は理解に苦しむものだった。
「何だと?」
「彼女が近づくことによって、自分の心が乱れることに恐怖を感じていたのだ。」
要領を得ない。何故あいつが近づくだけで俺が動揺せねばならないのだ。
「何を言っている。」
「まだわからないのか。まあ堅物の貴様なら仕方ないが。」
「いいから早く答えろ。」
仙蔵はやれやれとため息を吐いた。俺だけが取り残されているような感覚が余計に怒りを増幅させる。
「いいか、貴様は他の忍たまに彼女を近づかせたくなかったのではないのだ。彼女に他の忍たまが寄ってくるのが嫌だったのだ。」
「は、」
「さらに言えば、彼女が近づくことで貴様は嫌でも己の気持ちを顧みなくてはならなくなる。」
「待て。」
「普段三禁だなんだと喚いている貴様のことだ。もう半分わかってしまっている自分の気持ちを直視できなかったのだろう。」
「仙蔵!」
それはあまりにあり得ない推測で、待ち望んだ答えを言われる前に思わず言葉を遮った。
目の前の男が言おうとしていることを、俺は分かりたくなかった。
「貴様が自覚していないのならそれでいいと思っていたが、あの彼女を見てしまった以上そういうわけにはいかない。いい加減腹を括れ、もう逃げるな。」
その目は俺を捉えて離さない。次の言葉を聞けば何かが終わってしまう、そんな気がした。
「文次郎、貴様は彼女のことを―。」
耳を塞ぎたくなるような現実を受け入れることなどできなかった。