一章
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「私だって来たくて来たわけじゃない!!!」
胸が締め付けられるような悲しい叫びが耳に残って離れない。
彼女と一番仲が良いのは自分だと思っていた。彼女は自分には心を許してくれていると、そう思っていた。
なんて傲慢な思い上がりだろう。彼女のことなど何一つわかっていなかった。
「まずいな、どっちに行ったか分からない。」
ただでさえ辺りは真っ暗だというのに激しい雨のせいで視界は最悪だった。おまけに彼女はここに来てから一度も学園の外には出たことがない。向かう場所の検討すらつかない状況だ。
「彼女はひどく疲労しているようだった。しかも裸足だ、そう遠くへは行ってない。」
「ああ。とりあえず二手に分かれよう。」
「その必要はない。」
立花先輩が後ろから追いつく。
「私がこちらを探す。お前達は二人であちらを探してくれ。」
「はい。」
「……頼んだぞ。」
その目はあまりに真剣だった。
立花先輩と別れ、必死で彼女を探し回る。雨に打たれながら、昼間の食堂を思い出していた。
「少し元気がないように見えたので。」
三郎は気づいていたのか。何でもないと言って笑っている彼女を訝しげに見ていたお前は、それが本当の笑顔ではないと知っていたのか。
「……三郎、お前みょうじさんのこと分かってたのか。」
横を走る友人は小さく首を振った。
「俺はいつも寂しそうな顔で笑うと思っていただけだ。行動できていないなら、何も知ろうとしてなかったのと一緒だ。」
悔しさを滲ませる三郎に俺は何も言えなかった。
だって俺は彼女の笑顔が寂しそうだなんて感じたことはない。いつでも明るく、折れずにいられる人なんだとばかり思っていた。
知らない土地で、自分のことを知っている者も誰一人おらず、これまで得たもの全てが通用しない。それでも弱音を吐かず気丈に振る舞える強い人なのだと。
そんな人間、いるはずがないのに。
自分の能天気さにどうしようもなく腹が立つ。守っているような気になって結局何も見ちゃいなかった。
三郎は本当の彼女に気づいていたのだ。彼女の苦しみを読み取り、寄り添うことができるのだ。
それが羨ましくてたまらなかった。
「くそ、何で見つからないんだ。」
雷まで鳴ってきた。早く見つけてあげなければ彼女がどうなってしまうかわからない。
気持ちばかりが焦る。このまま失ってしまうのではないかという恐怖に、じわじわと追い詰められていくようだった。
「鉢屋、尾浜!」
「食満先輩。」
「仙蔵がみょうじさんを見つけた。裏山の方で倒れてたらしい。」
それを聞いた途端すぐに逆方向へと向きを変える。
「おい待て!すごい熱で今医務室の方に運ばれてる。お前らもその恰好じゃ会いに行けないだろうから先に風呂に入れ。」
「……風呂なんて、」
「自分のせいでお前らに風邪ひかせたって知ったらあの人も悲しむだろ。」
食満先輩の言っていることは最もで、俺達はそれに従うしかなかった。
学園へと急ぎながら、無性に腹が立って唇を噛む。
結局俺は助けられない。今だって、たった一人の彼女すら見つけることができない。彼女の気持ちを想像することもできずに、自分の感情ばかりを優先させてしまう。
こんなに情けなくて、守れるはずがないじゃないか。
「勘右衛門。」
前を走っていた三郎が、不意に後ろを振り返った。俺のことを見透かしたような目が、同じ気持ちであることを告げていた。
「俺達が今すべきなのは、今度こそ彼女が安心して帰れる場所を作ることだ。」
雨に濡れている学友は、見たことのない真剣な顔をしていた。それは決意の表れだった。
そうだ、もう二度とあんなこと言わせたくない。二度と泣いた姿など見たくない。
今度こそ本当の彼女を知りたい。
「ああ、そうだな。」
迷いは晴れていた。握りしめた拳に力がこもる。
「必ず守る。」
誰に言うわけでもなく心に誓った。