一章
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結局引き受けてしまった。私は昼から会計委員会に書類の再提出をお願いしに行かなければならない。
ただでさえ提出してもらったものを駄目にしてしまったという気が重くなる報告をしなければならないというのに、相手はあの潮江くんである。
顔には出さないようにしているが心の落ち込みは半端ではなかった。
私史上最大の危機ともいえる状況を少しでも好転させる為、おばちゃんのランチを食べに行こう。
「すみません、Aランチお願いします。」
「はいよ。」
腹が減っては戦に勝てぬ。とりあえずは腹ごしらえだ。
これから私が赴くのは戦場のようなものである。お腹いっぱい食べなければ勝てる気など到底しない。
「あ、みんな。ここで食べてもいいかな?」
「どうぞどうぞ。」
「喜んで!」
ちょうど五年生がいたので混ぜてもらうことにして勘ちゃんの横に座る。すると向かいの鉢屋くんがじっと顔を見つめてきた。
「何か、ついてる?」
「え?ああ……。」
何故だか見つめ合う形になりふいと顔を逸らされる。自己紹介をした時よりもいくらか話せるようにはなったが、未だに鉢屋くんとの距離は掴めないままだ。
「いえ、少し元気がないように見えたので。不躾にすみません。」
ギクリとした。
「え、そうなんですか?何かありました?」
驚いた様子の竹谷くんが心配してくれたが私情で迷惑をかけるわけにもいかず取り繕う。
「何もないよ。昨日本読んでて夜更かししちゃったからそのせいかな。」
「頑張ってらっしゃるんですね。」
「ちょっとだけね。結構仕事にも慣れてきたし、来週辺りから勉強会始められそうかも。」
それは楽しみです、と不破くんが笑う。
よかった、なんとか誤魔化せた。嘘をついてしまったことに罪悪感はあったが、話題がそれてくれたので一安心だ。
「え、それ俺も参加していい感じ?」
「まあ、中在家委員長がいいって言うならいいんじゃないかな。あんまり騒がなければ。」
「私は教えてくれる人が増えると嬉しいな。」
「はい俺参加決定。」
おどける勘ちゃんにくすくすと笑みが零れる。
「文字の勉強なら兵助がいいんじゃないのか。字上手いだろ。」
「そうなの?」
「別に普通ですが。」
「僕は三郎も上手だと思う。」
「ふふ、みんなの字見てみたい。」
確かに久々知くんも鉢屋くんも上手な字を書きそうだ。今度時間があったら見せてもらおう。
そろそろみんな食べ終わるようだ。楽しい時間はあっという間に過ぎる。昼休みが残り少なくなった今、私に残されたのは厳しい現実だけである。
食堂からみんなが出て行ったあと、鉢屋くんだけが足を止めて後ろの私に振り返った。
「何もないならいいんですが、無理だけは禁物ですよ。思い違いでしたらすみません。」
ありがとうと言う暇もなく彼はそのまま頭を下げてみんなの元に行ってしまった。さすが変装名人。やはり観察力が鋭いようだ、侮れない。
しかしみんなの前では言わない鉢屋くんの気遣いが、少しだけ心を軽くしてくれた。この問題が解決したら改めてお礼を言おう。