一章
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その日は朝から空が重かった。
忍術学園に来てから今日で二週間が経った。少しずつ仕事にも慣れて、話しかけてくれる人達も増えてきている。もうほとんど疑われムードは無くなっており、みんな温かく接してくれる。
一人を除いては。
「あら、また潮江くん食べに来てないわ。おにぎりこさえなくちゃ。」
そう、潮江くんは未だ私のいる食堂には来てくれていない。ここ数日は心配したおばちゃんがおにぎりとおかずを彼の部屋の前に置いておくようになっていた。
おばちゃんの負担を増やしたくなかった為勿論初めは私が料理を用意していたのだが、やはり一切口をつけてくれなかった。
ご飯を食べに来ないだけでなく、潮江くんは会う度に私に暴言を投げかけた。降ってくる言葉はどれも厳しく、的確に私の心を抉る。嫌いであるというならば接触を避けても良いものなのに、何故だか彼は放っておいてくれなかった。姿を見ると何か言わずにはいられないようで、私への憎悪が日に日に膨らんでいるように見える。
彼に会うことがこの上なく憂鬱になってしまっていた。積み重なっていく負の感情が、ぎりぎりと私の首を絞めているようだった。
私が学園に来てからというもの、潮江くんはずっと苛立っているらしい。怒った彼しか知らない為自分ではわからなかったが、下級生の子たちが怯えているのを聞いた。
私がこの場所に留まることで生まれている不穏な空気に、ずっと後ろめたさを感じている。こんなことでは学園長先生からの課題をクリアできそうにもない。
一体いつになったら彼に認めてもらえるのだろう。そんな途方もないことを最近はずっと考えている。
そのことばかりが頭を支配しているからか、半月も経ったというのに未だ寝不足は続いていた。兵太夫くんに目の下の隈を心配されてからというもの、誰かと会う用事がある時は必ずばれないように化粧をしている。しかし体力はほぼ限界だった。
食堂の仕事を片づけ事務室に向かうと、小松田くんがまたお茶を零していた。
まだ短い付き合いではあるが彼のおっちょこちょいぶりは凄まじく、おかげで私はかなり早く仕事を覚えることができた。
「ああ~!どうしよう!」
見ると書類まで濡れており、何が書かれてあったのかわからなくなっている。
「これはやっちゃったね……。怪我はない?」
「怪我はしてませんけどどうしましょう!」
「落ち着いて。これ何の書類だったの?」
「確かどこかの委員会から提出されたものだったような……。」
かなりあやふやな記憶だ。怪しいかもしれない。
「うーん、それじゃあどこの委員会だったか聞いて回ってみるから貸してもらえる?小松田くんは零したお茶の片づけお願いね。」
「はーい!……ん?待ってください、何だか思い出せそうな気がしてきましたあ。」
むむむと眉間に皺を寄せている。歩き回る手間が省けるのはありがたいが、信用してもいい情報かどうかはかなり微妙だ。
「あ、そうだ!会計委員会のものです!」
やってくれた、とはこのことだ。私は頭を抱える他なかった。