一章
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彼女の背中を見送りながら、先ほどの会話を思い出していた。
彼女の手に包帯が巻かれているのを見た瞬間、血が沸き立つようだった。
一体誰に傷をつけられたのか。私の知らないところで文次郎が何かしたのか。
黒い感情が臓に渦巻きおよそ経験したことがない焦燥に駆られた。
それが何者かの悪意から得たものではないとわかってからも心はずっと騒めいていた。自分の油断や指導不足から彼女を傷つけてしまったことに変わりはない。途端に後悔の念が押し寄せる。
極めつけは彼女から自分以外の名前が出たことだ。
「田村くんに助けてもらえた、」
医務室まで運んでもらったというその姿を想像するだけで苛立ちが増す。彼女が頼りにするのは私だけでいいと、随分勝手な思いが頭を支配していた。私は田村に嫉妬したのだ。
もとより自分は人にも物にも執着するような人間ではない。これは初めて芽生えた感情だ。しかしそれに戸惑うことはなく、むしろ腑に落ちることばかりだった。
私は彼女を好いている。あの夜からずっと。
だが今それはしまい込んでおかなくてはならない。唐突に自覚した気持ちが彼女の足枷になることは目に見えている。
ただでさえ不安な状況であるのに、それを増幅させることなど到底できなかった。
またいつでも機会は訪れる、彼女の側にいさえすれば。あの笑顔を守れるというならば私はいくらだって待てる。
「……長期戦になりそうだな。」
とりあえずは喜八郎を探すべく四年長屋へと向かった。