一章
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何か言葉を交わすわけでもなく黙って横抱きになっている。どうしよう、これものすごく恥ずかしい。重いだろうし田村くんにも非常に申し訳ない。
不破くん達にもこうやって運ばれたのだろうが、意識があるのとないのとでは話が全然違う。通りすがりの忍たまの子達も好奇な目で見ている。羞恥心で死にそうだ。
「失礼します。」
ようやく医務室に到着した。もう泣きそうである。
「おや三木ヱ門、どうしたんだい?」
「こちらの方が喜八郎の落とし穴に落ちてしまったようでして。」
「それで運んできてくれたのかい?どうもありがとう。」
「いえ、では私はこれで。」
やっとおろしてもらえたことに安堵していると彼が足早に帰ろうとするので思わず袖を掴んでしまった。
「え。」
「あ、ごめんなさい!……あの、本当にありがとうございました。」
「いえ、当然のことをしただけなのでお気になさらず。それでは。」
ふわりと笑って行ってしまった。勘ちゃんといい立花くんといいこの時代の子はみんなこんなにスマートなのだろうか。
「みょうじさん、足を見せてください。」
名前を呼ばれてはっと意識が引き戻される。
「ああ、いえ。足は全然怪我してないんです。田村くんが念の為と言って運んでくれただけで。」
「それでは念の為、診ておきましょう。そこに座ってください。」
「う、」
彼もまた反論できない雰囲気だ。
「僕は保健委員会委員長の善法寺伊作です。こっちは二年い組の川西左近です。校医の新野先生には及びませんが僕達もそれなりに医療の知識はありますので安心してください。」
「はい……。」
彼の言う通りに座り、大人しく診察を受けることにした。
「確かに捻挫はしていませんね。でも擦り傷が多いようなので消毒しておきましょう。」
「ありがたいです。」
「左近、薬草を取ってくれるかい?」
「はい。右の棚にあるやつですよね?」
「そうそう。」
川西くんは手際よく薬草と包帯を持ってきてくれた。まだ幼く見えるけれど私より断然慣れた手つきだ。
「ありがとう。……落とし穴に落ちるのは普段は僕らの仕事なんですけどね。」
「え?」
どういう意味だろう。保健委員会が落とし穴を埋めて回っているとか?
「僕達保健委員は不運委員会と言われるほど不運な人材が揃ってるんです。」
「不運委員会、ですか。」
「ええ。喜八郎の落とし穴にはまるのは決まって僕らで、もうお約束のようなものでして。」
本人達は気にする様子もなく笑っているが大丈夫なのだろうか。保健委員が全員不運なのだとしたらそれはもうすごい確率なのでは。
「はい、これでもう大丈夫です。お風呂は少ししみるかもしれません。」
「ありがとうございます。すごく綺麗。」
手首に巻かれた包帯は少しもずれることなく、さらにきつすぎるということもない。
「慣れてますから。何かあればまたいらっしゃってください。喜八郎には後で僕からもきつく言っておきます。」
「いいえそんな。」
「また怪我したら大変ですからね。」
「……はい、本当にありがとうございました。川西くんも、ありがとうございました。」
「え。」
自分にお礼が来ると思っていなかったのか、彼は驚いて包帯を落としてしまった。慌てる様子は年相応で非常に可愛い。
医務室を出た後、再び手首を眺める。田村くんを含め、三人が優しくしてくれたのは私が怪我人だったからだろうか。
そうなのかもしれない。しかしそうであったとしても、彼らが確かに施してくれたものを忘れたくないと強く思った。