一章
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門の掃除は一通り終わった。さすがの私でも掃除くらいは難なくこなせる。さて、次は校庭だ。これが終わったらランチに行けるかな。
私が食堂を任されているのは朝と晩だけだ。昼間は事務員の仕事があるからという学園側からの配慮で外してもらっている。ありがたい心遣いだ。
あまりに広大な校庭だが地道に掃除を進めていく。無心で掃いていると何だか心が落ちついた。
「ふう、あとちょっと。」
校庭は順調に綺麗になっていき、あと一区画掃いてしまえば終了だ。いい感じにお腹も空いてきている。
お昼ご飯のことを考え自然と鼻歌が漏れたその時。
「えっ?」
世界が反転した。
「痛ったあ……。」
背中にかなりの衝撃が走った。何が起きたのかさっぱりわからなかったがとりあえず腕が痛い。どうやら擦りむいてしまったらしい。
「……何これ。」
周りは土だらけである。上を向くと白い雲が流れており、どうやらどこかの穴に落ちたらしいということをようやく理解した。
これはもしや落とし穴だろうか。随分深い気がするが。幸いにも捻挫などはしていないようだ。ただあちこちすりむいている。
もしかして小松田さんが言っていた気をつけて、とはこれのことだったのか。もう少し詳しく教えてほしかった。
何とか自力で上がろうとするが上手くいかない。土壁は掴んでも崩れるばかりだ。自分の体を支えるには穴が深すぎるのだろう。先程もらったばかりの制服がどんどん汚れていっている。
これはもうどうすることもできないぞ。恥ずかしいなどと言っている場合ではない。とにかく助けを呼ばなくては一生ここで過ごすことになる。
「すみませーん!誰かいませんか?」
返事はない、当たり前だ。今は授業中なのである。ほとほと困り果ててしまった。
その後も一縷の望みをかけて何度か声を上げたが一向に誰かが通る様子はない。仕方がないので昼休みを待つことにして穴の中で座り込んでしまっている。
土壁にもたれかかってぼんやりと空を見上げる。昨日までの晴天とは異なり、今日は雲が多かった。このまま雨が降ったら目も当てられないな、などと思っていたが、この空間はどうにも落ち着く。
そういえばこちらに来てからこんなにのんびりとしたのは初めてだ。次から次へと目まぐるしく物事は進み、夜は思考と不安に押しつぶされて眠れない。知らない人ばかりの場所で常に顔色を窺っている。
怪我をしている上に助けが来ないという危機的状況だったが、何も考えずにぼーっとしていられるというのは私にとって思いがけずありがたい時間だった。
なんだか瞼が重たくなってきた。このままでは寝てしまいそうだ。
平和な空間から出るのは惜しいがこれはいけない。必死で欠伸を呑み込みながら遠くで鐘の音を聞いた気がした。