一章
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「これ片づけたら朝はもう終わりだね。」
おばちゃんはやれやれと肩を回している。
「すみません、迷惑かけてばかりで。」
「なに言ってるの!むしろ助かることばかりだったわ。ありがとうね。」
その言葉はもちろんありがたいものだったが、やはり私の動きは遅すぎる。とにかくもっと体力をつけなければこの時代を生きることなど到底できない気がした。
「そういえば、もうこんな時間なのね。小松田くんが貴方のこと迎えに来るって言ってたけど、どうしたのかしら。」
「迎えですか?」
どうやらこのあと事務員としての説明の為に、先輩の事務員の方が食堂まで来てくれる手筈になっていたらしい。
しかし洗い物を終えてしばらく待ってみてもその人は来ない。どうしたのだろう。
「あの、私事務室に行ってみます。何か手違いがあったのかもしれないし。」
「そうかい?じゃあ夜もよろしく頼むよ。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
おばちゃんに場所を聞いて事務室へと向かう。それにしても何かあったのだろうか。もしかしたら仕事が多すぎて私にまで手が回らないのかもしれない。迷惑をかけないように、私も早く仕事を覚えなければ。
「失礼します。」
教えられた部屋の前で声をかけると短くどうぞ、と返ってきた。
「貴方でしたか。随分遅かったですね。おや、小松田くんは?」
障子を開けると騙し絵のような顔をした男性が座っていた。
「申し訳ありません。迎えの方が来られると聞いて待っていたのですがいらっしゃらなくて。勝手に来てしまいました。」
謝罪を述べるとあからさまにため息を吐かれる。どうしよう、先行き不安だ。
「ああ、貴方へのため息じゃありませんよ。全く小松田くんは……あとでよく言っておかないと。」
どうやら小松田くんと呼ばれている人が迎えに来てくれるはずの人だったようだ。
「こちらの不手際で不安にさせてしまい申し訳ありませんでした。私は道具管理主任の吉野作造です。事務員の仕事についてご説明させて頂きます。」
顔も騙し絵のようだが名前も嘘みたいだ。思わず吹き出しそうになるのをぐっと堪える。
説明はつつがなく終わった。掃除、書類整理、入出門票の管理、来客者の対応などが主な仕事らしい。
「早速ですが門の掃除をお願いしてもいいでしょうか。恐らくそこにいるでしょうから小松田くんのこともついでに呼んできてください。」
「わかりました。」
「着物のままでは汚れるかもしれませんので、こちらに着替えてからにしてください。これがあなたの制服になります。」
「わ、ありがとうございます。」
手渡されたのは彼らと同様の忍び装束だ。実はちょっと着てみたかったのである。
言われた通りに着替え、ほうきとちりとりを持って学園の入口へと向かった。
門の前には誰かはわからないが男の子がいた。あれが「小松田くん」だろうか。
「あの、小松田さんですか?」
「ほえ?」
可愛らしい顔立ちの彼は不思議そうに目を丸くさせている。
「僕は確かに小松田ですけど、貴方はどなたですかあ?」
「私はみょうじなまえです。新しく事務員をやらせてもらうことになりました。」
「新しい事務員さん。」
「はい。」
「未来から来たと噂の?」
「そうです。」
少し間を置いたあと彼は急に顔を青くさせた。
「ああ~!忘れてたあ!」
忘れていたのか。そして今思い出したのか。
「ごめんなさい……。また吉野先生に怒られちゃうなあ。」
どうやら日常茶飯事らしい。先程大きなため息をついていた先生の姿が思い出された。
「いえ、私は大丈夫です。そういえば、吉野先生が小松田さんをお呼びでしたよ。」
「ええ、本当ですか。急いで行かなきゃ。」
「是非そうしてください。」
「僕、校庭の方の掃除もしなきゃいけないんですけどとりあえず頼んじゃってもいいでしょうか?」
「あ、大丈夫です。私がやっておきます。」
「ありがとうございます~!それじゃあお気をつけて!」
そのまま持っていたほうきを放り出して走って行ってしまった。このほうきは私が片付けておいた方が……良いよね多分。どうやら小松田さんはおっちょこちょいな性格らしい。
あれ、そういえば最後に気をつけてって言ってたけど何をだろう。