一章
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そのあと食堂は大盛況で、目が回るような忙しさだった。やっと一息ついたところでおばちゃんが朝ご飯を勧めてくれた。
「疲れたでしょう、初日なのにありがとうね。こっちはもう大丈夫だからあの子達と食べておいで。」
「ありがとうございます。そうさせて頂きます。」
お礼を言って自分用のお盆を運ぶ。おばちゃんの言ったあの子達、というのはピークが過ぎてからやってきた小さな男の子四人のことだった。
「初めまして、一緒に食べてもいいですか。」
男の子たちは目を丸くしている。一瞬あわあわしたあと何やら話し込み、最終的に申し出を受け入れてくれた。
「初めまして。僕、一年ろ組の鶴町伏木蔵です。」
「同じく初島孫次郎です。」
「二ノ坪怪士丸です。」
「ぼ、僕、下坂部平太です……。」
「みょうじなまえです。よろしくお願いします。」
一人がひどく怯えていた為なるべく怖がらせないようにっこりと微笑む。すると泣きそうだった顔が少しだけ柔らかいものになった。
「ほら、お化けなんかじゃなかったじゃない。」
「そうだよ、ご飯も食べてるし。」
「い、言わないでよ。」
「お化け?」
何のことだかわからない話題に疑問の声を上げると下坂部くんが何やら慌て始める。
「平太が言ってたんです。新しい事務員さんはお姫様のお化けなんじゃないかって。」
「やめてよ、伏木蔵。怒られちゃうよ。」
下坂部くんはまた泣きそうになっている。
なるほど、お化けか。確かに死んだはずのお姫様そっくりの私が現れたらそう思われてしまうかもしれない。とはいえ、私は死んだ覚えもないし食事も労働もする。本当のお化けならそうはいかないだろう。誤解が解けて良かった。
「ふふ、怒らないですよ。見ての通り人間です。」
ほら、と手のひらを出してみると下坂部くんは恐る恐る私の手に触れた。
「本当だ……。ちゃんと触れる。」
通り抜けることなく合わさった手に安堵した様子で、今日初めての笑顔を覗かせてくれる。やっぱり笑った方が可愛い。
「あ、平太ずるい。僕も事務員さんと仲良くしたい!」
「僕も。」
抗議の声を上げる鶴町くんと初島くん。二ノ坪くんだけが静かにそれを眺めていた。
「あはは、じゃあ今度みんなでお散歩でも行きましょうか。学園内もまだ回り切れてないですから。」
「本当ですか?」
「お散歩したいです。」
どうやら喜んでくれたようだ。良かった。
それにしても小さい子達の素直な反応というのは心を穏やかにしてくれる。勘ちゃんの気遣いとも相まって、沈んでいた気持ちが少しずつ浮上しているような気がした。
「事務員さんのこと、お名前で呼んでもいいですか?」
「もちろん構いませんよ。」
「じゃあ、僕達のことも名前で呼んでもらっていいですか?」
「それは、いいんでしょうか。」
「是非お願いします!何だかお姉さんができたみたいでワクワクしちゃいます。」
お姉さん。何とも嬉しい響きだ。私の弟にもこんな可愛い時代があったな。いや今は今で可愛いのだけれど。
つい顔を綻ばせているとおばちゃんが厨房から顔を出した。
「ほらほらあんたたち、授業はいいのかい?」
「あ、大変!」
「遅れちゃう。」
どうやら結構時間が経っていたらしい。四人は急いでご飯を平らげた。慌てた様子だったにもかかわらずちゃんとご馳走様は言ってくれた。本当に可愛い子達である。
「今度絶対お散歩しましょうね。」
「うん、楽しみにしてる。」
念を押したあと彼らは食堂から出て行った。お姉さん、と言われたのが嬉しくていつの間にか敬語は消えてしまっていた。