一章
設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ようやく味噌汁が完成した。おばちゃんの方はほとんど料理を作り終えているようだ。慣れていないとはいえ手伝うどころか足手まといになってしまっている。先程の「文次郎くん」の言葉を思い出し胸が痛んだ。
「それじゃあ盛りつけお願いね。そろそろみんな来る頃だと思うから。」
「はい、わかりました。」
まだ会ったことのない人達も来るのかと思うと体が強張ってきた。盛りつけに集中しなければならないのに緊張は増していくばかりだ。どんな反応をされるのか怖くて、食堂の入り口を見ることができなかった。
「おばちゃん、おはようございます。」
「あらおはよう。なまえちゃん、ご飯とお味噌汁注いでくれる?」
「はい。」
「あれ、今日はおばちゃんだけじゃないんですか?」
ドキリと心臓が音を立てる。平静を装ってご飯をよそうが、今来た青い忍装束の男の子たちが不満そうな顔をしているのが見えてしまった。途端に手が冷たくなってくる。
「おばちゃんによそってもらうことってできないんですか。」
それは、はっきりとした拒絶の言葉だった。
やはり素性の知れない人物が口に入るものを扱っているというのは抵抗があるようだ。
「誰がやっても同じだよ。ほら早く持っていきな。」
「……はい。」
彼らの持っていたお盆におずおずとお椀を載せると、何も言わずにその場から去って行ってしまった。ただその目だけは疑念を孕んでおり、遠くの席から観察されているのがわかった。
その反応を見たからだろうか、次に並んでいた彼らより少し小さい男の子四人も顔を強張らせながらお盆を持って行った。
その子達は席に着いてからもなかなか口をつけようとしない。毒でも盛られているのではないかと疑っているのだろう。頭では理解していた反応だが目の当たりにするとかなりショックである。
「あれ、みょうじさんだ。」
予想以上の拒否反応に打ちひしがれていると聞き覚えのある明るい声が響いた。
「尾浜くん。」
「もう、昨日は勘ちゃんって呼んでくれたじゃないですか。」
「あ、そっか。ごめんね勘ちゃん。」
友達のように接してくれる彼の温かさにほっとする。
「それでよし!食堂でも働いてるんですか?」
「そう、今日からなの。」
「割烹着姿すごく似合ってますよ、お嫁さんみたい。」
「本当?ふふ、照れちゃうね。」
どうやら勘ちゃんは口がうまいようだ。恥ずかしいのを誤魔化して笑うと彼の顔もつられて赤くなった。
「も、もうすぐ兵助も来ると思うんで。先に味噌汁注いでもらってもいいですか?」
「もちろん。頑張って作ったから、食べてもらえると嬉しい。」
「え、なまえさんが作ったんですか?」
勘ちゃんの声が耳に届いたのか、先にご飯を食べていた子達の箸がピタリと止まった。
どうしよう、まずいことを言ってしまった。私が料理を作ったとまでは聞かされていなかった子達が明らかに動揺を見せている。食堂にざわめきと不穏な空気が訪れた。
「すっごい楽しみ!たくさん注いじゃってください。」
勘ちゃんはそんな空気をまるで気にしていないかのような笑顔である。ありがたいけれど、周りを思うと今はどうにも気まずい。
「了解。こんなにたくさん作ったの初めてだから上手にできてるか不安なんだけど。」
「絶対美味しいですよ。ありがとうございます。」
彼の要望通りにたくさん注いで渡すと、満足気に目を細めて空いた席へと向かって行った。
「あ、みょうじさん。おはようございます。」
「久々知くん。おはよう。」
「今日のメニュー、豆腐はありますか。」
「お豆腐?お味噌汁に入ってるけど、好きなの?」
「はい、大好物です。」
どうやら自他共に認める豆腐好きで、食べるだけではなく作ることもできるらしい。すごい。
「兵助ー。俺もう先に食べてるよ。」
「ああ、すぐ行く。」
勢いよく食べ進めている勘ちゃんに呼ばれ、久々知くんも席に着く。周りの子達はその様子をじっと窺っているようだった。
五年生の先輩が迷いなく口に入れているのを見て安心したのか、先程までほとんど箸が進んでいなかった子達も少しずつ食べ始める。
とりあえず良かった。ほっと胸を撫でおろす。美味しいです!とこちらに親指を立ててくれる勘ちゃんが神様のように見えた。
もしかして、わざとみんなに聞こえる声で言ってくれたのだろうか。私の料理に毒など入っていないと伝えるために。なんて素敵な人なんだろう。