一章
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委員会の仕事を片づけていく、と言う二人と別れて私は食堂に向かっていた。辺りはもう随分暗くなっている。
朝御飯は食べたけど、お昼はまた食べ損ねちゃったな。空腹がピークである。
食堂の場所は中在家くんに教えてもらったけど、私が入ってもいいものなのだろうか。追い返されたりしたらどうしよう。
まだ陽が落ちて間もないみたいだし、人が少ないことを願うしかない。嫌がられたら部屋に戻ろう。
「失礼します。」
様子を伺いながらそろりと食堂に入ったが、幸いまだ人はいなかった。
「あら!あなた明日から手伝ってくれる子じゃない?」
「あ、はい。みょうじなまえです。お役に立てるよう努力致します。」
深々と頭を下げるとその人はにっこりと微笑んだ。
「堅苦しくしなくていいのよ。人手が増えるならいつでも大歓迎。わからないことは何でも聞いてちょうだいね。」
「はい!ありがとうございます。」
「さあさ、晩御飯はどっちにする?」
どうやら食堂では定食が二種類置かれており、どちらかを選べる仕組みになっているようだ。今日はサバの味噌煮定食と生姜焼き定食。ううむ、悩ましい。
「生姜焼き定食をお願いします。」
「はいよ。お残しは許しまへんで!」
お馴染みの台詞と共に豪快にお味噌汁を注いでくれる。今日の具材は豆腐とワカメだ。付け合わせはフキとこんにゃくの煮物。実はフキが食べたくて生姜焼き定食にしたのだった。
「いただきます。」
お味噌汁に口をつけようとした時、廊下から足音が聞こえた。
「あら、委員会終わったのかい?」
「やっと終わりました。すっごく疲れたんだなあ。」
「おばちゃん、私サバの味噌煮お願いします。」
「僕は生姜焼き定食がいいです。」
疲れた様子で食堂にやってきたのはパペットのような口をした男の子と、気だるげな表情の男の子。
「あれ、事務員さんだ。」
気だるげな方の子が私に気づいて声をかけてくれる。
「三年ろ組の次屋三之助です。一緒に食べてもいいですか?」
「もちろんです!あ、みょうじなまえです。よろしくお願いします。」
お箸を置いて慌てて頭を下げるとおかしそうに笑われた。
「真面目なんですね。」
「そうでしょうか。」
「あ、あの。」
パペットのような口の子がおずおずと隣に食事を運んでくる。
「僕も一緒に食べて良いですか……?」
「勿論良いですよ。」
少し緊張しているようだったが、了承すると顔を輝かせた。
「僕、二年は組の時友四郎兵衛です。事務員さんは、本当に未来から来たんですか?」
おっと。突然の核心を突いた質問に少し言葉が詰まる。前に座っている次屋くんもじっとこちらを伺っておりどうやら興味があるようだ。
「ええと、食べながら話しましょうか。とりあえず、いただきます。」
「「いただきます。」」
三人で手を合わせる。
「質問の答えですけど、本当です。五百年くらい未来から来ました。」
「お姫様とは別人なんですか?」
「別人ですよ。会ったことも見たこともありません。」
「そうなんだ……。」
これはもしかしてがっかりさせてしまったのかな。時友くんの表情は真剣そのもので、何やら少し微笑ましかった。
「みょうじさんって恋人とかいます?」
「恋人?」
全く脈絡のない質問にお米を吹き出しそうになってしまった。大惨事になる前に飲み込んだ自分はえらい。
「恋人は、いませんね。」
「好きな人とかはいるってことですか?」
いやぐいぐい来るな。何か試されているのか。真意がわからず次屋くんの顔を覗くが、単に思ったことを口に出しただけのような気がした。
「いや、そういう人も最近できてないなあ。でもどうしてですか?」
「可愛いから。いそうだなって思っただけです。」
「んぐっ。」
びっくりした。褒め言葉が豪速球で放たれて危うく暴投になるところだ。次屋くんは三年生だと言っていたから恐らく十二歳。末恐ろしい。
「次屋くんモテるんでしょうね……。」
「?」
本人には言葉の意図がわからなかったようで首を傾げていた。無自覚にモテる子なんだろうな。
食事を終える頃には、二人とはすっかり打ち解けていた。そしてまたも敬語を訂正されてしまった。ここの生徒はみんな礼儀正しい。現代でも見習うべき振る舞いだ。
「そろそろ部屋に戻ろうかな。」
「あ、それなら部屋まで送っていきますよ。」
「ふふ、さすがに大丈夫だよ。」
「何があるかわかりませんから。」
「ぼ、僕が心配なので次屋先輩はこのまま一緒に長屋へ帰りましょう。」
「えー。」
聞くと次屋くんは無自覚な方向音痴なのだという。本人は否定していたが食堂から出てすぐに長屋と反対方向へ駆けだしたので本当のことらしい。時友くんが慌てて追いかけて行った。