一章
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雷蔵達を見送ったあとの勘右衛門はしつこかった。
「三郎全然話してなかったけどもしかして緊張してた?」
「してない。」
「見とれちゃった?」
「見とれてない。」
「みょうじさん可愛かったもんね~、言葉を失う気持ちも分かる。」
「うるさい、別に普通だっただろ!」
俺が怒るとさらに目を細めて喜んでいる。殴っていいか。
「いや全然普通ではなかったぞ。」
「ああ。口がきけなくなったのかと思った。」
勘右衛門だけじゃなく八左ヱ門と兵助にまで言われてしまう始末だ。一体何なんだ。
正直、どうして言葉に詰まってしまったのかは自分でもよくわからなかった。城から運んでいる時は確かに何も感じていなかったのだ。正体を見極めることに集中していて、顔もよく見ていなかったくらいだ。
しかし学園長室での肝の据わった対応と昨日の立花先輩との会話を聞いて、どうにも彼女の存在が頭から離れなくなった。多くの敵意に立ち向かっていた勇敢な姿とはあまりにかけ離れた弱々しく震える声に、虚勢を張っていたのだとすぐに理解できた。
あの時、彼女の本当の笑顔が見てみたいと思ったことだけは覚えている。それからはずっと、不安げに笑う彼女の顔が脳裏に焼きついていた。
目の前に突然現れたその人は思っていた以上に小さく、ひどく儚く見えた。真っ直ぐ見つめてくる瞳は吸い込まれそうなほど澄んでいて、視線が合った途端思考が保てなくなった。急に息が止まったようで、体は信じられないほど熱かった。
俺はそれが何を意味しているのか、まだわかっていなかった。
「三郎は、あの人のこと好きになっちゃったんじゃないの?」
「会ったばかりの人間に好きも嫌いもないだろ。」
そうだ。彼女のことは何も知らない。特別な感情を抱くこと自体が不自然だ。
「じゃあさ、俺がもらっちゃっていい?」
「……は、何。」
一瞬驚いたが勘右衛門のにやついた顔を見てすぐに思い直す。
「お前、からかってるだろ。」
「あは、ばれた?」
悪い悪いと舌を出す勘右衛門を殴ろうとしたが、見事に躱された。こういう時に逃げるのだけは速い。
「まあ今のは半分冗談だよ。」
えらく含みのある言い方だ。
「人のことおちょくるのも大概にしろ。」
「確かにおちょくってることに変わりはないけどさ。でも、」
一呼吸おいて勘右衛門が向き直る。
「半分は本気だから。俺の気持ちちゃんと知っててね、三郎。」
先程までとは比べ物にならない挑発的なその目に、何故だか心がざわついた。