一章
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「なあ、お前らあの人のこと運んだんだよな。」
予想はしていたが案の定五年い組が聞きこみに来た。
「運んだが、あれはくノ一の体つきじゃなかったぞ。」
「あら鉢屋くんやらしい。」
「お前な……。そんなこと言いに来たのか。」
「冗談冗談、怒るなよ。」
ケラケラと笑う勘右衛門に殺意を覚える。
「いや兵助がさ、間者の可能性も捨てきれないって言うもんだから一応確認しておこうと思って。」
「可能性があると言っただけだ。全部を疑ってるわけじゃないよ。」
兵助はかなり用心深いところがある。自分の出会ったことのない事象に対して慎重になるのも頷ける。
「昨日の立花先輩の一件も見ただろ。あの人全然気配に気づいてなかったぞ。」
「まあそれはそうだよな。でも俺、姫の可能性は消えてないと思うんだよ。」
「僕もそう思う。筋肉が全然ついていなかったのも気配に気づかなかったのも、姫だったら説明がつかないかい?」
八左ヱ門の意見に雷蔵も乗っかる。結構頑固なところがあるが、それも雷蔵の長所だ。
「それはないんじゃない?あの人すごいちゃんと質問に答えてたし自分のこと明らかに認識してたじゃん。記憶失くした人はあんな受け答えしっかりしてないと思うけど。」
それは思った。目線も泳いでないし動きが大きくなったりもしていない。記憶を失くしたり嘘をついてその場で話を作っている様子がまるで感じられなかった。
「何か事情があるとかじゃねえの?身分隠さなきゃいけないとかさ。」
「他の一族はみんな灰になったってのに何の事情があるんだよ。身分なんか隠さず姫として保護された方がよっぽど待遇良いだろ。」
「それはそうだけどさ……。」
俺達の言い合いを黙って聞いていた兵助が、ゆっくり口を開いた。
「俺もあの人を信じることにするよ。」
「急に!?」
つい先程までと真逆の意見に八左ヱ門が思わず素っ頓狂な声を上げた。
「いや急じゃない。みんなの意見を客観的に見たら嘘をついていないという結論になっただけだ。」
「そ、そっか。まあ、俺もあの人に害があるようには見えないけど……。」
黙って俺たちの会話を聞いている間、兵助は自分の考えを整理していたようだ。一見唐突な心変わりに見えるが、それは理論に基づいて深く思案した結果らしかった。
「俺たちは忍たまだ。疑うことを体に叩き込まれている。だから普通に考えてありえない事象は簡単に信じることができないし怪しい者はとことん疑う。それは俺たち忍者にとって正しいことに変わりはないと思う。」
いつになく雄弁な学友の姿にその場の全員が少し戸惑っている。そんな俺達をよそに兵助は途切れることなく言葉を続けた。
「だが、先入観を持ってはいけないということも同時に教え込まれているはずだ。先入観があれば判断力は鈍る。俺は異世界の人間に会ったことがなかったからそんなことはあるはずないと思ってしまった。あるはずがないから彼女は嘘をついていると考えたんだ。でも、それは思い込みだ。自分が体験したことだけがこの世に起こり得ることではないと思う。」
理路整然と語られる言葉に、勘右衛門は楽し気に同意した。
「俺もそう思う。俺たちの価値観に当てはめて考えてみたところで、その範囲外のことが起こってるなら見定めようがないしさ。今重要なのってあの人が嘘ついてるかついてないかだけなんじゃない?」
「確かに……。」
「そうかも。」
八左ヱ門と雷蔵も深く頷く。
「二人はあの人が嘘ついてるように見える?」
勘右衛門の問いかけに、珍しく雷蔵も迷わなかった。
「見えない。あの人、気を失う前に僕にお礼を言ってくれたんだ。意識が飛びそうなくらい体調が悪いのに。絶対に悪い人じゃないと思う。」
「俺もそう思う。学園長への対応もすごい誠実だったし。」
これで決まりだ。意味ありげな目線と共に顔を見合わせた俺達は誰からともなくにやりと笑った。
「あの人が嘘をついていないってことは?」
「未来から来た可愛い事務員さんと学園生活が送れる、ってことだな。」
華やかさを帯びた現実に胸が躍った。