一章
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「姫様!こちらももう駄目です!」
「火の回りがあまりに早い……!」
熱気と煙が城中に立ち込めている。火の手がそこまで迫ってきており、意識も朦朧としてきた。
もう逃げることは叶いそうにない。
せめて生まれ育った自分の部屋で大好きな書物と共に一生を終えたい。従者の呼ぶ声も聞かず踵を返し自室へと戻った。
机の上には日記が置かれている。
私のこれまでを綴った日記。毎日ささやかながら紡いできた私の軌跡だ。
先人たちのように誰もが夢中になれる物語を描くこともできなければ国を揺るがすほどの栄華ある身の上を持ち合わせているわけでもない。誰の目にも触れること無く私の物語は幕を閉じるのだ。
ああ、私は誰の記憶にも残らない。
何の役にもたたない女が戦乱の世を生きた証を、どんな形でも遺したかった。何者にもなれずひっそりと生きた小さな城の姫を、誰でもいいから覚えていてほしかった。
けれどもう願いは叶わない。
回らない頭を奮い起こし、息も絶え絶えに震えながら筆をとった。
どうか、どうか私を忘れないで。誰でもいい、私を見つけて覚えていて。
天井の崩れる音がする。最後に見たのは部屋一面の赤であった。