一章
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潮江文次郎は苛立っていた。
「私の学友にもあなたをよく思っていない者はいます。」
あれは自分に宛てた言葉だろう。なぜ同室の男はあのようなことを言ったのか。
あの女は明らかに怪しい。いきなり現れて異世界などと訳のわからないことを言う。加えて姫と瓜二つときた。不可解極まりない。学園に危害を加えるのではと疑うのは当然のことだ。
それなのに六年生の中でも優秀だと謳われている男が何故あの女を信じる。全くもって理解に苦しむ。
「仙蔵、あれはなんの真似だ。」
先に自室に戻っていた級友は寝着に着替え、すでに布団を敷いていた。
「なんだ文次郎帰ったのか。今日はもう戻らないと思っていたが。」
「質問に答えろ。先程のあれはどういうことだ、何故あの女の言うことを簡単に信じる!大体、女との接触は明日まで禁止されているはずだ!」
仙蔵は溜め息を零し肩を竦めた。
「静かにしろ、夜中だぞ。お叱りなら後で受けるさ。私は私が信じるに値すると確信したから彼女を信じることに決めた。それだけだ。」
いつも通り淡々と話す目の前の男に思わず声を荒らげる。
「異世界などという馬鹿げた話を俺達が信じるというのか!あいつに手を貸すなど学園への裏切りだ。あいつは怪しすぎる、どこぞの間者ともわからんのだぞ!」
仙蔵は真っ直ぐに俺を見据え、悪びれる様子もなく涼しげに答えた。
「忍びにとって思い込みは命取りだ。私は見たものしか信じぬ。彼女が学園を脅かす存在だと貴様が思うのならそれを信じていれば良い。私に合わせる必要はないだろう。」
返す言葉が見つからず押し黙る。言ってやりたいことは山ほどあるはずなのに何故か次の言葉が出てこない。
まるでこうなることが分かっていたかのように言いくるめられた。全てを見透かすようなこの男の瞳が、俺は昔から苦手だった。
「もう遅い、私は寝るぞ。言いたいことがあるなら明日にしてくれ。」
「……くそ!」
言葉に違わずさっさと布団に入ってしまった級友に背を向け、夜の山へと走り出した。無性に腹が立つ。何故こんなに腹立たしいのか。
本当はわかっていた。あれだけ天井裏に見張りがいる中仙蔵が行動を起こした理由。
それは学園内から向けられる彼女への警戒心を少しでも和らげる為だ。先程のやり取りを見て好意的な思いに変わった者は少なからずいる。かくいう自分の心も揺らいでしまった。これこそが苛立ちの原因である。
忍びは冷酷でなければならない。決して情に流されてはならない。あの女の言っていることを信じることなど到底できない。この世に起こり得ることのない話を、忍びを目指している自分が認められるはずがない。
あの女の震える声に心を揺さぶられた自分を、許すことなど。
女の顔がちらつく度に走る足に力がこもった。