二章
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ドクたまのみんなから話を聞いて一通り状況は把握した。きり丸くん達が彼らに私を紹介しその情報が八方斎に盗み聞きされていた、というのが事の真相らしい。それにいち早く気づいた彼らはドクタケ忍者隊の不穏な動きを察知し囚われの身となった私を助けに来てくれたのだ。
「本当にごめんなさい!」
「私達の所為で……。」
私を導くように雨の中を走ってくれているドクたまの子達は今にも泣き出してしまいそうだった。きっと自分達の会話によってこうなったのだと責任を感じてくれているのだろう。大人の私欲のためにこの子達がこんな顔をしなければならないなんて。やるせなさに唇を噛みそうになったが何とか堪え明るい笑顔を作って見せる。
「ううん、みんなは何も悪くないよ。助けに来てくれてありがとう。」
「っでも、」
「それより私を逃がしてみんな大丈夫?こんな夜中に外出してるのもばれたらまずいだろうし……。」
食い下がろうとする彼らを遮り先に不安な点を尋ねさせてもらう。きり丸くんと同じ年齢のこの子達を万が一にも危険に晒す訳にはいかない。眠たいだろうにこんな時間まで起きて会ったこともない人間を助けようと機会を窺ってくれて。これ程までに優しい彼らが理不尽な罰を受けるかもしれないなんて到底私には耐えられなかった。
「それは平気です!」
「これくらいの時間になると見張りの人もみんな寝ちゃうの。」
「そうそう、叩いても反応なかったから多分朝まで起きません。」
「そ、そっか……。」
明るく教えてもらったがそれでは見張りの意味がまるでない。警備体制はどうなってるんだと他人事ながら心配になってしまう。どうかこの子達が将来優秀な忍者になれますようにと勝手な祈りを重い空に捧げた。
「あった!こっちです!」
ぬかるんだ道をしばらく駆けると小高い丘の麓に洞窟を見つけた。どうやらここがドクタケ城と忍術学園近くの裏山を結ぶ近道らしい。夜ということもあり中は真っ暗闇で一寸先もわからない。獣や山賊が潜んでいたらと思うとただでさえ冷え切っている足が竦んできた。しかし迷っている猶予は私に残されていない。
「足元気をつけてください。」
ずぶ濡れになった服の裾を絞り一歩踏み出すと洞窟の中は温かかった。恐らくここは夏も冬も一定の温度の為過ごしやすいのだろう。一先ず雨風を凌げるようになったことに胸を撫で下ろしドクたまの子に腕を引かれながら出口を目指す。
「……そういえば、自己紹介がまだだったよね。みんなの名前聞いてもいい?」
雨音だけが響く不気味な空間で気を紛らわせようとこの場に似合わない話題を出した。するとみんなも私の意図を感じ取ってくれたのか途端に元気な声が反響する。
「はい!私は山ぶ鬼です!」
「「「僕はしぶ鬼/いぶ鬼/ふぶ鬼!」」」
「もう!一緒に喋ったら分かんないでしょ!」
「「「ごめん……。」」」
「ふふ。」
紅一点の女の子の自己紹介を待って男の子三人が同時に名乗りを上げる。怒ったように注意する山ぶ鬼ちゃんと弱々しく返事をする彼らに、きっと普段からこういう力関係なのだろうなと納得の笑みが浮かんだ。
「私はみょうじなまえです。学園に戻って落ち着いたら今度は明るい時に一緒に遊んでくれる?」
『勿論です!』
快いお返事が嬉しくて段々表情が緩んでくる。暗闇の中顔と名前が一致しないのが悔やまれるが楽しみは次の機会に取っておくとしよう。太陽の下でまた彼らに会えたら、今度こそ必ずその可愛い姿を拝んでみせる。
人知れず決意を固めていると少し先の方からそよそよと空気が流れ込んできた。髪が風に靡いて洞窟の終わりが近づいている事に気づく。私達はお喋りを一旦止め息を切らしながら早足で先を急いだ。
「あそこ、出口です!」
雨音が大きくなり狭い洞窟から唐突に視界が開けた。滴り落ちる雫の間で目を凝らしてみると見覚えのある景色。嗚呼そうか、ここは以前一年ろ組の子達と日陰ぼっこをした場所だ。
「そろそろ戻らないとばれちゃうので僕達この先には行けません。」
近道の偉大さに呆けていると気遣わし気な彼らの瞳が心に明かりを灯してくれた。危険を承知でここまで送ってくれたみんなに最大限の敬意と感謝を込め、私は目線を合わせ四人を抱きしめた。
「本当にありがとう。ここからなら一人で帰れるよ。」
静かにお礼を呟くとみんなも誇らしそうに私の背中に腕を回してくれた。よし、この温もりがあればもうひと頑張り出来そうだ。
「お気をつけて!」
「どうかご無事に!」
「ありがとう、みんなも気をつけて!」
私を奮い立たせる言葉を口々に掛けてくれる四人に別れを告げ足場の悪い坂道を下っていく。あの時繋いでいた次屋くんと左門くんの手は今ここにはない。一年ろ組のみんなもドクたまのみんなもおらず私一人だ。だけど。
きっともうすぐ、もうすぐ帰れる。
逸る気持ちに体が追いつかず一瞬視界が傾いた。あ、転ける。近づく地面に思わず目を瞑ったが恐ろしい事にいつまで経っても痛みは来なかった。
「な、に……。」
その代わりに私を支える一つの影。先程までは確かに誰もいなかった筈。気配も音もなく現れた何かが、耳元で私に優しく囁く。
「やあ、こんな夜更けに散歩かい?」
まるで世間話でもするかのような声色に総毛立つ。遠くで雷が光って小さく喉の奥が鳴った。
「我が城の殿が君をご所望だ。今度は私達に付き合ってもらうよ。」
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