二章
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「……は、」
今しがた目の前で起こった信じがたい出来事に口元がひくついた。隣で食べ終えた食器を片づけている滝夜叉丸はまるで気にしていないようでその腑抜けた面にも苛立ちが募る。
「……おい。」
「何だ三木ヱ門。次の合同演習に遅れてしまうぞ。」
「午後からの授業を気にしている場合か!!!!!」
「ん!?」
私の剣幕にさすがの滝夜叉丸も一瞬たじろぐ。大人しく昼食を取っていたはずの相手に突然激高され困惑しているこいつに少しの罪悪感も湧かないわけではないが、事は一刻を争う故致し方ない。
そもそも先輩としての指導の問題だろうこれは。私は憤りを抑えられず力のままに滝夜叉丸の腕を引っ張り騒がしくなっている調理場を指さした。
何だあれは。一体何だというのだ。
「お前の委員会の教育はどうなっている!???!?」
「お、落ち着かんか三木ヱ門。」
私達の視線の先にはあろうことかなまえさんの首に腕を回している次屋三之助の姿。彼女の困っている表情を気にする事もなく不躾にその体を密着させている。これを許しておける方がどうかしているのではないか。
「どういう了見であのような無体を働いている!?」
「む、無体……?三之助はなまえさんを姉のように慕っているのだ。そう目くじらを立てる必要も……。」
「お前はあれが姉弟の微笑ましい姿に見えるのか!?!??」
「いい加減私の肩を揺らすのをやめろ……。」
首がもげるのではないかという程滝夜叉丸の顔が前後に振れているが私の知った事ではない。こいつがあまりに呑気で頓珍漢なのが悪いのだ。
次屋のなまえさんに向けている表情。それが決して親愛等ではないということは一目瞭然だった。何故ならばその熱の籠もった穏やかな笑みに、私自身覚えがあったからである。
「そもそも仮に三之助がなまえさんを慕っていたとしてお前には関係のないことだろう。何をそんなに興奮しているのだ。」
「……っ、それは……。」
尤もなことを指摘され反論出来ずに言い淀む。そう、次屋が誰を好ましく思っていようが私には関係ない。しかし彼奴が無遠慮に彼女へ近づく度、彼女が戸惑いながらもそれを受け入れる度。無性に、どうしようもなく怒りが込み上げるのだ。
まるで己の欲に憑りつかれたかのように。
「……それもそうだな。悪かった。」
我に返った途端急に落ち着きを取り戻す。涼しいくらいに冷静になった思考は自身への嫌悪感を呼び起こし、胃の奥のものを吐き出してしまいそうだった。
「今日は何か変だぞ三木ヱ門。悪い物でも食べたのではないか?」
「お前に心配されずとも絶好調だ。」
「何を⁉この美しくて優秀な私が態々優しい言葉を掛けてやったというのに恩知らずにも程があ「次の授業遅れるぞ。」
「話を聞け!」
滝夜叉丸が喚くのを背中に聞きながらさっさと食堂を後にする。いかにも仲睦まじく笑い合っている三年ろ組と彼女の間に割って入りご馳走様を言う勇気は生憎持ち合わせていなかった。
見ないようにと視線を逸らした行為はまるで自分の本音からも逃げているようで。臆面もなく真っ直ぐ彼女に気持ちを告げられる次屋が羨ましくて恨めしい。こんな汚い感情、いっそ捨ててしまえれば楽だというのに。
なまえさんが誰かのものになってしまう。それが今の私にとって一番の恐怖であると、まだ認めてしまいたくはなかった。