二章
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山の中に入ると茹だるような暑さからは解放された。脇に聳える木々たちがきらきらと木漏れ日を降らせて幻想的な雰囲気を作り出している。しかし自然への感動とは裏腹に足は重い。学園を出発してから二時間。途中休憩を挟んでいるとはいえ山寺探しは中々に過酷だと思い知った。
「なまえさん、お疲れでしょう。近くに小川がありますので休憩にしましょう。」
「ご、ごめんね何度も足止めちゃって……。」
「いえ、こちらこそ足元の悪い道を歩かせてしまって申し訳ないです。」
肩で息をしている私を気遣って利吉くんが手を引いてくれる。小休止はこれで四度目。その度に数十分は時間を潰すことになるので付き合わせてしまっている彼への罪悪感が募るばかりだった。ちらりと隣を見上げると利吉くんは少しも呼吸を乱していなくて、やはり体の鍛え方が違うのだろうなと己の体力のなさを痛感する。
「ここに腰かけると足が水につきますよ。」
「本当だ、気持ち良いね。」
大きめの岩に並んで座り履き物を脱いで彼の言う通りに足を下ろす。勢いの弱い川の水はひんやりと私たちに涼をもたらし沸騰しそうな体温を正常なものへと戻してくれていた。良かった、これで倒れずにすみそう。
「おにぎり食べちゃおっか。」
「そうですね、これからまた歩き通しですし。」
包んでおいた竹皮を広げて数時間前に自分達で握ったおにぎりに齧りつく。うん、中身梅干しにしといて正解。塩分と酸味が体中に沁み渡り日本人で良かったと心の中で咽び泣く。
「美味しい。」
「本当ですね、外で食べるとまた味があるというか……。」
「あ、分かるかも。同じ食事でも場所が変わると余計に美味しく感じるよね。」
こういう感覚は時代を問わないのだろうか。恐らく利吉くんは私よりもずっと外での食事が多いのだろうけど。任務中はきちんとしたものが食べられてるとは考えづらい。こうやってのんびり誰かと外でご飯を食べるという行為は彼にとっても珍しいことなのかもしれない。
「……このような穏やかな時間がずっと続けば良いのですが。」
沢庵を一つ口に入れた彼がぽつりと呟いた言葉は川の音に吸い込まれて消えていった。それがどう意味なのか、なんて。愁いを帯びた瞳に見つめられるのが怖くて私は咄嗟に目を伏せた。
「……そうだね。」
短く答えると蝉の声だけがその場に響き渡る。お願い、どうか気づかないままでいさせて。残酷な祈りを胸の内だけに留め足元の水をちゃぷりと蹴った。